No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Expert Interviewエキスパートインタビュー

最大の可能幸福度は8.5

ルート・フェーンホーヴェン氏

── EHEROには、多数の幸福研究を保存したデータベースがあります。これは幸福度調査の結果を利用して行われた研究なのでしょうか。そして、こうした研究はオープンソース*2になっているのでしょうか。

1970年代にデータベース化を始めた頃は、研究数も少なく一人で管理できました。しかし、データベースはその後どんどん拡張しています。今では15人のボランティアのチームが管理しているものの、研究の数は増える一方で、それでも難しくなってきました。最近、各国にアソシエートを任命して、彼らが独自に研究結果を加えるなどしてオープンソースで管理しています。

── 幸福度調査を始めて以来、急に幸福レベルが上下したケースはありますか。

下がったケースの方が目立ちます。例えばシリア内戦やウクライナ危機の時がそうです。一方、急に上昇したことはなく、だんだんと上がっていくということが多いのですが、その顕著な例はデンマークです。すでに世界一幸福な国なのにまだ上がるという興味深いケースで、幸福度は1970年代の7.4から、今では8.4となっています。つまり、50年間で1ポイントも上昇したのです。スタート時点が低ければそれもあり得ますが、彼らはすでに幸福だったのですよ。最大の可能幸福度は8.5と見ていますが、それに近い数字です。10になることが決してないのは、社会がすべての人々を幸せにすることは不可能だし、また人生にはいずれ死ぬという悲惨があるからです。

── デンマーク人が、もうこれ以上はないというほどに幸福になった背景は何ですか。

まず裕福な国だということがあります。そして民主主義国家ですが、その民主主義が人々の生活に影響を与えるかたちで浸透しています。国としてのアイデンティティーも強く、自由度も高いのです。自由度は70年代からさらに伸びました。第二の女性解放の波はことにスカンジナビア諸国で成功しており、家庭と仕事を両立することが本当に可能になっています。もちろん高い税金を払ってのことですが…。

エラスムス幸福経済研究所(EHERO)

── 何を幸福と定義するかについての人々の考え方は変わっているのでしょうか。例えば、スウェーデンでは豪華な生活を求めないで、適度な豊かさをよしとする傾向が強いと聞きます。アメリカでも、無駄なモノを所有しないシンプルな生活を理想とする若い世代が育っています。

変わるのはどんな人生が最良か、自分の理想を何とするかであって、自分の人生が好きかどうかという意味での幸福の定義は変わりません。それを頭痛で説明しましょう。頭痛はどの国でも同じですが、なぜ頭痛が起こっているのかという原因はそれぞれ違います。文化によっては頭の中に悪魔がいるとか神の罰だと考えるでしょうが、一般的には生化学的に脳の異常だとされます。つまり、その説明は色々あっても、頭痛という科学的な概念は変わらないということです。

── 社会学者としてはそのように見られるわけですが、個々人はいつも幸せを手に入れたいと願っている。これらは別々の問題だということですね。

そうです、別々です。ただ、何が幸せに繋がるかについての見当はあります。ただ、それが効くこともあればそうでないこともある。子供を持つことを例に挙げましょう。これはよくある問題です。ことに多くの女性にとっては、幸福な人生は母親になることで実現するとされています。出生率が低ければ、政府がそんな考えを推進することもあるでしょう。しかし、それは本当なのでしょうか。

調査をすると、明快な回答はありません。子供を持つ人々はより幸せな傾向があるという一方で、現実に子供がいると幸福度が下がります。ですから、実証研究が持つ役割は、子供を持てば成長するまでの20年間は幸福度が下がるという代償があるという情報を与えて、人々が知識に基づいて決断を下せるようにすることなのです。

別の例は、外国への移住です。この国は幸せではないので、もっといい国へ移住すればいいのではないかと考えるわけです。しかし、現実はそうではありません。移民として生きるのは、そこに生まれ育った人と比べると幸せ度が低いのです。健康に関する調査もしていますが、そこではどんな環境だと健康を保てるのか、人生でどんな選択をすると健康に悪影響があるかといったことを探ります。それを元により良い選択をして欲しいのです。

── 幸福度と他の要素との相関関係を調査した結果から、そうした視点が提供できるということですね。

その通りです。その情報を個人、組織、政府に提供するのです。しかも、現時点では提供できることがかなり増えています。もちろん、人生で直面する選択のすべてをカバーすることはできませんが、いくらかは役に立てるはずです。

[ 脚注 ]

*2
オープンソース:参加者が無償で利用、貢献できるプラットフォーム。ソフトウェアの開発においてソースコードを無償で公開し、自由に利用、修正、配布できるようにしたことで、よく使われるようになった表現。
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