No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

連載01

実用化が間近に迫る究極のバッテリー、全固体電池

Series Report

第2回
ウェアラブルを美しくタフにする酸化物型全固体電池

2020.07.31

文/伊藤元昭

ウェアラブルを美しくタフにする酸化物型全固体電池

全固体電池と聞くと、電気自動車(EV)向けの高性能バッテリーだと思っている人が多い。これは一面正しいのだが、全固体電池の実用化によってイノベーションが起きるのは他の分野も同様だ。しかも、あまり知られていないことなのだが、全固体電池が最初に実用化するのは、EV向けではなく、スマートウォッチなどウェアラブル機器向けである。ウェアラブル機器のように、常に身に着けて使う機器は、何より安全性を重視して開発する必要がある。しかし、既存のリチウムイオン二次電池には、数少ない欠点として安全性に不安をかかえている。この不安を解消するための解として期待されているのが全固体電池なのだ。全固体電池の最新動向を紹介している本連載、第2回はウェアラブル機器、さらにはIoTデバイス向けのバッテリーとして開発が進められている、酸化物型全固体電池について解説する。

電子機器の進化の方向性にはいくつかのハッキリとしたトレンドがある。継続的な高性能化と多機能化、繰り返される汎用化と専用化、システム構造の分散と集中などはその代表例だ。そして、コンピュータの分野では、「ダウンサイジング」もこうした電子機器の進化トレンドの1つになっている。

ダウンサイジングとは、同じ機能、性能の機器を、技術の進歩によって、より小さく実現していくトレンドだ(図1)。発明されたばかりのコンピュータは、大きな部屋を占拠するほど巨大だったが、それが卓上に置けるパソコンへと進化し、スマートフォンの登場でポケットに入るサイズにまで小型化した。こうした小型化が進むにつれて、コンピュータは、日常生活の中で利用する身近な機器へと変わり、利用シーンを広げていった。

[図1]コンピュータのダウンサイジングの流れ
作成:伊藤元昭
写真:AdobeStock
コンピュータのダウンサイジングの流れ

こうしたコンピュータのダウンサイジングは、システムを構成する半導体や受動部品など電子デバイスが小型・高性能化することで実現した。当初のコンピュータは手のひら大の真空管を大量に使って処理回路を構成していた。これが、最新のパソコンやスマートフォンに搭載されているマイクロプロセッサでは、わずか数㎝角のチップ1つの中に真空管と同じ機能を持つトランジスタを数十億個も搭載している。まさに、電子デバイスの小型化なくして、現在のデジタル社会は生まれなかったといえよう。

話題性はあるがウェアラブル機器の存在感は未だ小さい

現在、スマートフォンをさらにダウンサイジングし、新たなコンピュータの利用法を開拓する役割を期待されているのが、スマートウォッチやスマートグラスなど、ウェアラブル機器である。ウェアラブル機器は、主に人の健康状態や活動状況をつぶさに知るために利用される機器であり、既にアメリカ・アップル社のスマートウォッチ「Apple Watch」のように広く普及した製品も登場した。

ところが近年、コンピュータのダウンサイジングは行き詰まりつつあると言える。そしてこの行き詰まりは、コンピュータの利用シーンや利用者の拡大を阻害する大問題になっている。

スマートフォンは、世界中のあらゆる人にほぼ行き渡った。電話線が引かれていない土地に住む人も、スマートフォンを利用して、当たり前のように情報収集したり、コミュニケーションを取ったりするようになった。ところが、ウェアラブル機器は、着実に市場が拡大し、応用も広がっているものの、いまのところスマートフォンに匹敵するほどの存在感を示しているとは言い難い。

iPhoneの登場から5年経過した時点では、少なくとも先進国の消費者に行き渡っていた。一方、Apple Watchの発売から5年経過した現在、ウェアラブル端末を身に着けているのは、高感度な消費者に限られている。

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