No.013 特集 : 難病の克服を目指す
連載02 デジタル化した触覚がUIとメディアを変える
Series Report

車載機器には手探りの操作が多い

特に手探りで操作する場面が多い車載機器のユーザーインターフェースとして、触覚フィードバックの利用を提案する電子部品メーカーが多い。

例えばアルプス電気は、広く知られてはいないが、2000年に「ハプティックコマンダ」と呼ぶカーエアコンなどの操作ダイヤルの感触を疑似的に再現する触覚デバイスを製品投入した。人間の手の指の感触が敏感である性質を利用して、状況に応じて1つのダイヤルを回すときの感触を変えることで、複数の機能を使い分けられるようにしたものだ。同じダイヤルを、「カチカチ」と不連続に動かしたり、「スルッ」と連続的に動かしたり、回すときの抵抗感を変えたりといったことが、ソフトで自由に変更・制御できる。既にこの技術は、BMW社の高級車などで採用済みだ(図2)。ちなみに、「触覚的」を意味する「ハプティック」、英文表記では「HAPTIC」という言葉は、日本ではアルプス電気が商標を取得している。

触覚フィードバック技術を使ったBMW社の車載機器用操作ダイヤル「iDrive」
[図2] 触覚フィードバック技術を使ったBMW社の車載機器用操作ダイヤル「iDrive」
出典:BMW社

タッチパネルに触覚フィードバックを活用するという提案が、ドイツRobert Bosch社や京セラからも出されている。例えばBosch社は、縦縞模様の表示部に触れると縦方向にはすべりやすいが横方向では抵抗を感じ、横縞模様では逆の操作感を表現できるタッチパネルを、CESなどの展示会で披露している。これを使えば、ドライバーは直接タッチスクリーン上のアイコンを見なくても、指の感触でキーを識別できるようになるという。

操作ダイヤルやスイッチ類は、ユーザーの意思を機械に伝える手段であり、機器との一体感を直に感じる部分だ。また、機器を利用するうえで、扱う頻度が高い。確実な操作性、安心感、快適さ、品質、それを作ったメーカーのブランドなどを、これらの操作感を通じてユーザーは感じ取っている。このため、思い通りに操れる触覚デバイスは、ダイヤルやスイッチといったありふれたものであっても、重要な役割を担っている。

UIとメディアは実体感の追求へ

触覚の応用先として、車載機器のユーザーインターフェースは、そのメリットが分かりやすい。しかし、現在の触覚ブームで想定されているのは、車載機器にとどまらない。なぜ、たかだか1.5%の情報しか得ていない触覚を利用した電子機器を開発する機運が、にわかに高まってきたのだろうか。それは、視覚や聴覚を通じては伝えることができない「実体感」を、触覚ならば伝えることができるからだ。実体感とは、モノが実際そこにあると思う感覚のことである。

確かに視覚と聴覚は、多くの情報を受け取ることができる。ただし、この2つの感覚は接触を必要としない感覚である。これに対して触覚は、モノに接触したときのみに感じられる感覚である。実際に存在するモノに触れることが、触覚の大前提なのだ。

視覚や聴覚を通じた情報のやり取りは、動物園で檻越しにライオンがいることを感じているようなものだ。一方、触感を通じた情報というのは、ライオンを手でなでているような状態を表現できる。これは大きな違いだ。視覚や聴覚を介して、スマートフォンやゲーム機のユーザーが仮想世界に没入するようになったが、情報を伝えるメディアで触覚を扱えるようになれば、仮想世界の情報が実体となって、ユーザーの方に迫ってくるようになる。

触覚は視覚と聴覚を補完・拡張する感覚

ただし触覚は、視覚や聴覚と合わせて知覚しないと実体感を感じることができない、言わば補助・拡張する感覚である。

このことを端的に示す場面は、テレビのバラエティ番組などで、よく目にすることができる。目隠ししていた時には平気でカエルに触れていた出演者が、目隠しを外した途端に叫んで逃げ出す。逆に、見えていないときには怖がってコンニャクに恐る恐る触れていた人が、見えた途端に安心して手に取るという場面を見たことがあるのではないだろうか。

今、触覚関連の技術の提案が相次いでいる背景には、タッチパネルやVRなど、視覚や聴覚と合わせて触覚を活用するための技術的な素地が固まったことがある。五感のうち、嗅覚と味覚は、化学的な現象を通じて情報検知する感覚であるから、触覚さえ操ることができるようになれば、人間が感じることができる物理現象を介した情報検知は、ほぼ完成すると言える。

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