Expert Interviewエキスパートインタビュー
画像認識技術の対象として、バスケットの試合は極めて高難度
── 画像認識技術の一種であるモーショントラッキング技術の応用先として、バスケットというスポーツには、どのような意義や特徴があるのでしょうか。
小山 ── 実際に、Bリーグと一緒に取り組み始めて気付いたことなのですが、バスケットというスポーツは、数ある画像認識の応用の中で思いのほかハードルが高い対象だったのです。手持ちのモーショントラッキング技術を使えば、簡単に選手やボールの動きを補足して記録できるのではと思っていたのですが、実際には簡単ではありませんでした(図1)。試合中には選手が入り乱れて選手同士で重なる場面も多く、しかも、動きが速い。そして、選手の体勢や向く方向もコロコロと変わってしまいます。これらは画像認識の条件として厳しいものばかりです。
── ほかのスポーツは、バスケットに比べると応用しやすいのでしょうか。
小山 ── 応用先としてバスケットに取り組む前に、野球の解析を試したことがあるのですが、野球は選手の位置が定まりやすく、カメラを固定できるので、画像認識の対象としてはやりやすかったように感じます。サッカーは、バスケットと似たところがあり、これも難しい対象ですね。しかし、プロバスケットリーグの試合は、それにも増して難しい要素が目白押しでした。
例えば、プロバスケットのコートにはチームのロゴが描かれていたりしますが、選手が着ているユニフォームも同じチームカラーだったりするので、カメラからは一体化して見えてしまいます。それに比べればサッカーは、ピッチと選手が区別しやすいです。また、バスケットは観客席が低く近いため、背景でビールを持った観客が動いていたりすると、選手の動きと区別しにくくなってしまいます。動きを補足すべき対象を切り出しにくいスポーツなのです。
スポーツで先端技術を磨く「画像処理のF1」
── 現場での試行錯誤による技術のブラッシュアップが大切になりそうですね。
小山 ── もともと私たちは、社内に「レッドウェーブ」という女子バスケットチームを持っていて、初めは、その練習場で社内検証していました。しかし、男子の日本代表選手ともなれば、動きが一段とスピードアップしますから、そのスピードに追随できる技術にブラッシュアップしていく必要があります。その際、Bリーグや日本バスケットボール協会が好意的に協力してくれて、試合会場のセンターで楽々悠々と選手の動きなどを撮影させてもらえました。システムエラーが出る場面の検証などに、とても役立ちました。
── スポーツ自体が、先端技術を磨く場になっているという意味では、プロバスケットボールリーグは、まさに「画像処理のF1」ですね。
小山 ── その通りですね。ただし、画像処理技術を開発、応用する立場から見れば、これほど難しい対象に出会えたことは幸運なことです。おそらく、バスケットの試合を対象にしてモーショントラッキングを支障なく活用できるようになれば、先進的な人やモノのモニタリングや医療やリハビリなどでの活用など、多くの新しい応用を切り拓くことができるでしょう。