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写真:DOCOMO Open House 2020 東京 お台場 東京ビッグサイトにて(2020年1月24日)
5G通信が始まる中、早くもBeyond 5Gや6Gといったキーワードが聞こえ始めた。5Gの進化はまだこれからだが、大容量・低遅延に加え、多端末接続という携帯電話に限らない特長も加わった。2030年代に普及し始めると言われる6Gでは、大容量・低遅延について10〜100倍の性能を謳っているが、多端末接続に代わる「新しさ」は何になるのか。6Gは、まだ絵に描いた餅にすぎない存在であるものの、では、どのような絵を描くのか。そこに焦点が集まっている。これまで携帯電話通信業界をけん引してきたNTTドコモが描こうとしている6Gの絵とは一体どのようなものなのだろうか。大容量化と低遅延以外に、6Gで大きく変わるのは何か、NTTドコモで技術をけん引している執行役員6G-IOWN推進部長の中村武宏氏に6Gについて聞いた。
(インタビュー・文/津田 建二)
中村 ── これらの数字はあくまでも目標値であり、まだ実現していません。データレートに関してはダウンリンクで5Gbps程度は達成できています。遅延については、通信距離をはじめとする諸条件によって違いますが、数十msくらいまで短くなってきたものの、まだ数msレベルまでは来ていません。これは弊社だけではなく、世界的な状況です。しかし今後はネットワークの性能や端末性能が上がってきますし、転送速度、遅延性能も上がってきますので、目標達成の可能性は十分あります。
中村 ── その通りです。3G、4Gの時も導入当初は目標達成できていませんでしたが、徐々に性能が上がってきて4〜5年かけて目標達成されたと思います。また、3G、4G、5Gと進化するにつれて、普及するスピードも上がってきています。
中村 ── 通信オペレータに加え、ローカル5Gに代表されるプライベートNWへの期待(図1)が高まっているため、競争が激しくなってきています。プライベート用途や企業でローカル5G使うケースが多いようです。ローカル5Gは電波の干渉を受けにくく、Wi-Fiと違って切れる心配もないので工場などでの利用に向いています。NTTドコモのような公衆網の移動通信オペレータにはローカル5Gの周波数の免許は割り当てられませんが、技術サポートはできますし、NTTグループとしても対応しています。
中村 ── 空港は当然、公衆網の5Gはエリア展開しています。空港で働く業者様が実際にローカル5Gを利用しているかどうかは把握しておりませんが、空港のような限られたエリアで、無線通信を活かしたいろいろな制御や操作、監視ができるのは、良いユースケースだと思います。ローカル5Gはこれまでなかった技術なので、たとえ今まだ使われていなくても、今後は使われるべき応用だと思います。
中村 ── 実は明確な定義はないようです。総務省が2020年12月に「Beyond 5G推進コンソーシアム」を立ち上げた時に、6GではなくBeyond 5Gとしたのは、恐らく6Gのさらに先も見据えたからではないでしょうか。
あるいは、導入段階の5Gを初期の5Gと捉え、5Gの高度化も含めてBeyond 5Gとしたのかもしれません。これら二つの考え方を合わせて、5Gの高度化と6Gの先までも含めてBeyond 5Gとすると、広い概念で問題を捉えることができると思います。
ただ、これからはBeyond 5Gを6Gとして捉えて議論していくのがよいと思います。世界的にも6Gとして議論が進められていますので。
中村 ── 当社も公表していますが、世界的には5Gの10〜100倍の性能を目標としているようです(図2)。最近、発行したBeyond 5G推進コンソーシアムの白書でも、この性能目標が書かれています。
中村 ── 5Gまでにはなかった6Gの大きな変化点は、エリアの飛躍的な拡大、拡張です。5Gまでは人がいる場所での接続に重きを置いてきました。6Gからは、人のいない場所で環境センシングを行うなどの用途が考えられるため、地上での接続に関しては人のいる、いないに限らず100%カバーすることになります。
その他、海や空といった場所でもセルラー通信がつながっていくと思います。空では、飛行機内の通信環境を改善し、ドローンや空飛ぶクルマなども通信でつながる必要があります。さらに宇宙まで通信エリアは広がるはずです。海は海上だけではなく海中も通信できるようになるでしょう。
もう一つは、SDGs(持続可能な社会を創出する17の目標)を始めとする環境改善のための性能として低消費電力が必須になります。これまでも消費電力を下げる検討はされましたが、通信オペレータとしては通信性能向上やエリア改善を重要視していたことから、主要なテーマではありませんでした。例えばアフリカのオペレータではニーズが高かったのですが、世界全体では低かったのです。6Gからはメイントピックに入れなければなりません。
中村 ── その対策としてNTTで研究しているIOWN(Innovative Optical and Wireless Network:アイオンと発音)構想のような光電融合技術が期待されています(図3)。光だけでデバイスを動かし、基地局の機能を賄うというもので、チップの中身であるコンピューティングさえ光化をできるだけ図っていくという考えです。簡単には実現できませんが、光ファイバや半導体チップの導光路などで、できる限り光を使います。
今後はより固定、移動の区別がなくなり、無線、光を統合して利用する必要が高まるでしょう。要はend-to-endでしっかりつなぐために、光と無線のどちらを使ってもよいネットワークにしておく必要があると思います。
中村 ── Verizon(アメリカ)が最初に固定ワイヤレスを28GHz周波数帯で実現しました。日本でも今後増えるかもしれませんね。現状でも屋内でワイヤレスを使うケースが見られるようになってきており、固定か無線かという垣根もなくなりつつあります。
ただ現状では、同じ無線でもセルラーとWi-Fiの違いが見えるようになっています。自分でWi-Fiを切ってセルラーにつなぎ変えるとか、Bluetoothの設定をしなければならないなどの煩わしさはあります。これからはユーザーにそういう煩わしさを目立たないようにすべきだと思いますね。当社も今後はそうなるように努力していくことになります。
中村 ── これまでの地上系ネットワーク以外に、空や海を含めた非地上系ネットワークも考えなければなりません。衛星を使うとか、HAPS(成層圏通信プラットフォーム)のようなソーラーで動く飛行機を飛ばすといった手法で、これまで電波が届かなかった地上もカバーするようになります(図4)。そうなると消費者からはネットワークが地上系なのか非地上系なのか見えなくなります。
中村 ── すでにOneWeb(アメリカ)等、低軌道衛星事業が始まっていますが、通信事業者として提携するという可能性は将来出てくるかもしれません。そういった業者と協力して、非地上系ネットワークサービスを提供すると考える方が自然ですね。当社はAirbus(フランス)と協力してHAPSの検討は進めています。
中村 ── 漁業、海底での建設物や採掘調査など遠隔操作や遠隔監視が求められる分野があるので海中にもマーケットはあると思います。現状では有線で行っていますが、これを無線化できればフレキシビリティが増しますので、需要はあると思います(図5)。
NTTの研究所では、超音波技術でデータを送る実験を行っており、1Mbpsを超えるデータ速度を達成しています。海中からブイや船までは超音波を使い、船からは陸地の基地局、あるいは衛星が使えるので通信可能です。すでに水中ドローンを使った実験も行っています(図6)。このようなネットワークができれば、いろいろな産業が通信を利用するようになり、新たなサービスが生まれ、ビジネスが発展していくと思います。先行投資となりますが、どこでもネットワークを形成すれば、新しい産業の創生につながります。こうやっていろいろなビジネスをさまざまな業界の方々と作っていくことが大切だと思っています。
中村 ── 少なくともNTTグループは入れています。世界的にも同じような考え方を持っている所はあります。
中村 ── 利用シーンはたくさんあります。当社も5Gの実証実験でさまざまな企業と連携してきましたが、更なる高精細の映像での遠隔操作、遠隔監視などのニーズは、これからも高くなると思います。また、センサを空間上にバラまくように配置する環境センシングのニーズもあります。
人間拡張のCMですが、超低遅延を実現すると人の神経の代わりをネットワークが果たすことができると思います。人間の神経の代わりにネットワークが介在できれば、距離の壁をはるかに超えるようなことが可能になるのではないかと思います(図7)。
ピアノのCMは将来のユースケース一つの例です。それ以外の各種レッスンにも使えますし、腕や指の筋肉だけではなく、脳波で制御するというユースケースもあります。またサイバー空間での人の手とか、センシング対象、アクチュエータ対象など、さまざまなユースケースが出てきます。ネットワークに介在することで、これまで使っていなかったデータを採り込み、アクチュエートすることが人間拡張の基盤となります。この考えをもっと広げていきたいと思っています。
中村 ── 5Gが進化していく中でそういうことが行われるようになるでしょうね。その延長形として、6Gにはメタバースとの連携が出てくると思います。
中村 ── 私たちは新たな世代のネットワークを導入した段階で、将来、実現するサービスを入れ込んでいる訳ではありません。3Gを始める時だって、テレビ電話だと言っていましたが、その時はそれほど流行らず、テレビ電話が普及したのはスマートフォンが生まれてからです。
いろいろな産業の方たちが出てきて新たなサービスを展開してくれますから、最初から将来のサービスを取り込む必要はないと思います。ただ、3G、4Gの時と比べて、最初からサービスやアプリを取り込んでいこうという気運が高まっていることは確かだと思います。そのための実証実験を5Gではいろいろな業界の方と一緒にやってきました。6Gではさらにその速度を速めていかなければならないと感じています。
中村 ── いろいろな業界の方との連携の重要性も高まっていると思います。全て自社で開発するのではなく、いろいろな企業と協力しながら新しい製品やサービスを作っていく時代になっています。いわゆる協創の時代です。ドコモも企業の一員として、より良いもの、より良いサービスを作るために適したパートナーを世界中で探しています。
2020年に総務省がBeyond 5Gコンソーシアムを立ち上げましたが、一部で日本が5Gで出遅れたと言われたこともありました。スマホベンダーの数も出荷数量も少なくなり、日本としてもっとしっかりやっていかなければならないことも事実です。しかし、日本企業がグローバル市場で活躍すればよいのであって、日本企業だけで進めていけばよいという訳ではありません。特に移動通信はグローバルですから、世界と歩調を合わせて開発を進めていく必要があります。
そのためには世界の企業と情報交換し、いろいろな業界を巻き込んで意見交換する必要があります。将来どのようなニーズがあるのか、どのようなサービスがありうるのかを議論し、その中で通信がどう絡むのか、どういう通信システムが要求されるのかという視点を持って活動することが重要です。世界的に移動通信システムの標準化作業を行っている3GPP(Third Generation Partnership Project)にも当社は参加し、積極的に活動しています。
ただし、日本企業のアクティビティが海外企業と比べて低下していることは、否めません。特に中国の勢力が増しています。欧州系の人をどんどん採用して標準化を進めているのです。対して日本は市場シェアが小さいためコストをかけられないといった問題があります。標準化会合に出張できない、給料の点で外国人を雇えないなども問題です。
中村 ── 若い方の感覚は非常に重要だと思っています。今の若い方たちの感覚から新しいサービスが生まれる可能性を感じており、一緒に議論しながら作り上げていきたいと考えています。例えば今回お話しした人間拡張基盤のテーマで議論して、一緒に何かを作ることができれば、お互いにビジネスチャンスを早めに掴み取ることができます。一緒に将来の通信ネットワークを作っていきましょう。