No.012 特集:にっぽんの自然エネルギー
連載02 省エネを創り出すパワー半導体
Series Report

日本の産業革新機構が出資するトランスフォーム社は、2015年に最初の耐圧650VのGaNパワートランジスタを発売した。さらに2016年の9月には、電源メーカーのテレコディウム社と共同で、電源システム効率が94%と高い電源を開発している。この結果、従来のシステムと比べ、30%も体積が小型になったという。同社は、データセンターや通信機器用の電源を狙っており、標準規格団体JEDECが認める唯一の耐圧650Vパワートランジスタのメーカーだとしている(参考資料2)。

日本のパナソニックもGaNトランジスタを手掛けており、サンプル出荷の段階までこぎつけている。同社が狙う市場は、ソーラー発電の直流を交流に変換するパワーコンディショナー、自動車、サーバー電源、モーター制御などだ。製品の特長は、ノーマリオフ型に制御し、さらにGaNの結晶欠陥(トラップ)による電流の減少を、p型領域の導入でカバーしたことにある。そのGaNトランジスタはX-GaNと呼ばれ、すでにサンプル出荷が始められた。同社のプロモーションビデオでは、パワーアシストスーツ*3のモーターを駆動するための半導体トランジスタとして、GaNを紹介している。これまでのシリコンMOSFETやIGBTでは、電子回路基板が大きくなり小さな筐体には収まらないが、GaNでは小型にできるのが大きなメリットだ。

GaNの商用化でリードしているのは、米国のEPC社だ。同社は、かつてインターナショナルレクティファイア社のCEOを務めていたアレックス・リドー氏が創立した、GaNのベンチャー企業である。そのため同社はGaNに特化しており、トランジスタやICをすでに製品化しているほか、実績ベースの信頼性データも公表している。それによると、数百万デバイスの信頼性試験とフィールドテストを行ってきており、デバイス×動作時間の見積もりでは0.1FIT(1FITは10億時間当たりの故障数)以下だと、同社のビデオ(参考資料3)でリドー氏は述べている。

GaNやSiCはシリコンに代わる新しいパワー半導体材料である。特に、GaNはシリコン上に形成できるため、世界トップのファウンドリ(製造に特化した請負企業)TSMC社も手掛けており、普及という点ではSiCよりも一歩リードしている。ただし、SiC専門のファウンドリ企業も出てきており、今後の巻き返しが期待される。次回の連載最終回では、SiCとGaNの市場見込みや実用化について考察していく。

[ 脚注 ]

*3
パワーアシストスーツ: 人が着用することで、重い荷物を持ち上げたり、歩行したりといった動きをアシストするロボットの一種。

[ 参考資料 ]

1.
小田急電鉄車両での「フルSiC適用VVVFインバーター装置実証結果のお知らせ、三菱電機プレスリリース
http://www.mitsubishielectric.co.jp/news/2015/0622-a.html
2.
Telcodium Partners with Transphorm to Introduce First-ever Redundant Power Supplies Using GaN FETs
http://www.transphormusa.com/news/telcodium-partners-transphorm-introduce-first-ever-redundant-power-supplies-using-gan-fets/
3.
GaN Advanced Learning 3 – GaN is Reliable
https://www.youtube.com/watch?v=1k3ycOuF4ks

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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