No.008 特集:次世代マテリアル
Scientist Interview

さらなる発展には、現象の科学的理解が欠かせない

──技術開発は、順調に進んでいるのでしょうか。

結晶も界面も、確実に改善されています。ただし、緩やかにしか改善していません。基礎研究がまだ不足しているのだと思います。

SiCの大まかな物性は分かっています。しかし、素子特性の予測で使うデバイスシミュレーションをするために必要なパラメータの中に、未だに分かっていないものが数多くあるような状態です。試行錯誤での開発は精力的に進められているのですが、起きている現象の根底にある原理が分かっていません。科学の知見を広げることが、技術の進歩に直結します。

──SiCと同様に、GaN (窒化ガリウム)もパワー素子の材料として期待されています。それぞれどのように使い分けるのでしょうか。

GaNは、200V、300V、600Vといった比較的低い耐圧で十分な電源回路で使うことになるでしょう。特に電流が小さい応用で有効です。

自動車も、電気自動車などの動力源となるモーターを駆動する電源回路はSiC素子の領域ですが、バッテリーから48Vの車載機器用電源を作り出すDC-DC変換器などは、200V耐圧で10Aもしくは20Aを流せればよいのでGaN素子が適しています。ここは、電力損失で比較すると、SiC素子もSi素子も苦手な領域であり、各材料は相補的な関係にあると思います。

──パワー素子以外でのSiCの応用で、どのようなものに注目していますか。

パワー素子ほど市場は大きくないと思いますが、高温対応の半導体素子も開発価値があると思います。例えば、300℃くらいでもメモリーを含めて動く電子回路を構成できます。自動車の中の高温になる場所や、資源の採掘機器などでの応用が広がるかもしれません。米国では、航空宇宙局(NASA)が宇宙用素子として技術開発を進めています。かつては、とても集積回路など作れる状態ではなかったのですが、現在は研究室レベルでは作れるようになりました。

また、私と同じグループの須田淳 准教授が、SiCを使ったMEMS(マイクロマシーン)を作っています。単結晶SiCでカンチレバー(片持ち梁)を作ると、硬い物性を活かして共振周波数を高めることができます。これを温度センサーや圧力センサーに応用すれば、桁違いに高感度のセンサーを作れます。もちろん高温でも動きます。また横にSiCの集積回路を搭載することもできるでしょう。

期待の高まりに比例して激化する開発競争

──エネルギー効率の向上のキーデバイスであるSiC素子の開発は、その重要性がますます高まりますね。

今後は、開発競争が激化してくることでしょう。これまで日本の企業や研究機関は、米国や欧州と競争してきました。そして、結晶を作る技術、素子を作る技術の水準は、日本が頭ひとつ抜け出せています。ただし、量産技術という面から見ると、必ずしも先頭を走っているとは言えません。

さらにこれからは、中国、韓国、台湾などが技術開発を加速してくることが確実です。日本がリードし続けていくためには、基礎的な理解を深める科学的な探求が必須だと思います。

また事業でリードしていくためには、パッケージやモジュールの技術もとても重要になります。今はまだ、Si向け技術を基にパッケージなどを作っている状態ですが、SiCの特徴を活かせばより高密度の実装が可能です。ここを詰めなければなりません。

ここ5年から10年が本当に勝負だと思います。

Profile

木本 恒暢(きもと つねのぶ)

京都大学大学院工学研究科電子工学専攻 教授

1963年生まれ。1988年 京都大学大学院工学研究科修士課程を修了後、住友電気工業株式会社に入社し、非晶質半導体、ダイヤモンド半導体の研究に従事。1990年 京都大学工学部助手としてSiC半導体の研究に着手。結晶成長、物性評価、高耐圧ダイオードの研究により1996年 博士(工学)取得。同年から1997年までスウェーデン国リンチョピン大学物理学科客員研究員。1998年 京都大学助教授、2006年 京都大学教授。2009-2014年 内閣府最先端研究開発支援プログラム中心研究者、2014年より応用物理学会先進パワー半導体分科会幹事長。この間、一貫してSiCパワー半導体の結晶成長、物性解明、欠陥エレクトロニクス、イオン注入およびMOS界面制御、ショットキー障壁ダイオード、PiNダイオード、MOSFET、JFET、BJT、IGBTなどの基礎研究を推進。半導体量子細線の電子状態とキャリア輸送、抵抗変化型メモリや窒化ガリウムパワーデバイスの基礎研究にも取り組んでいる。

http://semicon.kuee.kyoto-u.ac.jp/

Writer

伊藤 元昭

株式会社エンライト 代表。
富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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