No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Expert Interviewエキスパートインタビュー

仕事の生産性を上げるのは、人生全体に対する満足感

ルート・フェーンホーヴェン氏

── 幸福については、いろいろな表現があります。「ハピネス」、「ウェルビーイング」、最近は「マインドフルネス」という言葉も出てきました。どんな表現を使うかに決まりはありますか。

私が幸福と同意語だとしているのは、「人生の満足感」です。「ウェルビーイング」とは現象に関わるもので、何であってもいい状態に関して使われる言葉です。清潔な道路のような状況も指します。主観的なウェルビーイングになると、幸福もその一部ですが、そうでないものもあります。例えば、自分は優秀だと自尊心が高いとしましょう。それは主観的なウェルビーイングの一部と言えますが、傲慢になり、あまり幸せでないこともあるのです。

── 企業など、組織の幸福度についてはどうでしょうか。個人を超えた調査も行いますか。最近は、組織としての幸福度が生産性に結びついているという見方が出ています。

企業は生き物ではないので、企業が幸福だという表現はできません。そこで働いている人々が幸せかどうかという問題です。これは、幸福を感じる社員はよく働き、ひょっとすると昇給の必要性も低くて済むとか、労働不足の時代には職場での幸せ度を上げる必要があるといった文脈でよく語られることです。今では、職場での満足度を上げることを専門にするプロもいます。

実は、今ちょうど博士課程の学生とその調査をしているところです。ここで探っているのは、どんな幸福感や満足感が高い生産性につながるのかです。驚いたことに、それは仕事での満足感ではありません。それよりも、生産性を上げるのは自分の人生全体に対する満足感なのです。人生における満足感には感情的要素が含まれており、いい気分の人はだいたいいつもいい気分で、仕事でもその気分が続いて、その結果生産性が高くなります。ポジティブ心理学ではこの分野について多くの研究がありますが、いい気分の人は自分にだけ目を向けるのではなく、認識が広がり、新しい問題解決法を編み出すようなクリエイティビティーを発揮します。また彼らは、社交性があり活動的です。

ある意味でこれは企業にとっての難題となります。というのも、仕事をより楽しいものにして職場での満足度を上げることはできても、人生全体の満足度に影響を与えるのは難しいからです。いや、日本では職場が代理家庭のような面もありますから、西欧よりは簡単かもしれません。西欧では、プライベートな生活と仕事とは分かれていて、また職も度々変えるので、企業が社員の幸せ感に影響を与えるのは難しいのです。

ルート・フェーンホーヴェン氏

── 今やテクノロジーは生活と切り離せなくなっていますが、テクノロジーは幸福度に影響を及ぼしますか。

影響は良い面と悪い面との両方があります。悪い面からお話ししましょう。人類は最初狩猟生活をしていました。その頃テクノロジーと言えば、火と弓矢があったくらいです。その後、素晴らしい発明が起こりました。鋤(すき)です。これでもっと多くの食料が生産できるようになり、それによって専門化が起こります。生産量が多ければ、鍛冶屋のような専門家を雇うこともできます。これは大きな進歩ですが、同時に農業のために人々を土地に縛りつけます。また、自分たちで消費できる以上の食料が採れると資源として溜め込むわけですが、それを奪う専門家が出てくるのです。彼らはマフィア的な支配階級で、後に貴族と自称します。彼らの間でも殺し合いをして、より大きな分け前を手にしようとしました。

当時の幸福度は不明ですが、人々がどれだけ健康で長生きしたかを計測することは可能で、農業時代、ことに封建時代の生活の質は落ちています。再び上昇に転じるのは産業革命後で、それ以来、生活の質、幸福度、寿命は現在まで伸び続けています。日本についてはやや違った現象があり、寿命は伸びたものの、幸福度は過去50年間変わっていません。長期的には上がっていくと思われますが…。

── デジタル・テクノロジーの影響はありますか。

幸福度とインターネット利用との関係を調査しましたが、唯一のネガティブな影響は特に若い年代で中毒気味な人々に見られたものです。彼らはオンラインでの知り合いはたくさんいても、現実世界ではそれほどいません。一般的には、インターネットは生活を向上させ選択肢を増やしてくれるものです。生活の基盤が安定していて幸福度が6であれば、デンマークの基準にまで持ち上げてくれるのは人生における選択肢です。ただ、選択肢を有効にするには、誰もその選択を禁じないことが重要ですが、同時に良い情報に基づいていなければならず、選択する度胸も必要です。そうしたことは、社会性、特に教育を通して取得するのです。

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