No.008 特集:次世代マテリアル
連載01 身近な世界にまで広がり続ける半導体
Series Report

機械を半導体に置き換え高機能化

もう少し例を見ていこう。クルマはかつて、ギアや軸受、ベアリング、ベルトなど機械部品の組み合わせだけで動く機械だった。しかし機械部品は摩耗や劣化などを常に伴う。半導体シリコンは、175℃を超えるような高温にさらさない限り劣化しない。だから近年、クルマは、できるだけ機械部品を排除するように変化を遂げている。例えば、ステアリング・バイ・ワイヤーという機能では、ハンドルと車輪が直結をしていない。ハンドルの回転をセンサが検出し、そのセンサ信号に従って車輪の向きをモータで変えている。ギアの組み合わせを使わずに、車体をコントロールしているのだ。他にも、機械では実現できないような高度な機能も合わせ持つ。2007年時点で、クルマ1台の価格に占める電子部品の割合が小型車だと10~15%、高級車だと20~30%、ハイブリッド車では50%と言われている。この割合は今後ますます高まる傾向にあり、半導体はいま、クルマに欠かせない存在となっている。

私たちは気づかぬうちにクルマの窓をボタン一つで開閉し、ドアのロックもキーボタンで開閉する。カーナビは専用のコンピュータであり、半導体チップが詰まっている。燃費が年々良くなってきたのは、最適なタイミングで点火してガソリンを燃焼させる精密な制御が半導体でできるようになったからだ。また急ブレーキをかけても前のめりになりにくいのは半導体がサスペンション制御をしているからだ。高級車では夜間、カーブを曲がる場合にはヘッドランプも一緒に向きを変えるという制御を行っている。これも半導体だ。

モータの回転を自由に制御して省エネ

冷蔵庫やエアコンにも半導体が入っている。モータの回転を自由自在に変えることができるのは、半導体のおかげである。インバータはモータの回転数を変えられる機器だが、その中の半導体がその動作を受け持つ。半導体がない時代は、モータは回しっぱなしか、止めるか、どちらかしかできなかった。

モータの回転数を自由に連続的に変えられれば、省エネができる。最近のエアコンは電気代が安くなったと言われるが、その秘密はこのインバータだ。例えば、夏の暑い時にコンプレッサを動かすモータの回転を速めて冷却を強くし、夜は回転数を緩めて冷却を弱めると電気代が安く済む。エアコンを止めていた部屋で急速に冷却するとエアコンはフル回転を長時間しなければ部屋は涼しくならないため電力代がかさむ。むしろインバータエアコンをかけっぱなしにしている方が電力はさほど消費しない。クルマを50~60km/時で走らせる「経済速度」と同じような考えだ。クルマを急発進、急加速させるとガソリンをたくさん消費するのと同様、エアコンのオンオフを繰り返し行なう方が電力を消費する。惰性で動かす方が消費電力は少ない。

また、電車にも半導体が使われており、始動、加速、減速など一連の動作を制御するのに半導体が使われている。ブレーキをかけると、モータから動力を切り離し、逆に発電機として使い、電力を架線に戻している。回生ブレーキと呼ばれる仕組みがそれだ。モータや発電機を制御する半導体はパワー半導体と呼ばれている。

拡大続ける半導体

半導体が私たちの生活を豊かにしている例はここでは書ききれないほど広がっている。個人の生活だけではない。オフィスや工場、職場にも半導体制御技術がふんだんに使われている。これからももっと広がっていくだろう。次回は、なぜ半導体が身近に使われるようになったのか? そして今後、どのように広がっていくのか、半導体技術を少し掘り下げてみる。

[ 参考資料 ]

*1
最近のスマホは4年前のパソコンと同じ能力
http://docomo.publog.jp/archives/28972866.html
*2
iPad 2の性能は1985年のスーパーコンピュータCray-2と同じ4GFlops/W
http://hardware.slashdot.jp/story/12/09/19/0456206/

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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