No.009 特集:日本の宇宙開発
Scientist Interview

ロケット産業を維持するには商業ミッションが必要

──H3ロケットでは、コストを下げることも目指していますね。

宇宙開発の中でも、輸送コストは本当にお金がかかります。たとえばアポロ計画だと、計画全体の資金のうち、確か70~80%が輸送にかかったコストだったといわれています。

輸送コスト全体を下げるために、H3ロケットの開発にあたっては、種子島宇宙センターの維持費を下げるような設備の設計をすること、そして打ち上げそのもののコストを下げることを目指しています。

民生品の活用や部品の共通化、それから日本が得意としている製造技術については、たとえば自動車産業の優れた部分などを勉強する等、積極的に取り組んでいきたいと思います。またロケットの自動点検を増やしたりするなど、全体的に運用をコンパクトにすることでも、コスト削減を目指しています。

ただし、単にロケットの価格が下がるだけでは産業基盤に影響が出てきます。事業規模が小さくなってしまうんですね。エンジニアを維持したり、生産設備を維持したりといったことを考えると、事業規模が小さくなった分、他から補填するようなことを考えないといけません。そこを商業ミッションで補おうと考えています。

 

──ただし、単にロケットの価格が下がるだけでは産業基盤に影響が出てきます。事業規模が小さくなってしまうんですね。エンジニアを維持したり、生産設備を維持したりといったことを考えると、事業規模が小さくなった分、他から補填するようなことを考えないといけません。そこを商業ミッションで補おうと考えています。

そうです。産業規模を維持しないと、ロケット自体が打ち上げ続けられなくなってしまいます。政府の衛星は計画に基づいており急に数が増えることはないので、商業ミッションの数によって産業の規模が決まってくる面があり、そこが勝負どころです。

これまでは年に2〜3機の打ち上げでした。H3では、ロケットの注文から打ち上げまでの期間や、ロケットの組み立て作業などを大幅に短縮して、コンスタントに年に6機以上の運用を目指しています。

──最後に、今後の予定を簡単に教えてください。

現在は基本設計のフェーズです。何とか今年度中に一区切り付けて、次のフェーズに入りたいと考えています。

2016年終わり頃から開発は山場を迎え始めると思います。そのころから、ロケットエンジンやSRBの実機大地上燃焼試験など、それまでの設計に基づいて実際にものを作っての試験が始まります。最初はパーツごとの試験ですが、2018〜19年ごろからは、たとえばエンジンとタンクを組み上げてエンジンを燃焼させるなど、システムとして組み合わせた試験が始まります。最後に、種子島でロケットを実際に組み立てて燃料を充填してカウントダウンするという、本物を使った地上総合試験を行います。そして2020年度に試験機1号機の打ち上げ予定というスケジュールです。

──ありがとうございました。

の図
[図5] 種子島宇宙センターなどのインフラの維持費や、従来のような政府・JAXAの打ち上げミッションのコストを削減し、その分を将来への開発投資などに回す。売上が減った分は、商業ミッションで補うことを目指している。
CREDIT:JAXA

[ 脚注 ]

*1
ターボポンプ*2 二段燃焼サイクル*3 エキスパンダ・ブリード・サイクル
H-IIAロケットやH3ロケットでは、タンク内の液体水素(燃料)と液体酸素(酸化剤)をエンジンの燃焼室で燃焼させて発生したガスを噴射する。そのとき液体水素や液体酸素をエンジンの燃焼室に送る役割をしているのがターボポンプである。二段燃焼サイクルのエンジンは、ターボポンプのタービンを回すためのガスを作るための小さな燃焼室がある。一方でエキスパンダ・ブリード・サイクルのエンジンにはその小さな燃焼室がなくシンプルな構造になっている。
*4
整備組立棟
工場から運ばれてきたロケットの第1段、第2段や固体ロケットブースタなどを組み立てるための建物。ロケットは移動発射台の上に組み立てられ、打ち上げ当日に発射地点へ、移動発射台ごと移動する。
*5
射点(発射地点)
H-IIAやH-IIBなどの大型ロケットは種子島宇宙センターの吉信射点エリアの発射場から打ち上げられる。吉信射点エリアには現在、H-IIAロケットを打ち上げる第1射点と、H-IIBロケットを打ち上げる第2射点があり、H3ロケットでは第2射点が使われる予定だ。
 

Profile

岡田 匡史(おかだ まさし)

JAXA H3プロジェクトマネージャ。1989年、東京大学大学院工学系研究科航空学専攻修士課程修了。2010年、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科より博士(システムエンジニアリング学)の学位を取得。旧宇宙開発事業団(NASDA)角田ロケット開発センター、種子島宇宙センター(ロケットエンジン開発試験担当)、H-IIAプロジェクトチーム等で液体ロケット開発に参加。システムズエンジニアリング推進室長、宇宙輸送推進部計画マネージャを経て、2015年、H3ロケット開発のプロジェクトマネージャに任命され、現在に至る。

Writer

岡本 典明

株式会社ブックブライト代表。サイエンスライター/エディター。20年以上にわたって科学雑誌ニュートンに携わり、編集者、編集部長などを経て独立し2011年末に株式会社ブックブライトを設立。科学技術関連記事などの編集・ライティングなどを行う傍ら、電子書籍を刊行中。

URL: http://bookbright.co.jp/

Twitterアカウント; @BookBrightJP

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