No.008 特集:次世代マテリアル
Scientist Interview

応用は家電から鉄道まで広範囲

──SiCパワー素子は、どのような機器やシステムに使われているのですか。

実用化から15年が経ち、SiCダイオードが太陽光発電システムのパワーコンディショナー、エアコンや高級なコンピュータの電源回路など多くの機器に使われるようになりました(図3)。

SiC素子が応用されている機器と試用されている機器の図
[図3] SiC素子が応用されている機器と試用されている機器

また2013年、東京メトロの銀座線の新車両「1000系」の電源回路に、SiCダイオードが採用されました(図4)。電源回路は、ダイオードとトランジスタを組み合わせて構成するのですが、このうちダイオードの部分をSiC素子に替えたのです。この銀座線の車両では、SiCダイオードの採用によって、減速時の回生電力(ブレーキによって発電した電力のことで、電車から架線に戻しその電力を他の電車や施設に供給する)もより多く回収できるようになりました。損失軽減効果に、回生電力の増大効果を合わせると、30%の省電力効果が得られています。

ただし、この銀座線の例は、かなり特殊な事例だと言えます。同路線は私鉄やJRなど他の路線への乗り入れがないため、架線電圧が直流600Vと低く、パワー半導体には1,700Vの耐圧を確保できれば導入できたのです。一般的な路線の架線電圧は直流1,500Vであり、パワー半導体には3,300Vの耐圧が求められます。このため、他の路線にも展開するためには、こうした高い電圧に耐えられる素子を作る必要があります。

SiCダイオードを電源回路に採用した東京メトロ 銀座線の車両の図
[図4] SiCダイオードを電源回路に採用した東京メトロ 銀座線の車両

しかし、この点に関しては、三菱電機が既に克服しました。2014年から小田急線とJR山手線でSiC素子を搭載した車両のテスト運転が始まっています。その車両では、ダイオードとトランジスタの両方がSiC半導体材料で作られ、38%の省電力効果が得られています。小田急線は2015年春から、山手線は同年秋から営業運転を開始する予定です。これによって、SiC素子を搭載した車両をより多くの路線に展開できるメドが立ちました。次のターゲットは、架線電圧が交流2万5000Vの新幹線ですね。

──SiCを使ったパワー素子は、どのような方向に進化するのでしょうか。

今後は、応用をさらに拡大するための開発、特にコスト削減につながる技術開発をしていくことになります。工業製品としてのSiC素子の進化と応用開拓は、始まったばかりなのです。

技術開発の象徴という意味では、鉄道への応用はとても重要です。しかし、ビジネス的な観点からは、インパクトはそれほど大きくないと言えます。鉄道の車両の生産台数は、半導体デバイス事業を支えられるほど多くないからです。このため、SiC素子を開発する企業の多くは、より多数の素子を使う応用を想定した技術開発を進めています。例えば、三菱電機はエレベータ用の、ロームは産業機器用のモーターを駆動する部分への応用を目指しています。また、トヨタ自動車とデンソーのグループをはじめとする多くの企業が、自動車向けの開拓を目指しています。ここ5年間で急速に市場が広がることでしょう。

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