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かつて、半導体の利用は、コンピュータやテレビ・ラジオなどの電子機器にとどまっていた。それがいま、クルマや電車、医療機器、エネルギー、化学、機械など様々な領域に広がっている。そして、この広がりはさらに農業や植物栽培、バイオ技術、宇宙開発、などにも及ぼうとしている。本連載では、第1回はその広がりの様子、第2回はなぜ広がってきたのか、第3回は将来に向けてどのような世界が開けるか、について考察していく。
半導体(semiconductor:セミコンダクタ)とは、半分導体という意味であり、電気をよく通す導体と、通さない絶縁体との間に位置するsemi-conductor(セミ-コンダクタ)と記述されていた。今では一つの言葉として市民権を得て、ハイフンがとれている。元々、半導体は材料を意味していたが、半導体という言葉には、今やIC(集積回路)チップの意味も含まれている。ICは、シリコン結晶の表面に無数のトランジスタを構成するための電子回路を刻んだもの。この電子回路は、計算機にも、携帯ゲーム機にも、テレビやデジタル音楽プレーヤーにもデジタルカメラにもスマートフォンにも、デバイスと呼ばれる全ての機器に変身する。ここでは、半導体がどのように身近な存在になっているかを見ていく(図1)。
私たちの身近にある電子機器(デバイス)は全て半導体の塊だと言っても言い過ぎではない。かつて、大学で講義した時、経営学部の学生たちに「エレクトロニクスや半導体とは何だと思うか」と聞いたことがある。多くの学生の答えは、「自分とは関係のない、よくわからないモノ(こと)」であった。半導体エレクトロニクスは目に見えない。少なくとも半導体や電子部品が載っているプリント回路基板を見ても、人の目には何がどう働いているのか、わからない。計測器を使ってようやく電圧や電流を知ることができる。エレクトロニクスは目に見えにくいテクノロジーだといえよう。だから、「よくわからないモノ」という回答が続出したのだろう。ところが、講義を終えてアンケートのコメントをいただくと、「半導体がこれほど身近に使われていることを初めて知った」という声が多かった。
半導体は私たちの生活を間違いなく豊かにしてくれている。携帯電話やスマホ、音楽プレーヤー、テレビでさえ薄型の液晶は当たり前になり、我々の生活を変えた。テレビはブラウン管から液晶になり、音楽機器はレコードからCDやデジタル音楽プレーヤーに変わった。これらを実現した原動力こそ、半導体である。
パソコンやタブレットも半導体がなければ実現できなかった。コンピュータは昔、大きく広い部屋に設置されていた。とても個人が持ち運べる機械ではなかった。しかも能力は絶大である。最近のスマホは4年前のパソコンと同じ能力を持つという参考資料1。また、iPad 2の性能は1985年のスーパーコンピュータCray-2と同じ4GFlops/Wだという実証例もある参考資料2。
さらにデジカメは、従来のフィルムカメラの精度や性能を超えた。ミラーレスのデジカメの市販品でさえ3000万画素以上の高解像度カメラがある。ミラーレスではないコンパクトカメラでさえ1600万画素はあり、しかも12倍、14倍の光学ズームが搭載されており、太陽下、逆光、夜間など様々なシーンでの撮影が素人でもできる。左右ステレオで録音しながらビデオ撮影もできる。何よりも撮影に失敗して気にいらない写真をすぐに消すことができるなど、フィルムカメラではできない機能が搭載されている(図2)。しかも3~4万円で入手できる。ひとえに半導体が、色合いの処理やシャッター、センサ、記録、ズーム調整などさまざまな機能を実現しているのである。
テレビが薄く軽くなると家庭の各部屋に1台置いても邪魔にならない。インテリアの一つの道具にもなる。実は、半導体はアナログテレビの時代から使われていた。一昔前のブラウン管テレビには、すでにトランジスタやICが使われていたが、ディスプレイには真空管が用いられていたため、BOX型の形状をしていた。それが、半導体の進化と共に、液晶ディスプレイが可能になり、薄型テレビが誕生したのである。デジタル放送になった今では、コンピュータと同じ回路規模のデジタル方式になり、半導体なしでテレビは作れなくなっている。
携帯電話は個人を特定できるようになり、人と待ち合わせする時にはなくてはならない道具になった。胸ポケットやズボンのポケットに入る携帯電話は、半導体ICがなくてはとても実現できなかった。この中にメールアドレス帳や電話帳、カレンダー、などが入りテレビやカメラなどの機能も付いているが、これらは全て半導体が機能を受け持っている。
さらにiPhoneが2007年に登場し「スマートフォン」という言葉が生まれた。スマホは携帯電話から進化したものではあるが、今はコンピュータが小さくなったモノと捉える方が適切になってきた。というのは、アプリをダウンロードしてスマホに搭載すると、機能をいろいろ追加できるからである。さまざまなアプリケーションソフトウエアをインストールして機能を追加するパソコンと同じといえる。
実は、スマホになって初めて、本当の意味で「いつでもどこでも」コンピュータ通信ができる時代になった。いつでもどこでもインターネットにつなげられる「ユビキタス」という言葉は10年以上も前から言われてきたが、スマホ以前のパソコンはどこかに座って操作しなければならなかった。これに対してスマホは、歩きながらでも、カバンを持ったままでも、片手さえ使えれば、いつでもどこでもインターネットとつながり、YouTubeやメール、ブラウザを見ることができる初めてのユビキタスデバイスになった。「歩きスマホ」はむしろ社会問題になるほど一般的になった。まさに今がユビキタス時代である。半導体をたくさん購入する企業のトップがサムスンで、2位がアップルという順序になった(図3)。かつての半導体購入額の大きい企業は、HPやデルなどのパソコンメーカーであった。
今やあたり前になった、スイカやパスモなどのICカードは、まさに半導体だけで機能していると言っても言い過ぎではない。無線を受けてカード内の電子回路を動かし、瞬時に料金を徴収する。切符としての機能だけではない。買い物や食事をした時の料金も支払える。お金の代わりを果たす。この機能を行う電子回路こそ半導体ICに他ならない。
もう少し例を見ていこう。クルマはかつて、ギアや軸受、ベアリング、ベルトなど機械部品の組み合わせだけで動く機械だった。しかし機械部品は摩耗や劣化などを常に伴う。半導体シリコンは、175℃を超えるような高温にさらさない限り劣化しない。だから近年、クルマは、できるだけ機械部品を排除するように変化を遂げている。例えば、ステアリング・バイ・ワイヤーという機能では、ハンドルと車輪が直結をしていない。ハンドルの回転をセンサが検出し、そのセンサ信号に従って車輪の向きをモータで変えている。ギアの組み合わせを使わずに、車体をコントロールしているのだ。他にも、機械では実現できないような高度な機能も合わせ持つ。2007年時点で、クルマ1台の価格に占める電子部品の割合が小型車だと10~15%、高級車だと20~30%、ハイブリッド車では50%と言われている。この割合は今後ますます高まる傾向にあり、半導体はいま、クルマに欠かせない存在となっている。
私たちは気づかぬうちにクルマの窓をボタン一つで開閉し、ドアのロックもキーボタンで開閉する。カーナビは専用のコンピュータであり、半導体チップが詰まっている。燃費が年々良くなってきたのは、最適なタイミングで点火してガソリンを燃焼させる精密な制御が半導体でできるようになったからだ。また急ブレーキをかけても前のめりになりにくいのは半導体がサスペンション制御をしているからだ。高級車では夜間、カーブを曲がる場合にはヘッドランプも一緒に向きを変えるという制御を行っている。これも半導体だ。
冷蔵庫やエアコンにも半導体が入っている。モータの回転を自由自在に変えることができるのは、半導体のおかげである。インバータはモータの回転数を変えられる機器だが、その中の半導体がその動作を受け持つ。半導体がない時代は、モータは回しっぱなしか、止めるか、どちらかしかできなかった。
モータの回転数を自由に連続的に変えられれば、省エネができる。最近のエアコンは電気代が安くなったと言われるが、その秘密はこのインバータだ。例えば、夏の暑い時にコンプレッサを動かすモータの回転を速めて冷却を強くし、夜は回転数を緩めて冷却を弱めると電気代が安く済む。エアコンを止めていた部屋で急速に冷却するとエアコンはフル回転を長時間しなければ部屋は涼しくならないため電力代がかさむ。むしろインバータエアコンをかけっぱなしにしている方が電力はさほど消費しない。クルマを50~60km/時で走らせる「経済速度」と同じような考えだ。クルマを急発進、急加速させるとガソリンをたくさん消費するのと同様、エアコンのオンオフを繰り返し行なう方が電力を消費する。惰性で動かす方が消費電力は少ない。
また、電車にも半導体が使われており、始動、加速、減速など一連の動作を制御するのに半導体が使われている。ブレーキをかけると、モータから動力を切り離し、逆に発電機として使い、電力を架線に戻している。回生ブレーキと呼ばれる仕組みがそれだ。モータや発電機を制御する半導体はパワー半導体と呼ばれている。
半導体が私たちの生活を豊かにしている例はここでは書ききれないほど広がっている。個人の生活だけではない。オフィスや工場、職場にも半導体制御技術がふんだんに使われている。これからももっと広がっていくだろう。次回は、なぜ半導体が身近に使われるようになったのか? そして今後、どのように広がっていくのか、半導体技術を少し掘り下げてみる。
[第2回へ続く]