No.008 特集:次世代マテリアル
Scientist Interview

もっと高耐圧、もっと大電流

──どのようなSiC素子を開発すれば応用が広がるのでしょうか。

応用を拡大するためには、もっと高い電圧に耐え、もっと大きな電流を流せる素子を作る必要があります(図5)。半導体素子では、素子の厚さが耐圧を、素子の面積が流せる電流の大きさを決めます。このうち厚さに関しては、大きな障害がなく克服できます。私たちは、2万V 耐圧のSiCトランジスタも開発しました(図6)。また、とても需要が多い家庭用電源につなぐ機器の電源回路は、交流100Vでは600V、交流220Vでも1,200Vに耐えればよいので、既に実用化している鉄道用に比べてもずっと簡単です。

電流に関しては、大きな需要を見込める応用で、大電流を流せる素子が求められています。代表例が自動車です。現在製品化されている素子で流せる電流は20Aくらいです。しかし電気自動車やハイブリッド車を動かすモーターを駆動する電源回路では、100Aや200Aといった電流を流せるパワー素子が必要になります。鉄道用では素子を並列に並べて使い、大電流を流しています。しかし、製造コストの削減要求が厳しい自動車では、この方法は使えません。1チップもしくは2チップ構成で、200Aを流せる素子の実現を目指しています。

SiCの定格電圧と定格電流を広げて応用を拡大の図
[図5] SiCの定格電圧と定格電流を広げて応用を拡大

──技術的にはどのような改善を加える必要があるのでしょうか。

二つポイントがあります。

一つは、高品質な結晶を作ることです。結晶の品質は、素子の製造時の歩留まりに直結します。現在、1mm角のチップならば90%以上の歩留まりでパワー素子を作ることができます。3mm角でも70%もしくは80%と、事業ができるレベルが得られます。ところが、5mm角を超えると急激に歩留まりが落ちてしまいます。200Aの電流を流すことができるパワー素子を1チップで作ろうとすると、10mm角くらいのチップを作ることになります。こうした大きなチップを事業ができる歩留まりで作るためには、結晶の欠陥を今より1桁減らす必要があります。

──もうひとつのポイントは何ですか。

トランジスタで電流を開閉するチャネル部の、酸化膜と半導体の界面をもっと高品質にする必要があります。これは、特性と信頼性に優れたMOS構造を作るための鍵になります。Si素子が隆盛を極める要因となったMOS構造ですが、SiCではSiのようなきれいな界面ができていません。熱酸化で作った酸化膜は、絶縁性は優れているのですが、界面での欠陥が多く、実用化しているSiCトランジスタも潜在能力からは程遠い状態のものです。電子の動きやすさを示す移動度は、Siならば400〜500cm2/Vsです。SiCも元々の物性を考えると、300 cm2/Vsくらいにできるはずなのですが、実際には約20 cm2/Vsと桁違いに小さいものしかできていません。

界面の品質がよくない理由は、おそらくCが残留して悪さをしているのだと思われます。しかし、界面でのCの検出がむずかしく、界面の品質が悪くなる原理が分からないのです。移動度が100 cm2/Vsあれば、チップ面積を小さくできるので、あと一歩といったところです。

SiCダイオードと超高耐圧型SiCトランジスタの構造の図
[図6] SiCダイオードと超高耐圧型SiCトランジスタの構造(下の図中の「JTE」はJunction Termination Extensionの略で、漏れ電流を抑制するための素子分離領域を、高濃度層で作ったもの)

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