No.008 特集:次世代マテリアル
Scientist Interview

魅力は圧倒的、でも扱いにくさは破壊的

──具体的に、どのような難しさがあったのでしょうか。

当時使っていた結晶は、直径1インチほどの大きさで、目で見て穴が空いている状態でした。Si素子は欠陥のない単結晶で作るのが当たり前です。このような結晶で、まともな半導体素子が作れるとは、誰も思えませんでした。また、結晶の作製に要する温度が、1,500〜2,000℃とSiに比べて半端なく高いことも問題でした。Siを扱っていた研究者にとって、未体験の高温です。そもそも、1,500℃を超える温度を作り出す炉が、当時市販されていませんでした。

さらに、SiCには結晶構造の異なる状態が何と約200種類もあります。大学の先生が科学論文を書く上では、こんなにおもしろい題材はありません。しかし、工業製品の材料として、こんなに思い通りにならない材料は見当たりません。素子の材料に200種類の中のどれを使い、どのような方法でそれを100%混じり気なしに作ったらよいのか、見当もつかなかったのです。パワー素子への応用、ましてや実用化は、まさに夢物語でした。

──そのような難しい状態から、よく実用化に漕ぎつけたものですね。

近年の急激な進歩は、長年SiCを研究してきた当事者からみても目を見張るものがあります。最初にSiC素子を実用化したのは、ドイツのインフィニオンテクノロジーズ社です。2001年にサーバーの高級機種向け電源回路にSiCダイオードが採用されました。今では、ダイオードもトランジスタも、実用に足る最低限の品質に達しています。コスト面では依然課題を残していますが、性能面ではSi素子に対する明らかな優位性を実証できています。また、Siのように300mmとはいきませんが、150mmと夢のような大口径ウエハーが入手できるようになりました。

そして何よりも大きいのは、環境保護とエネルギー効率向上の観点から、パワー素子の市場価値が高まっていることです(図2)。コストが多少高くても、電力損失のより少ないパワー素子を求めるようになりました。需要の高まりが、技術開発と事業化を後押ししてきた面があります。

電力を変換する部分がSiCパワー素子の応用対象の図
[図2] 電力を変換する部分がSiCパワー素子の応用対象

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.