No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Expert Interviewエキスパートインタビュー

画期的な医薬品開発へ。微小重力環境を利用した「きぼう」でのタンパク質結晶生成実験

2019.12.20

山田 貢
(きぼう利用センター 高品質タンパク質結晶生成実験担当 主任研究開発員)

画期的な医薬品開発へ。微小重力環境を利用した「きぼう」でのタンパク質結晶生成実験

高度400kmで地球を周回するISS(国際宇宙ステーション)。ISSには、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が運用する日本の実験モジュール「きぼう」が設置されており、その中では日々さまざまな宇宙実験が行われている。そんな宇宙実験の1つが、タンパク質の構造を解析するための高品質タンパク質結晶生成実験だ。タンパク質は私たちの体内の生命現象のほとんどに関係しており、その構造の解析はさまざまな病気の治療や創薬にもつながる。タンパク質結晶生成の宇宙実験はどのように進められているのか、これまでどんな成果が上がっているのか、JAXAでタンパク質の宇宙実験に携わる山田貢氏に話を聞いた。

(インタビュー・文/岡本 典明 写真:黒滝千里〈アマナ〉)

タンパク質の宇宙実験はなぜ必要なのか?

山田 貢氏

── 宇宙実験に限らず、さまざまなところでタンパク質研究が進められていますが、そもそもタンパク質はなぜ重要なのでしょうか。

私たちの人体は、60%ほどが水、15~20%がタンパク質、残りが脂肪や骨などからできています。その15~20%のタンパク質が、生命現象のほとんどに関わっています。たとえば筋肉が伸び縮みするのはアクチンとミオシンというタンパク質が関係しています。髪の毛はケラチンというタンパク質でできていますし、皮膚にはコラーゲンというタンパク質があります。体内で働いているさまざまな酵素もタンパク質です。

私たちの体で起きている生命現象はほぼ全て、タンパク質が主役になって起きているのです。そのためタンパク質を研究することは、生命現象のメカニズムを明らかにすることにつながります。またタンパク質の働きがおかしくなると病気になってしまいます。タンパク質の異常を調べることで、病気の原因や治療法などについての研究が進みます。生命現象を理解する上でも、病気の治療や創薬という意味でも、タンパク質の構造を調べることは非常に重要なのです。

── 「きぼう」ではタンパク質の結晶を生成*1する実験が行われています。なぜ結晶にする必要があるのでしょうか。

タンパク質を結晶にするのは、タンパク質の構造を知るためです。モノの形(構造)と働きには相関があります。たとえばハサミの形は紙やひもを切りやすい形をしています。包丁は、あの形だから魚や肉を切りやすいのです。このように機能と構造は相関があり、表と裏のような関係になっています。タンパク質も同様で、構造と機能がリンクしており、構造を知ることがそのタンパク質の機能を知ることにつながります。

タンパク質が異常になることで病気になります。異常が起きたタンパク質の働きを止めたり弱めたりできれば、病気の治療薬の開発につながることが分かっています。タンパク質の形が分かれば、そのタンパク質のある特定の部位に化学物質を結合させることで、異常が起きたタンパク質の働きを抑えることができるのです。

ただ、タンパク質を顕微鏡で見ることはできません。そこでタンパク質を結晶化して、できた結晶にX線を当て、そのX線がどのように跳ね返るのかを調べるのです。そうすることで、あたかもレンズで小さなものを見るのと同じように、細かい構造まで知ることができます。X線結晶回折という技術なのですが、その技術を使うためにはどうしても結晶が必要になります。ある程度の大きさの結晶にする必要があるのです。

── タンパク質結晶生成実験を、なぜ宇宙で行う必要があるのでしょうか。

X線結晶回折をするためには、きれいに並んだ結晶、品質の高い結晶が必要です。その品質の高い結晶を作ることが地上では難しいのです。

品質の高い結晶では、X線が広い角度に跳ね返ります。広い角度で跳ね返ると、結晶のより細かいところまで見ることができます。品質の悪い結晶では、X線が狭い角度にしか跳ね返らないのです。表面がきれいな鏡はよく写りますが、表面が凸凹な鏡だと光がきれいに跳ね返らずによく写らないのと似ています。

[図1]X線結晶回折で現れた回折斑点
回折斑点の位置と濃さから、元のタンパク質の分子構造を復元できる。
出典:JAXA
X線結晶回折で現れた回折斑点

地上でタンパク質の結晶を作ると、作った結晶が重力方向に落ちてしまい、容器に衝突してしまうことがあります。容器からはがれずに取り出せなくなってしまったり、取り出す際に損傷したりすることがあるのです。宇宙の微小重力環境では、そういうことは起きません。

また地上では重力の影響で対流が生じ、結晶のまわりに大きな乱れが生じます。そのため結晶にタンパク質が取り込まれるときに、ゆっくりと正しく並ぶ時間的な猶予がなく、次から次へとタンパク質が供給されてしまいます。先に結晶に取り込まれたタンパク質が正しく並ぶ前に、次のタンパク質がやってきてしまうことで、結晶の中に欠陥ができてしまうのです。

一方、宇宙では対流がなくなります。タンパク質分子が、結晶の中にゆっくりと正しく取り込まれることで、結晶の品質が向上します。

[図2]国際宇宙ステーション
出典:JAXA/NASA
国際宇宙ステーション

[ 脚注 ]

*1
結晶生成:溶解度を下げる物質をタンパク質の溶液に入れることで、溶けきれなくなったタンパク質が結晶化する。結晶化することで、X線結晶回折によるタンパク質の構造解析が可能になる。
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