No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Expert Interviewエキスパートインタビュー

2種類のアンテナ:ディッシュとクリスマスツリー

ロバート・ブローン氏

── SKAには低周波、中周波、そしてパラボラの3種類のアンテナが存在するとお聞きしています。

まず、パラボラアンテナからご説明すると、これはSKA開設当初に考えられた調査用のアンテナですが、中周波アンテナで充分対応できるため、現在は全く開発していません。例えば、オーストラリアの『ASKAP*1』は、調査目的のアンテナとして、開発されました。位置づけに優れ、高速で画像を受信する優れたアンテナで知られていますが、現在、SKAの開発からは外れています。

現在、SKAのアンテナ開発は、中周波の「SKA1-mid」と、低周波の「SKA1-low」の2種類に移行しています。通常の電波望遠鏡は、特別な周波数に設定されていますが、SKAの電波望遠鏡では、15〜50ギガヘルツという非常に広範囲の周波を受信するため、二つのタイプのアンテナが必要となります。FMラジオの周波数が、大体、90〜100メガヘルツですから、SKAがいかに低周波に優れているかもお分かりいただけると思います。それ故、宇宙創生の初期の星の僅かなシグナルも、SKAの望遠鏡では捉えることが可能となるのです。

── 南アフリカは『MeerKAT』。オーストラリアは『マーチソン電波天文台』がSKAのアンテナ設置場所となっていますが、その関係を教えてください。

『MeerKAT』には、南アフリカが独自に開発した衛星アンテナ群が存在しますが、SKAのパートナーとなり技術統合が進められています。これが、先ほどご説明したSKA1-midですが、私たちは、便宜上、このアンテナを「ディッシュ」と呼んでいます。現在、64のディッシュがありますが、これを260まで増やす予定です。オーストラリアでは、SKAはマーチンソン電波天文台の協力のもと、SKA1-lowという独自のアンテナを開発しました。私たちは、その形状から「クリスマスツリー」という通称で呼んでいます。

「ディッシュ」と呼ばれる南アフリカ「MeerKAT」の中周波アンテナ群(SKA1-mid)(想像図)
Meer とは、カルー地帯の言葉で、moreという意味。KATはKaroo Array Telescope の略で、この地域に生息するミーアキャットをもじっている。2月中旬、ドイツから4億ラント(約2500万ユーロ)の投資が決まり、ディッシュの増設は確定となった。
©SKA
MeerKAT
オーストラリア「マーチンソン電波天文台」のアンテナ群(想像図)
ASKAPのパラボラアンテナ群と大量の低周波アンテナ(SKA1-low)で構成される。
©SKA
オーストラリア「マーチンソン電波天文台」のアンテナ群
SKA本部に置かれている低周波アンテナ「SKA1-low」
SKAのオリジナル・デザインによる、このアンテナは中国製。SKAでは「クリスマスツリー」と呼ばれており、去年のクリスマスシーズンには、イギリス本部で、実際のクリスマスツリーとしてデコレーションが飾られたという。
SKA本部に置かれている低周波アンテナ「SKA1-low」

── 南アフリカもオーストラリアも砂漠地帯が選ばれていますが、これらのアンテナは乾いた地域が適しているからでしょうか?

ラジオ、携帯電話、WiFiといった文明から遠く離れていることが、一番の理由です。これらのノイズは、SKAの電波受信の妨げとなるためです。また、南半球からの観測が地理的に、銀河の中心部やブラックホールを捉えるのに最も適していることも要因の一つです。歴史的に、天文台が南半球に多く作られてきたのは、そういう理由なのです。

── 南アフリカのアンテナ群とオーストラリアのアンテナ群は、SKAの電波望遠鏡では個別に使用されるのでしょうか? それとも、同時に組み合わせて使用できるのでしょうか?

それは非常に良い質問ですね。両者は、中周波と低周波と周波数が異なり、個別に開発されましたが、科学的には多くの共通点がありますので、サイエンティストの半数は、どちらも研究に使いたいと考えています。ただ地理的に、両者は同時には使用できません。ですから、最初はオーストラリアから観測し、地球の回転とともに、南アフリカへと移っていきます。

ソフトウエア・テレスコープの誕生

ロバート・ブローン氏

── 先程からお話を聞いていますと、SKAのアンテナ群は相当量のデータを受信しているように思えます。一体、どれほどのデータ量を、どのように処理し保管するのでしょうか?

SKAが作動すると、南アフリカ、オーストラリアの両方の電波望遠鏡は、各々、1秒間に約8テラバイトのデータを常に受信することになります。これは、通常の家庭用ブロードバンドの10万倍のスピードです。この量を1日24時間、毎日のように受信するとなると、全てのデータを保管することは不可能です。そこでコンピュータが、画像データのパターンを理解して、重要かどうかを判断し、必要なもののみを自ら保管する「マシンラーニング」を活用したソフトウエアを開発中です。

── アメリカをはじめ一般の人々は、このような機能を総称して「AI(人工知能)」と呼びますが、イギリスを中心とした欧州では「マシンラーニング」が提唱されています。SKAは、マシンラーニング派なのでしょうか?

SKAでは、マシンラーニングを支持しています。なぜなら、コンピュータが完全なAIとして作動するには、まだまだ相当な時間がかかるからです。現在、データの判別及び保管作業をしていますが、この保管量は1年間に600ペタバイトを予想しています。

── それは、まるで、スイスのCERN(欧州原子核研究機構)並みのデータ量ですね。

実は、CERNはSKAの重要なパートナーで、データの保管保有量を大幅にアップするスーパーコンピュータを共同で開発しているのです。

10〜50テラバイトという重い画像を、サイエンティストが手元のPCでダウンロードしようとすると、大学のような教育機関でも、その処理をするのは無理でしょう。だからこそ、CERNとSKAはスーパーコンピュータを共同開発し、重い画像を画像処理して扱いやすくする必要があるのです。

── SKAは、天文関連の技術開発だけでなく、インフォメーションテクノロジーの領域にまで、技術開発が及んでいるように聞こえます。

その通りです。SKAは、その特性から巷では「ソフトウエア・テレスコープ」とも呼ばれています。多くの学問領域をまたぎ、サイエンスのあり方を変えてきたと評価されているのです。一見すると、宇宙とは全く関係ない分野のコンピュータ関連の技術開発が、SKAのプロジェクトを通じて、どんどん発展していく。科学の発展と、技術の発展が切磋琢磨してお互いを高めあっているのが、SKAのユニークな特性なのです。

[ 脚注 ]

*1
ASKAP(Australian Square Kilometer Array Pathfinder):オーストラリアのマーチソン電波天文台が建設した電波望遠鏡施設。SKA試験機としての側面を持つ。直径12メートルのパラボラアンテナ36個で構成され、約4平方キロメートルの集光面積を持っている。
Cross Talk

本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

本間教授に聞く!
史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

前編 後編

Series Report

連載01

系外惑星、もうひとつの地球を探して

地球外知的生命体は存在するのか?

第1回 第2回 第3回

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

過去や未来へ旅しよう!タイムマシンは実現できるか?

第1回 第2回 第3回

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK