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人工衛星で地球を覆い、全世界にブロードバンドを!

「宇宙インターネット」の挑戦、その期待と課題

文/鳥嶋 真也
2021.09.01
人工衛星で地球を覆い、全世界にブロードバンドを!

私たちの生活にとって欠かせないインターネット。とくに、画像や動画などの大容量データを頻繁にやり取りするようになった昨今、ブロードバンド(高速・大容量のインターネット接続サービス)の需要が大きく高まっており、巷でも「5G」が話題になっている。

しかし、世界の人口約77億人のうち、インターネットを利用できる人は約57%にすぎない。つまり、まだ半分近い人々がインターネットの恩恵を受けられない状況にあり、インターネットを使える人と使えない人との間で起こる「情報格差(デジタル・ディバイド)」が、世界的に大きな問題となっている。

アメリカの宇宙企業スペースXが構築中の、グローバル高速ブロードバンド網「スターリンク」の想像図
アメリカの宇宙企業スペースXが構築中の、グローバル高速ブロードバンド網「スターリンク」の想像図
©SpaceX

地球の津々浦々にまでブロードバンドを届けることはきわめて難しい。これに対して、世界の宇宙企業の間で、無数の小型衛星を打ち上げ、地球を覆うように配備することで解決しようという挑戦が始まっている。そんな気宇壮大な計画の詳細と期待、そして課題についてみていきたい。

情報格差(デジタル・ディバイド)

いま、世界の人口は増加の一途をたどっている。国連によると2019年時点で世界の人口は約77億人に達し、2050年ごろには100億人に達すると考えられている。

その一方で、総務省によると、現在インターネットを利用できる人は約57%で、アフリカや南米などといった開発途上国を中心に、世界の全人口の約半数がまだインターネットを利用できない状況にあり、高速・大容量のブロードバンドに至ってはさらに低い。先進国であるアメリカや日本でさえ、人口の約10%がネットを使えない状況にあり、ブロードバンドが通っていない場所はさらに多いのが実情である。

こうした中、インターネットが広く普及している国とそうでない国の人々の間、また同じ国の中でも普及している地域とそうでない地域との間で生じる格差、「情報格差(デジタル・ディバイド)」が、世界的に大きな問題となっている。いまやインターネットは教育や医療、産業など、日常のあらゆることに幅広く活用されており、そこに格差が存在することは、現在から将来にわたって大きな影響、そして禍根を生み出すことになる。持続可能な世界を実現するために17のゴール・169のターゲットからなる「持続可能な開発目標(SDGs、Sustainable Development Goals)」においても、その達成のため、デジタル・ディバイドの解消は重要な要素と定められている。

しかし、広大な砂漠や草原の中に町が点在しているような国や地域、島々が点在しているような諸島地域、極域などの自然環境の厳しい地域、さらには紛争が起こっている地域などに、光ファイバーのケーブルを敷いたり、電波の基地局を建てたりといったことはきわめて難しい。

また、さまざまな国や人にインターネットを利用してもらうためには、料金が安価でなければならない。さらに、インフラとして使う以上は、通信やサービスの安定性の高さも必要となるなど、技術やビジネスの面でさまざまな困難が立ちふさがっている。

宇宙インターネット

こうした中、数千機から数万機という膨大な数の人工衛星を打ち上げ、地球を覆うように配備することで、世界中にインターネットをつなげることを目指した、「宇宙インターネット」というアイディアが熱を帯びている。

このアイディアは、衛星放送などでおなじみの、従来からある通信衛星とはまったく異なるものである。従来の通信衛星は、「静止軌道」という軌道に衛星を打ち上げて通信をしている。静止軌道とは、地球の赤道上高度約3万5800kmにある軌道で、衛星が地球を回る動きが地球の自転と同期しているため、地球から見ると衛星がまるで空の一点で静止しているかのように、また逆に衛星からは地球のある特定の地点をつねに見下ろすことができることから、“静止”軌道と呼ばれている。

衛星の動きと地球の自転が同期しているということは、衛星やアンテナをつねに同じ方向に向けるだけで通信できる。しかし、静止軌道は力学的に赤道上にしか存在せず、それ以外の場所の上空に配備することはできない。したがって、日本や北アメリカ、南アメリカや南アフリカなど、高緯度地域からの通信には不向きで、たとえば日本でも、山やビルなどがあると通信できないことがある。また、高度が約3万5800kmと高い、言葉を変えれば距離が遠いため、通信には時間遅延(レイテンシー)が生じるうえに、その遠い距離を電波でやり取りするために、大きなアンテナと大電力が必要になる。つまり、静止衛星で全世界にインターネットをつなげることは難しい。

一方、宇宙インターネットの衛星は、高度数百kmの比較的低い高度を回るため、アンテナや電力も小さくでき、衛星そのものも小さくできる。距離も短くなるため遅延も小さく、また地球を南北に、あるいは斜めにたすき掛けをするように回るため、地球のあらゆる地域の上空を通過する。つまり、砂漠や大海原、ジャングルのど真ん中でも、さらには南極や北極でも、空さえ開けていれば通信ができる。

ただし静止衛星とは違い、地球の上空のある一点に、衛星を静止させ続けることはできない。そのため、多数の衛星を打ち上げ、コンステレーション(編隊)を組んで運用することで、地球のあらゆる地点の上空に、つねにどれかの衛星が存在するようにし、さらに衛星間で通信を中継することで、通信が途切れないようにする必要がある。つまり、静止衛星とはまた違う難しさがある。

このアイディア自体は1990年代の前半から存在した。当時はまだ先進国でも十分なネット環境がなく、なおかつ各都市、各家庭に回線を敷くのは困難が予想されたことから、衛星を使えばいいのではと考えられたのである。そして、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏と、携帯電話のパイオニアであるクレイグ・マッコウ氏らが立ち上げた「テレデシック(Teledesic)」やモトローラなど、いくつかのアメリカの企業が参入しようとした。

だが、当時はまだ衛星やロケットのコストが高く、とてもビジネスとして成立し得なかった。また、先進国の都市部では予想以上の早さで地上回線や無線基地局が整備され、需要を失ったこともあって、テレデシックをはじめ、多くの構想が頓挫した。

イリジウム衛星携帯電話でおなじみのイリジウムや、グローバルスターやオーブコムといったアメリカの企業はいまなお生き残っているが、軒並み破産を経験している。また、現状のこれらの通信は、回線速度が遅く、全世界にブロードバンドを届けるには至っておらず、船舶電話や、登山、災害時の通信手段などといった、ごく限られた用途にしか使われていないのが実情である。

しかし近年、電子部品の小型化と高性能化、低コスト化が進んだことで、衛星もまた小型・高性能化、低コスト化が進み、地上側に必要なアンテナなどの機材も小型化、低コスト化が進んでいる。さらに、再使用型ロケットの実用化などで、ロケットによる衛星の打ち上げコストも大幅に安くなりつつある。

こうした技術革新を背景に、今度は技術的に実現可能なものとして、そしてビジネスとして成立可能なものとなって、宇宙インターネットはふたたび大きな盛り上がりを見せているのである。

宇宙企業スペースXを設立したイーロン・マスク氏
[図1] 宇宙企業スペースXを設立したイーロン・マスク氏
©SpaceX

スペースXのスターリンク

現代の宇宙インターネットにおいて、そのトップを走るのが、アメリカの宇宙企業スペースXが構築中の「スターリンク(Starlink)」である。

スペースXは2002年に、実業家のイーロン・マスク氏(図1)によって立ち上げられたアメリカの宇宙企業で、ロケットや宇宙船などの開発、運用を手掛けている。従業員数は約1万人、2020年のロケット打ち上げ数で世界最多となるなど、世界一の宇宙企業として君臨している。

同社が構築中のスターリンクは、高度数百から約1000kmの軌道に、1万2000機から4万2000機もの数の質量約250kgの小型衛星を打ち上げることで構成される。これは史上初の人工衛星「スプートニク」が打ち上げられた1957年以来、2018年までに打ち上げられた衛星の合計数(約7000機)よりもはるかに多く、まさに途方もないものである。

地上側に必要なのはピザの箱ほどのサイズのアンテナをもった端末(図2)のみで、このアンテナを介して衛星と、スマートフォンやパソコンなどの端末を接続する。

スターリンク衛星との通信に使う地上側のアンテナ
[図2]スターリンク衛星との通信に使う地上側のアンテナ
ピザの箱ほどのサイズで、これを介して衛星と、スマートフォンやパソコンなどの端末とを接続する
©SpaceX

また、衛星の開発、製造から、ロケットによる打ち上げ、そして運用まで、すべてをスペースXが自社で一貫して行う点も大きな特徴である。

スターリンク衛星の打ち上げは2018年2月に始まり、2021年7月までに1740機が打ち上げられている。衛星が小型で、また板のように薄い形状をしていることもあり、一回の打ち上げで60機を同時に打ち上げて展開できるのが大きな強みである(図3)。打ち上げられた衛星のうちいくつかは、試験の終了やトラブルによって運用を終えているが、それでも2021年7月の時点で1600機以上の衛星が稼働している。

現時点ではまだ、全世界を24時間365日カバーするには至っておらず、通信ができない空白地域があるものの、すでにアメリカなど一部の地域で、スペースXの従業員や有志のテスターによる実証試験が始まっており、150Mbpsの通信速度が出ているという。

この初期の衛星は、高度540kmから570kmの軌道に打ち上げられており、最終的にその数は4408機にもなる予定である。これらの衛星はKuバンドとKaバンドという周波数帯を使って通信する。この周波数帯は小さなアンテナでの大容量通信に適しており、近年、既存の衛星通信でも主流になりつつある。

またその後、高度345kmの軌道に、Vバンドという60GHz帯の周波数を使う衛星を約7500機打ち上げることが予定されており、さらにEバンドと呼ばれる、70〜90GHzのさらに高い周波数帯を使う衛星を3万機打ち上げる計画もある。

VバンドやEバンドのように、高い周波数の電波を使った通信の場合、雨や大気によって電波が吸収され、減衰しやすくなるという弱点もあり、実際に衛星通信として使うための技術はまだ開発途上にある。しかし、10Gbpsもの高速・大容量通信や、妨害を受けにくいことを活かした機密の高い通信などが可能になると期待されていることから、世界的に技術開発が活発に行われている分野でもある。

4万2000機もの衛星を打ち上げるというのは途方もない計画だが、スペースXは今後さらに打ち上げ頻度を高くすると表明している。また現在、スペースXは史上最大となる巨大ロケット「スターシップ/スーパー・ヘヴィ」の開発を進めており、打ち上げコストも1回あたり200万ドルと、現在の約100分の1にまで安価になるとされる。実用化されれば、さらに大量の衛星を、より手軽に打ち上げられるようになり、軌道上への配備数は爆発的に増加することになろう。

マスク氏は、このスターリンクで得た利益を、自身とスペースXが構想している人類の火星移住計画の資金源とすることを表明している。また、火星でスターリンクと同じ宇宙インターネットを構築する構想もある。

スターリンク衛星との通信に使う地上側のアンテナ
[図3]ロケットで打ち上げられたスターリンク衛星群
それぞれの衛星は板のように薄い形状をしており、積み重ねて搭載することで、1回の打ち上げで60機もの数を宇宙に送り込むことができる
©SpaceX

ワンウェブと、そのほかの計画

ワンウェブ(OneWeb)は2012年に設立された企業で、イギリスとアメリカに拠点を置く。同社を設立した実業家のグレッグ・ワイラー氏は、かねてよりデジタル・ディバイドの解消に熱心に取り組んでおり、かつてはアフリカのルワンダで、携帯電話や有線インターネットの事業を手掛けた。しかし、相次ぐ紛争で疲弊した土地に、新たにケーブルを敷いたり大掛かりな基地局を建てたりすることは難しく、宇宙インターネットに目をつけた。

ワイラー氏はまず、2007年に「O3b」という会社を立ち上げ、赤道直下を中心とした地域にインターネットを提供する事業を始めた。O3bという社名は「Other 3 billion(残りの30億人)」という意味で、デジタル・ディバイドで取り残された30億人にインターネットを届ける、という意味が込められている。

O3bの衛星は2013年と2019年にかけて計20機が打ち上げられ、2014年から正式にサービスが始まり、現在も稼働している。ただ、O3bの衛星は赤道上を回るため、サービスを提供できるのは赤道を中心とした地域だけである。赤道上が選ばれたのは、インターネットが未発達な国が赤道近くに多くあることが理由で、実際これらの地域では大きな役割を果たしているが、O3bだけでは全世界にインターネットを届けることはできない。

そこでワイラー氏は、次の一手としてワンウェブを設立。ワンウェブ衛星は、高度1200kmの地球を南北に回る複数の軌道に、質量約150kgの小型衛星を648機打ち上げ、地球を覆うように配備する(図4)。これにより、地球のあらゆる地域にインターネットを提供することが可能になる。

ワンウェブの模式図
[図4]ワンウェブの模式図
地球を覆うように多数の衛星を打ち上げ、地球のあらゆる地域に、高速かつ低遅延のインターネットを提供することを目的としている
©Airbus D&S/OneWeb

ちなみにワイラー氏は、2013年から14年にかけてGoogle(アメリカ)に在籍し、前述のマスク氏とともに宇宙インターネット計画を進めようとしていた。ただ、詳細は不明ながら何らかの意見の相違があり、ワイラー氏はGoogleを退社。マスク氏とも袂を分かち、お互い別の宇宙インターネット網を構築することとなった。

ワンウェブ衛星の打ち上げは2019年2月から始まり、通信の技術実証実験にも成功している。資金調達の面でも、ヴァージン・グループ(イギリス)やエアバス・グループ(フランス)、半導体大手のクアルコム(アメリカ)、日本のソフトバンクグループなどから出資を受け、順風満帆かにみえた。

しかし、2020年には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響などで資金調達に失敗。3月には米国破産法第11章(チャプター11)の適用を申請し、経営破綻した。その後、7月になってインドの移動体通信大手バーティ・グローバルとイギリスのビジネス・エネルギー・産業戦略省からなるコンソーシアムが買収。衛星の打ち上げも再開され、2021年7月までに254機の衛星が打ち上げられている(図5)。今後は648機まで衛星を増やし、ゆくゆくは6372機、さらには4万8000機まで増やす構想もある。

ワンウェブ衛星の想像図
[図5]ワンウェブ衛星の想像図
©OneWeb

このほか、まだ打ち上げは始まっていないものの、アメリカのネット通販大手のAmazon.comも「プロジェクト・カイパー(Project Kuiper)」と呼ばれる独自の宇宙インターネット計画を進めており、今後約10年をかけて、3236機の衛星の打ち上げを計画している。また、カナダの衛星通信大手「テレサット」も宇宙インターネットの構築を計画している。こうした宇宙インターネット計画が軌道に乗り、低価格、高信頼性のサービスを提供することができれば、望む人すべてにインターネットを届け、デジタル・ディバイドの解消に向けた、大きな可能性の扉が開く。スターリンクだけでなく、多くの企業が参入すればするほどその可能性は高くなり、そして価格競争による低価格化や信頼性向上も図れるだろう。

また、すでにブロードバンドによる恩恵を受けている国や人々にとっても、地震や水害などの大規模災害時に、地上のインフラに依存しない宇宙インターネットは大きく役立つことが期待される。

宇宙ごみの問題と天文観測への影響

しかし、スターリンクだけでも最大約4万機、他社も含めると10万機以上もの、まさに無数ともいえる数の小型衛星が地球周辺に打ち上げられることは、いくつかの弊害も生む。

ひとつは宇宙ごみ、いわゆるデブリの問題である。地球の軌道上には、運用を終えたり故障したりした衛星や、打ち上げたあとのロケットの部品、宇宙ステーションなどから投棄されたごみ、さらには衛星やロケットの爆発や衝突により発生した破片などが回っており、これらをまとめて宇宙ごみと呼ぶ。

その数は現時点で、地上から観測できる10cm以上の物体が約2万個、観測はできないものの、理論上1cm以上の物体は50~70万個、1mm以上になると1億個を超えると推測されている。

こうした宇宙ごみも、他の衛星と同じく、秒速数kmもの猛スピードで飛んでおり、たとえ小さなねじ程度の物体でも、運用中の衛星に衝突すると故障や爆発を引き起こす危険性がある。宇宙ごみは増加の一途をたどっており、今後もロケットや衛星の打ち上げ数が増加したり、爆発や衝突が起こったりすることで、その数がさらに増え、将来の宇宙活動の妨げになると危惧されている。

宇宙インターネットの構築を目指す各社は、それぞれが数万機もの衛星の打ち上げを計画しており、軌道上の衛星の数はかつてないほど増える。そうなれば、既存の宇宙ごみと衝突する可能性は上がり、あるいは宇宙インターネットの衛星自身も宇宙ごみになってしまう可能性も上がる。もちろん、「衛星が地球を覆う」というのは比喩的な表現であり、地球周辺の空間は広大なため、たとえ数万機の衛星が打ち上げられても、文字どおり衛星同士がひしめき合うようなことにはならない。それでも、衝突の確率が確実に上がることは間違いない。

そのため各社は、衛星の設計段階から対策を講じている。たとえばスターリンクの衛星は、運用終了時にエンジンを逆噴射して軌道から外れ、地球の大気圏に自ら落下して燃え尽きるように設計されている。また、高度500~300kmという衛星の中でも比較的低い高度で運用することもあり、故障した際も大気との抵抗で高度が落ちやすく、比較的早く大気圏に落下するようにもなっている。さらに、自律的に他の衛星や宇宙ごみとの衝突を避ける自動運転のような機能も搭載されている。こうした機能は他社も追随するとみられており、宇宙ごみ対策には明るい期待がもてる。

一方、宇宙ごみ以上に大きな問題となっているのが、天文観測や宇宙研究への悪影響である。衛星は飛行機のように自ら光を発することはないが、太陽電池やアンテナなどに太陽光が反射することで、明るく見えることがある。とくに低い軌道を飛ぶ衛星であればあるほど、その光が地上まで届きやすくなる。

実際、すでに世界各地で、スターリンク衛星が数珠つなぎになって夜空を流れていく様子が目撃され、SNSなどで話題になっている。「流れ星や銀河鉄道のようできれい」という声もあるが、アマチュア天文家や天文台の研究者などからは「望遠鏡で宇宙を観測しているときに映り込んでしまう」と非難の声が挙がっている。

これを受け、スペースXは光を反射しにくく改良したスターリンク衛星を開発し、現在では以前より見えにくくはなっている。しかし、天体観測においては、遠くの星の淡い光を写すために、長時間露光したり、高感度のカメラを使ったりすることが多い。そのため、いくら肉眼では見えにくくなっても、画像にはくっきりと映り込んでしまう被害はいまなお続いている(図6)。

2019年5月、アメリカのローウェル天文台で撮影された星空
[図6]2019年5月、アメリカのローウェル天文台で撮影された星空
多数の斜線はすべてスターリンク衛星によるものである。現在では反射が抑えられた新しい衛星が打ち上げられているため、これほど明るく映り込むことはないが、それでも問題が完全に解決したわけではない
©Victoria Girgis/Lowell Observatory

また、宇宙インターネットによる天文観測への悪影響は反射光だけではない。天文学の中には、目で見える光(可視光)だけでなく、電波で観測する電波天文観測という分野がある。宇宙インターネット衛星は、つねに空のあらゆる場所から地上に向けて電波を出して通信するため、電波望遠鏡がその電波を拾ってしまい、ノイズ(雑音)となって観測の妨げになるということが起こっている。

とくに、光の問題と同じく、電波天文観測では遠くの宇宙や天体から届く微弱な電波を受信して観測するため、たとえほんの少しのノイズが入り込むだけでも、観測や研究に大きな影響が出る。また、電波は反射したり漏れたりするため、直接電波望遠鏡に向けて出された電波でなくとも受信されてしまうことがある。

この対策としては、衛星が電波望遠鏡周辺の上空を通過する際には電波を出さないようにするなどといったことが考えられるが、技術的、また天文台周辺への安定したサービスの提供などといった点では難しさもある。

今後、宇宙インターネットの事業者と、天文学者たちとが協力し、より良い解決策を考え、そして実際に対策をとっていくことが求められる。そして、インターネットを使うユーザーであり、そして宇宙と星空を愛する私たち一人ひとりが、デジタル・ディバイドの問題と同じくらい、この問題に関心を持ち続けることも大切である。

宇宙インターネットは、私たちの生活をさらに豊かにし、人類全体の幸福と知識の向上に資する可能性も秘めている。一方で、天文観測とそれによる天文学の発展も、この世のことわりを解き明かし、人類全体の知識の向上に役立つものである。どちらを取るかではなく、たとえ困難でも、どちらも両立させてこそ、人類の明るい未来が拓けるのである。

いつか、デジタル・ディバイドと星空汚染の問題に、暗闇に映える星々のように、光り輝く希望が生まれることを願いたい。

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。主な著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、論文誌などでも記事を執筆。

Webサイト:http://kosmograd.info/
Twitter:@Kosmograd_Info

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