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スポーツウェアを得意とするオンヨネ株式会社が上越教育大学の池川准教授と共同で新たなマスクを開発した。
既存の不織布マスクと同等以上の防飛沫性を備えたうえで、通気性が良く、繰り返し使用できる特殊繊維マスク「ハイブリッドタイプ™メッシュマスク」誕生の背景を取り上げる。
マスク開発の裏側には半導体製造装置で世界Top4の一角を形成する東京エレクトロンのハイテク技術の下支えがあった。東京エレクトロンとオンヨネは以前にも作業性の良い “快適クリーンスーツ” やクリーンスーツ用マスクを共同で開発しグッドデザイン賞を受賞した経緯があり、今回はそれを新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止に対応したマスクに発展させた形となる。
東京エレクトロンは既にこのマスクを自社の製造ラインに採用しているが、通気性と飛沫防止効果の高次元でのバランスが取れていることなどから、学校行事やクラブ活動などの運動用や企業業務使用などの民生活用が広がっている。
一見つながりのない同社の持つ半導体製造装置の技術の一端が、民生品への活用を通して社会課題の解決に貢献できることを示す一例となる。なお、マスク製造販売はオンヨネが担当する。
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大により、外出時やオフィスでのマスク着用は世の中の新常識となっている。ワクチン接種は着々と進んでいるものの、現在の状況が沈静化したあと、いわゆるコロナ後の世界(ポストコロナ)はコロナと共生するwithコロナの時代になるのではないかとも言われている。マスクは街を行きかう人々にとって日常の必需品になることも予想される。
マスク着用が感染拡大防止に効果を発揮する一方、熱中症の症状を加速させるなど改善すべき点も指摘され、運動中はマスクを外すなど気候状況に応じた運用が重要だと専門家や文科省も警鐘を鳴らす。
オンヨネと上越教育大学の池川准教授は、このような社会課題に向き合い学校行事やアスリートの熱中症リスクを低減できる感染抑制マスクの開発に取り組んだ。しかしここで粗目のマスクにより呼吸しやすくすると小さな飛沫のブロック性能が悪化してしまうトレードオフに直面する。ここに東京エレクトロンが半導体技術で培った知見が活用される。
最先端の半導体は、ウイルスよりも小さなナノサイズの塵(パーティクル)も不具合原因となる。半導体製造はいわば微小パーティクルとの戦いである。
半導体製造装置はその製造工程で装置に入り込む微小なホコリや塵を防ぐために、絶えず空気を循環ろ過させている「クリーンルーム」と呼ばれる清浄な部屋で製造を行っている。クリーンルーム内で装置の組み立て作業を行う作業員も、人体から発生する微小なホコリや塵をクリーンルームに出さないよう特殊な繊維でできた「クリーンスーツ」と呼ばれる専用のスーツを着用。東京エレクトロンは先に触れた“快適クリーンスーツ”を自社工場に採用し、作業の安全性や効率を高めている。
日常的に微小パーティクルと戦う同社には、微小パーティクルを発生させ計測する技術やエアロゾル工学、流体工学など微小パーティクルを能動的に制御する知見が蓄えられている。オンヨネと池川准教授の社会課題解決への取り組みに共感した同社は、自社が持つ知見の提供やマスクのウイルス捕集性能の計測や飛沫の可視化技術などを通してマスクの開発を支援した。
昨年のコロナ流行初期のマスク騒動のようにマスク自体がないという危機は乗り越え、いまや誰にでも不自由なくマスクが購入できるようになった。今後は多様なシーン毎に最適化されたマスクが必要とされるようになると思われる。今回開発したマスクは通気性と防飛沫性をバランスよく両立させ、熱中症リスクを低減できるマスクであり、その利用は小学校~大学などの教育現場を中心に広がっており、熱中症事故撲滅への貢献に期待が寄せられている。
「ハイブリッドタイプ™メッシュマスク」の開発においては、クリーンルーム専用スーツやマスクの開発時に得られた特殊繊維生地を使用。顔の形を利用して様々な顔の形に無理なくフィットさせマスクの全面に均一に圧力が分散されるバッファ構造を構成した。隙間漏れの影響を最小化しつつも口元の空間を保持して息苦しさを大幅に低減できる構造を採用し、通気性と防飛沫性のバランスを両立させている。
現在の民生用マスクでの主流である不織布マスクは、一般的に装着時口元に張り付くことによる息苦しさや使い捨てである点、ズレやすさ、隙間漏れの影響による防飛沫性の低下が欠点として指摘されている。
今回の新しいマスクは既存の不織布マスクと比較して隙間ができにくく、且つフィルターの圧力損失を抑えることで隙間漏れの影響を最小化する構造となっており、特殊素材と合わせて防飛沫性は不織布マスクと比べて遜色ない性能を実現している。
また、ヒトは皮膚血流と発汗により暑さ(体温上昇)に対応するが、開発した「ハイブリッドタイプ™メッシュマスク」は安静時や運動時の体温上昇を抑制できることが確認され、これからの盛夏に向けて熱中症リスクの低減効果が期待できる。
実験では家庭用洗剤で約100回の実使用後の洗濯を行い、顕著な性能低下は見られないことが確認されている。
本マスクの効果をさらに高めるためにメッシュマスクインナーを装着することができる。通気性の良さは若干損なわれるものの、防飛沫性をより向上させることができる。
「新型コロナウイルスの感染拡大を背景に、マスク着用による健康二次被害が注目を集めています。一方で、マスクは健康被害が生じるような大きな生理的変化はないとの研究報告もあり、議論の分かれるところでもあります。
しかし、我々の研究では、一定の活動レベル(軽く息のあがる程度の活動)を超えると、非常に小さな血中酸素飽和度の低下の蓄積が血中乳酸濃度を高め、その生理的影響により全身からの熱放散が抑制されて、熱中症リスクが高まることがわかってきました。実際に深部体温の推移を計測したところ、不織布マスクを装着しながらの運動では、マスク未着用時に比べて深部体温が高くなることが確認されました。一方、オンヨネが東京エレクトロンの技術サポートによって開発した圧力損失ゼロで捕集能力の高いメッシュマスクを着用した場合は、その様子は確認されませんでした。
これらの結果から、本マスク技術が、学校や企業、一般生活における活動、特に飛沫飛散リスクが高まる息のあがる活動時において、熱中症、飛沫飛散を同時に防止するのに役立つと評価しております。」
withコロナの時代やこれから迎える本格的な暑い季節に向けて、日本のハイテク技術を応用したより快適でまた使い捨てによる資源の浪費を防ぐことができる新しいマスクは、多くのシーンで見られるようになるかもしれない。