Expert Interviewエキスパートインタビュー
世界最大の電波望遠鏡を建設せよ!
人類の英知を結集して造られる「SKA」計画の全貌
2020.02.28
イギリス・マンチェスター南部の小さな街、マクレルフィールド。ここには、マンチェスター大学の天文物理学センター「ジョドレルバンク天文台」がある。50年代に建てられたこの電波望遠鏡は、昨年、世界遺産に指定。この地は電波天文学で歴史的に重要な場所であるだけでなく、その同じ敷地内には、スクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometer Array。以下、SKA)の本部も建設されている。SKAは次世代の電波望遠鏡開発として、現在、世界的に注目を集めているプロジェクトであり団体名。新しい電波望遠鏡の完成後は、銀河の誕生やブラックホールの解明など、基礎科学への貢献が期待できるという。SKAの創設メンバーで、宇宙物理学では世界的権威のロバート・ブローン博士に話を聞く。
スクエア・キロメートル・アレイ(SKA)とは
── まずは、SKAの成り立ちについて教えてください。
80年代は世界各地で巨大な天文台が建設された時代です。より高機能な新しい天文台を作るには、さらに巨大な天文台の建設が不可欠ですが、これまで以上に巨大で重量級の受信アンテナに耐えられる天文台を作ること自体が、技術的にも経済的にも不可能でした。
こうした中、1993年より、新たな方法を生み出そうと、私は世界各国の多岐にわたるサイエンティスト達を集めてリサーチを進めました。私の専門分野は、銀河から放出される中性水素の研究なのですが、この水素から放出される僅かな電波を観測することでさらに高機能な電波望遠鏡を作れないかと考えたのです。
その際、一つの巨大な受信アンテナに頼るのではなく、何百もの小型受信アンテナを広範囲の地域に間隔を広げて置くことで、より良い感度と解像度を可能にさせる方法に行き着きました。カメラを例にとると、レンズが大きければ大きいほど、感度が高いものです。すなわち、衛星受信アンテナが多ければ多いほど、天体観測の感度は良くなるわけです。また、解像度はカメラで言うところのズームのような役割ですが、この受信アンテナの間隔が広がっていればいるほど、ピントを合わせるのが簡単になる仕組みです。現在、ハッブル宇宙望遠鏡が光学望遠鏡では最高画質を誇っていますが、SKAが完成すれば、その50倍の高画質が期待できるのです。
SKAの正式名称である『スクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometer Array)』とは、世界中に置かれたSKAの衛星受信アンテナを一同に集めると、1平方キロメートルにも及ぶことを示しているのです。大概の場合、一つの巨大電波望遠鏡を開発すると、それでプロジェクトは終了してしまいます。しかしSKAでは、どんどんアンテナを足していくことで、より良い望遠鏡に改善することができます。このため、巷では、SKAは最もコスト効率が良い天文観測団体と言われています。
── これまでのところ、何カ国がSKAに参加しているのでしょうか?
2月10日現在で、13カ国が公式に参加しています。SKA本部があるイギリス、衛星受信アンテナが建設されているオーストラリアと南アフリカというホスト3カ国に加えて、スウェーデン、オランダ、フランス、スペイン、ポルトガル、イタリア、ドイツ、カナダ、中国、インドです。これらは、各国の政府より公式に参加していますが、その他にも、世界中に広がるサイエンスやエンジニアリングのコミュニティが、非公式でありながら協力を表明しています。
── 気になる建設費用は、どれくらいの金額になりますか?
今年から10年間で、受信アンテナの建設費や作動費を含めて約16億ユーロを予定しています。今年末までに、参加国それぞれの恩恵を考慮し、経済的負担を寄与という形で納めていただく予定です。
── イギリスには実際の衛星受信アンテナが設置されていませんが、何故、SKAの本部を構えているのでしょう?
実は、イタリアのパドヴァと本部の座を巡って競った経緯があります。パドヴァ大学は、その昔、あのガリレオも講義したことで知られますからね(笑)。ただ、イギリスのケンブリッジ大学では、あのニュートンがいただけでなく、SKAのアイディアの元である干渉計(周波数を持つ波形を解析して、物理量を測定する装置)を発明しています。また、マンチェスター大学は電波宇宙学の分野で定評があるだけでなく、その誕生に多大に寄与した『ジョドレルバンク天文台』は、同大学の所有機関です。この美しい構造の衛星受信アンテナの電波望遠鏡は、昨年、世界遺産にも指定され、年間20万人もの人々がビジターセンターを訪れています。より多くの人びとが、このプロジェクトに関心を持ってもらいたいという願いを込めて、マンチェスター大学の敷地内であるジョドレルバンク天文台の横にSKA本部を建設させていただいたのです。
── イギリス本部は、昨年開設されましたが、現在、何人の人が働いていて、業務的には何をしているのでしょう?
本部では、18国籍、約100名のスタッフが働いていて、シニアマネジメントやファイナンスが主な仕事です。SKAはグローバルな協力体制の元に誕生した団体のため、そのプロジェクトマネジメントは複雑です。本部では、各プロジェクトのコーディネーションのお手伝いをするだけでなく、メンバー全員の共通理解を深めるために積極的にカンファレンスも開催しています。
── 現在、SKAはロードマップの、どの段階にいるのでしょうか?
SKA設立のアイディア自体は、25年以上も前から存在していましたが、現在はフェーズ1の最終段階にいます。実現に向けて、サイエンティストとエンジニアが協力体制を強化している最中です。昨年末に全システムの最終確認書を提出し、受理されました。現在は、衛生受信アンテナの建設申請書を作成中という非常に重要な時に来ています。現段階では、SKAは2027年から2028年に完成予定となっています。ここで、フェーズ1は終了ですが、私たちには新たな野望があります。何百何千もの衛星受信アンテナを追加することで、さらにパワーアップした電波望遠鏡を作りたい。これこそがSKAのフェーズ2です。オーストラリア、南アフリカだけでなく、他のアフリカ諸国にも広げたい。現在、ナミビアにも衛生受信アンテナはありますが、未来的にはボツワナ、マダガスカル、ケニア、ガーナなどにもアンテナを建設したいと考えています。