第2回
GaNの商用化が加速、SiCはやや足踏み
- 2016.11.30

シリコンに代わる新しいパワー半導体の候補としてSiC(シリコンカーバイド)とGaN(窒化ガリウム)が注目されている。パワー半導体の分野でシリコンはまだまだ主流ではあるが、性能はSiCやGaNの方が優れている。なぜ、シリコンではない半導体がパワーデバイスに求められるのか。今回はその背景と、商用化へ進む各社の取り組みを紹介する。そして次回の最終回では、新化合物パワー半導体の市場性の問題や、高いコストなどの課題をどうクリアするかに迫りたい。
現在もパワー半導体の主流はやはりシリコンだが、近年はSiCやGaNを使ったパワートランジスタの開発が活発になってきている。SiCダイオードを使った効率の高いインバータはすでに電車に採用されているし、GaNを使った電源アダプタ(AC-DCコンバータやDC-DCコンバータ)も発売間近だ。
東京メトロ銀座線の最新車両「1000系」(図1・左)に、2013年からSiCダイオードのインバータ導入が始まった。JR山手線でもSiCダイオードのインバータを導入した車両「E235系」は走っているが、量産はやや遅れている。2015年11月に運行トラブルが発生したためだ。ただし現在は量産を再開し、2017年春から順次投入される予定だ。
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小田急電鉄「1000形」のリニューアル車両(図1・右)にも、三菱電機のSiCパワー半導体のインバータが搭載され、実験でその威力が確認された。SiC半導体を搭載したVVVF(Variable Voltage Variable Frequency)インバータ装置では、SiCダイオードおよびMOSトランジスタを使った場合と、従来のGTO(Gate Turn Off)サイリスタとpinダイオードを使った場合を比較したところ、SiCの方が40%も省エネ効果を示したと2015年6月に報告されている(参考資料1)。また、JR東海道新幹線の車両「N700S」にもSiC半導体のインバータを導入する計画が発表されており、2020年度にはSiC半導体をインバータに採用した新幹線が走行する予定だ。
GaNは数量の多いACアダプタから
SiCパワー半導体は電車から商用化が始まったが、GaNパワー半導体はもっと身近なACアダプタへの採用が間もなく始まる(図2)。量産レベルではSiCよりもGaNパワー半導体の方が進んでいると言えるだろう。SiCは電車部品としてすでに商用化されているが、数量は極めて少なく、半導体供給側から見るとまだ実験段階に近いからだ。これに対してGaNはLED照明の基本材料として採用実績を持ち、半導体の主流とも言えるシリコンを基板として使えるため安価にしやすいという特性がある。
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しかも、SiCパワー半導体にはトランジスタとダイオードの2種類あるが、電車に使われ始めたのはダイオードのみである。このダイオードは、トランジスタをオンからオフに切り替えた際に残留する電荷を素早く引き抜くために使われる半導体で、トランジスタで電流の流れる方向とは逆向きに並列に接続される。今のところ電車に使われているのはSiCダイオードだけであり、SiC MOSトランジスタはまだ使われていない。
SiCのダイオードが最初に使われるようになったのは、従来のシリコンのpnダイオードよりも高速動作が可能なショットキーダイオードを作製できるからだ。ショットキーダイオードは高速スイッチングができるものの、シリコンでは耐圧が低く使いものにならなかった。そこで早くからシリコンのpnダイオードが、絶縁耐圧の高いSiCに置き換えられるようになったのだ。世界的に見ると、日本ではSiCに、海外ではGaNに力を入れている状況となっている。