No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Expert Interviewエキスパートインタビュー

SKAの科学目標と人々の生活との関係性

ロバート・ブローン氏

── SKAでは、科学的目標が幾つか定められています*2が、最初に「一般相対性理論への挑戦」についてご説明ください。これはアインシュタインの相対性理論が、ブラックホール上でも適応できるかを証明するものと伺っています。

大概の理論は不完全であるため、時間経過とともに失敗に終わることが多いものです。そのような中、アインシュタインの理論は未だに改良さえされていません。それは、驚くべきことです。しかしながら、私たちが実験を続けていく中で、彼の相対性理論は不完全であることが分かってきました。アインシュタインの理論は、極めて高密度で知られるブラックホールや、原子のように非常に小さな物体を見る場合は、適応されないのです。

SKAから導かれた研究は、人が引力について知っていることと、知らないことのギャップを埋める存在になるはずです。例えば、銀河の中心にあると考えられているブラックホールの探索に努めることは、全宇宙を完全に理解することに、一歩近づきます。

サイエンティストには、理論追求型と、科学的事実からその理論の正当性を証明することで新たな理論を築くタイプの2種類に分かれますが、SKAは後者の存在であることをご理解していただけると思います。

── ダークエネルギーとは、そもそも何なのでしょう?

銀河中に存在する星のような可視物質は、直接観測によって測定できますし、銀河の回転から、その総量も計算することができます。しかしながら、そこには重要な問題が抜け落ちています。銀河の総量は、可視物質の10倍以上だと考えられるのですが、実際には9割の物質が、私たちには見えていないということです。なぜ、このようなギャップが生じているのでしょうか? 最も簡単に説明すると、そこには何かがあるのですが、私たちにはその何かが見えないだけか、そこすらも見えない。これを「暗黒物質」と、天文学では呼びます。また、アインシュタインの理論に話が戻りますが、銀河のような広い空間の中で、星が高速で動く状態では、我々が理解しているような引力が働くかどうかも定かではないのです。

「ダークエネルギー」は、この「暗黒物質」上に存在する、また別の問題です。宇宙上には、その理論が予言するよりも、引力が弱い場所が存在するだけでなく、物質が分離するのを抑える引力に逆らって、得体の知れない力が働いている場所があるかもしれない。これが、「ダークエネルギー」の考えです。

「暗黒物質」そして「ダークエネルギー」は、観測が理論の先を行くケースであり、私たちに、自然の持つ驚きを与える好例です。SKAの望遠鏡を用いた観測により、新しい現象を予測できれば、より良い理論を創造することができるでしょう。

── 私たちが普段目にする宇宙写真は、実は最近の宇宙ではなく、随分と昔のものであると聞きます。

「宇宙の再電離時代」のテーマは私の研究テーマではありませんが、是非これについて、簡単に説明させて下さい。光は、ある一定の速度で進みます。すなわち、遠く離れた物体を見るということは、時代を遡って眺めているということなのです。太陽であれば、私たちが見ているのは、8分前の姿ですし、銀河の中心ともなると3万年も前のものとなるのです。

地球で目にする太陽の光は、8分前のもの
©Pixabay
地球で目にする太陽の光は、8分前のもの

これが電波を用いると、138億年前のビッグバンから30万年後の「宇宙の晴れ上がり*3」にまで遡ることが出来ます。これは電波望遠鏡にしかできません。何故なら、この晴れ上がりから7億年以上もの間、全てのものは冷たく暗くなるため、可視光線は妨げられてしまうのですから。この時代こそ、「暗黒時代」です。この時代の終わりが近づくにつれて、次第に宇宙は暖められていき、最初の星や銀河が形成され、可視光線が通過できるようになりました。これを、私たちは、「宇宙の再電離時代」と呼んでいるのです。

SKAでは、中性水素ガスから放たれるわずかな電波の光線を測定することで、宇宙の夜明けから再電離時代の終わりまでの間の様々な時代の写真を、撮影することが可能になります。その時代から現在に至るまでの間、想像もつかないことが起こっていたのです。私たちが生きる宇宙とは、なんて奥深くエキサイティングなのでしょう。

── 宇宙磁場とは一体何で、SKAの活動とはどのような関係があるのでしょうか?

磁場というものの存在があってこそ、私たちはこの地球に存在することができるのです。地球の磁場こそが、太陽からの電離放射線や、超新星爆発の際に放出されるX線やガンマ線などから、私たちを守ってくれているのですから。磁場がなかったら、これらの放射線は私たちを殺していたでしょう。

しかしながら、一度、宇宙に出てしまえば、磁場の保護はなくなってしまいます。このことが宇宙飛行を難しくしているのです。仮に人が火星に行くとなると、3ヶ月の月日がかかりますが、その間、放射線を浴び続けることになります。宇宙船の電子機器は、この環境に耐えられるように設計されなければいけません。乗船する人も、できる限り保護する必要があります。そのために考えられる対策としては、例えば水深1メートルの水が周りを覆う間仕切りを作ることなどでしょうか。放射線には物質を通り抜ける「透過力」がありますが、放射線の中で透過力が強い中性子線でも水を通り抜けることはできないからです。

他の望遠鏡も惑星の発見などに非常に優れていると思うのですが、SKAの望遠鏡は、どの惑星が磁場を持っているのかを探知できるのです。そして、磁場を持つ惑星こそが、磁力で守られた繭のようになり、複雑な生態系を可能にさせているのです。

もっと大きなスケールのことを話すと、磁場は、分子が動くスピードに影響し、それが化学現象に作用し、ひいては銀河形成へと進んでいく。これこそ、人々が期待している以上に重要な事象です。初期の宇宙は、その殆どが水素とヘリウムガスでした。その他の要素は、恒星がその寿命を迎えて爆発した時に形成されたのです。加えて、惑星間の間隔がちょうど良かったため、私たちの住む地球は生命を持つことができたのです。磁場は、こういった新しく形成された要素を、生命を形成する物質へと導いたのです。SKAの望遠鏡により、こういった宇宙初期の磁場による生命の誕生研究も盛んに行われるでしょう。

[ 脚注 ]

*2
SKAの科学的目標:SKAは天文学最大級の謎の解明を活動目的としており、以下のような科学的目標を発表している。「銀河の進化、暗黒エネルギーの解明」「一般相対性理論への挑戦」「宇宙に存在する磁気の3次元地図の作製」「最古のブラックホール、最古の星の形成の解明」「太陽系外惑星の生命探査」など。
*3
宇宙の晴れ上がり:ビッグバン理論における宇宙開始以来、初めて光が直進できるようになった時期のこと。ビッグバンにより誕生した直後の宇宙は高温で、大量に飛び交う電子と光が衝突を繰り返すため、霧がかかったように不透明だった。しかし、ビッグバンから約38万年後、宇宙の温度が3000ケルビン(2726.85°C)まで下がったことで、電子と原子核が結合して原子となり、光と衝突しなくなったため、宇宙は霧が晴れたように透明になった。
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本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

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