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Science Report
サイエンス リポート

難加工材セラミックスへの適用実現で本格化、3Dプリンターによる製造イノベーション

文/伊藤 元昭
2022.08.03
難加工材セラミックスへの適用実現で本格化、3Dプリンターによる製造イノベーション

何もないところに、思い通りの形をしたモノを自在に作り出す3Dプリンター。ものづくりの専門家でなくても魅了される魔法のような製造装置である。そんな3Dプリンターが、利用可能な材料の種類が増加したことで、応用先が急拡大している。そして、難加工材の代表格として知られていたセラミックスも、3Dプリンティングの対象にできるようになった。セラミックスは、工業製品の素材として多くの有用な特性があることを知られながら、加工しにくさが災いして、その潜在能力ほどには応用が広がっていなかった。3Dプリンターでの造形が可能になったことで、その応用範囲が一気に広がる可能性がある。この記事では、3Dプリンターの活用で起きる製造イノベーションのインパクトと、その中核に位置するセラミックス材料を使った3Dプリンティングの技術開発と活用の動向を紹介する。

製造業でのビジネスイノベーションを生み出す手段として、3Dプリンターの活用に注目が集まっている(図1)。

3Dプリンターには、切削加工や射出成型、鋳造など、従来加工法では実現できない形状のモノを実現できる極めてユニークな特徴がある。しかも、多様な製品を効率よく作り分けることができる特徴も備えている。これらは、より付加価値の高い工業製品を生産する手法として、代えがたい有利な特徴だ。ただし、どのような素材のモノでも、3Dプリンティングで造形できるわけではない。その利用シーンを拡大するためには、モノを造形する際に利用可能な材料をさらに多様化する必要がある。

3Dプリンターでの加工イメージ
[図1]3Dプリンターでの加工イメージ
樹脂材料を使った場合(左)、金属材料を使った場合(右)

3Dプリンターが生み出す製造業のイノベーション

人類の文明を飛躍的に発展させた18世紀半ばから19世紀にかけて起こった産業革命以来、製造業は同じアプローチの枠内で進歩してきた。同じモノをより高効率、安価、高品質に大量生産する手法を追求するというものだ。

同様に、材料から部品や構造物などを作り出す際の形作りの加工法にも、長く利用し続けてきた一定のアプローチがあった。均質な材料の塊から最終的に使わない部分を削り取り、目指す形を作り出すという方法である(図2)。石から彫刻を掘り出すように加工する切削加工は、その代表例である。半導体チップの加工でも、ウエハー上一面に膜を付ける作業と、利用しない部分を取り除く作業を繰り返して、複雑な微細回路パターンを形成している。こうした、いわば引き算の加工方法による製造手法は、「サブストラクティブ・マニュファクチャリング」と呼ばれている。サブストラクティブ・マニュファクチャリングが、従来の製造業で主流だった理由は、安定した品質の製品を大量生産するのに向く手法だからだ。

サブストラクティブとアディティブの違い
[図2]サブストラクティブとアディティブの違い
作成:伊藤元昭

これに対し3Dプリンターは、長年にわたって製造業での加工法の主流だったサブストラクティブ・マニュファクチャリングとは異質な方法である。モノの形を構成する材料を少しずつ足し合わせていくことで、作り出したい形を造形する。こうした、いわば足し算の加工方法による製造手法は、「アディティブ・マニュファクチャリング」と呼ばれている。3Dプリンターだけでなく、必要な部分にだけ微小インクを吐出して文字や絵を描くインクジェット・プリンターも、アディティブ・マニュファクチャリングの具体例の1つである。

アディティブな加工法には、サブストラクティブな加工法にはない、有益な特徴が複数ある(図3)。そして、その多くがこれからの製造業に求められるニーズに応える有益な特徴だ。3Dプリンティングに適用可能な材料の幅が広がることで、これらのメリットをより多くのモノづくりで享受できるようになる。具体的に挙げたい。

3Dプリンターを利用した加工のメリットと作り出した複雑な形状例
[図3]3Dプリンターを利用した加工のメリットと作り出した複雑な形状例
作成:伊藤元昭

まず、1つひとつのモノを個別に加工するため、形の作り分けが容易な点だ。現在、製造業に属する多くの業界において、顧客が要求する仕様に応じた製品を効率よく作り分ける「マスカスタマイゼーション」への対応が求められるようになった。3Dプリンティングならば、柔軟な製品の作り分けが可能である。また、同じ装置で、求める形状のモノを、必要な時に、必要な量だけ製造できるため、作り貯めや在庫管理が不要のタイムリーな製品提供が可能である。これは、需要に迅速に対応し、なおかつギリギリの高効率化が求められる現代のサプライチェーン管理に適合したモノづくりの方法だと言える。

また、従来加工法では実現不可能だった、難造形形状のモノを作ることができる。材料の塊から不要な部分を削り取る加工法では、削り取りに使う工具が届く範囲しか加工できない。複雑な形状のモノを作る際には、作りやすい形状のパーツを複数作り、別途組み立てる必要があった。3Dプリンターなら、3D CADで設計できるモノであれば、どのような形状でも1発で作り出すことが可能だ。このため、継ぎ目のない高品質な製品を、最小限の工程数で製造できる。そして、3Dプリンターでの製造を前提として、これまで考えもしなかったような奇抜な形状の部品を設計し、飛躍的な強度の向上や軽量化を可能にするための設計手法も確立されてきている。

さらに、モノづくりのデジタル化を後押しすることができる。3Dプリンターは、3D CADで設計したデータを基に、求める形を作り出す。従来の加工法で高品質な製品を作り出すためには、汎用的な加工機を高度な技能を持つ職人が使いこなすことで実現する神業のような加工が必要な場合があった。3Dプリンターによる製造では、少なくとも加工工程においては、基本的に属人的技能が要求される余地がほとんどない。このため、キッチリとした設計データを開発できれば、世界中、どこの製造拠点でも同じモノを作ることができる。また、開発資産をデジタル化し、オープンソース化することも可能である。

用途と目的に合わせて3Dプリンティングの方式と材料を使い分け

製造業で利用するメリットが多い3Dプリンターだが、造形技術の異なるいくつかの方式がある。そして、製造に利用する材料と造形の方式によって、出来上がるモノの特性や応用適性が変わってくる(表1)。それぞれの方式で、どのような材料を適用可能なのか紹介したい。

3Dプリンターの方式と適用可能な材料
[表1]3Dプリンターの方式と適用可能な材料
作成:伊藤元昭

1番目は、熱溶解積層(FMD)方式。材料を加熱して溶かし、ノズルヘッドから噴射して、設計データに基づき、下から上へ少しずつ材料を積み上げてモノの形を作っていく方法である。ソフトクリームを高く、螺旋形状に仕上げるのと同等の仕組みだ。プリンターが小型で、かつ構造が単純であり、比較的安価で手軽に利用できる点が特徴。ABS樹脂*1、PLA樹脂*2など熱可塑性樹脂に適用できる。熱溶解方式の材料は、一般にフィラメントと呼ばれている。また近年では、熱溶解するわけではないが、コンクリートを同様の方法で押し出し、家や風力発電設備のタワーを作るために利用しようとするアイデアも出てきている。

2番目は、粉末焼結積層造形(SLS)方式。パウダー状の材料にレーザー光を照射させて、作るモノの断面形状を1層ずつ焼き固めて積層し、立体物を造形していく。複雑な形状の造形に向いている。焼結に向けた熱源に電子ビームを利用し、高密度、高強度の高速造形を可能にする技術も使われている。この方式は、熱可塑性のナイロン樹脂など以外にも、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、銀、チタン、インコネル*3など金属にも適用できる。このため、試作品作りだけでなく、最終製品の製造手段として、多様な製品作りが可能だ。

3番目は、光造形(SLA)方式。液体状の紫外線硬化性樹脂に紫外線レーザー光を当てて、1層ずつ硬化させながら立体物を造形する。熱による影響が少ないため、材料の収縮や変形が起きにくい。さらに、高精度で大型のモノの造形に向いている。光造形方式の材料は、一般にレジンと呼ばれている。

4番目は、インクジェット方式。インクジェット・プリンターのヘッドから紫外線硬化性樹脂を噴射し、紫外線を当てながら固めていく。高精度な造形が可能な点が特徴である。アクリル樹脂やゴムなどの材料に適用できる。

5番目は、粉末接着方式。粉末材料を敷き詰め、そこにヘッドから接着剤や着色剤を塗布しながら固め、1層ずつ積層していく。比較的高速で、しかもフルカラーでの造形が可能である。石膏などの粉末に適用できる。

これら5つの造形方式は、造形するモノの利用環境や目的などに応じて使い分けられ、同時に使用する材料も適切なモノが選定される。近年、各方式の3Dプリンターの高速化、高精度化、大型化が進み、利用シーンが年々拡大している。さらに、3Dプリンティングと従来の切削加工、表面処理などを併用することで、高精度な加工を可能にする手法も確立されてきており、利用しやすくなっている。これによって、製品開発過程での試作や装置・設備を構成する部品、治具の製造、さらには金型・鋳型の制作など、ものづくりの様々な場面で3Dプリンターが活用されるようになった。

有用な数々の特徴を持つが難加工材の代表格、セラミックス

多様な樹脂や金属を利用できるようになったが、工業製品を形作る材料として極めて有用な特徴を備えていながら、依然として3Dプリンティングへの適用が困難な材料もあった。セラミックスはその代表例である。

セラミックスには、工業製品の材料として、樹脂や金属材料にはない多くの特徴がある。まず、硬い物性から、強度や耐摩耗性に優れる。その硬さは、タングステンなど超硬金属よりも高く、ダイヤモンドに迫る。さらに、表面を緻密に仕上げることが可能であり、焼き物が芸術品となっているように、質感の高い製品を作ることができる。加えて、高い耐熱性、耐蝕性、耐天候性、絶縁性、組成を変えれば導電性や誘電性を実現できる。また、毒性もなく、金属アレルギーなど生体に悪影響を与えることもない。こうした数々の特徴は、工業用の容器や装置部品、建材や産業プラント、電力インフラを構成する部品の材料としても極めて有用だ(図4)。

現在のセラミックスの応用例 現在のセラミックスの応用例
現在のセラミックスの応用例 現在のセラミックスの応用例
[図4]現在のセラミックスの応用例

ところが、セラミックスは、陶器や磁器を作る材料として1万年以上にわたって使われてきたにもかかわらず、工業製品の材料としては十分使いこなせないままでいる難加工材の代表例である。

一般に、セラミックスは、セラミックスの原料粉末を水分や有機溶媒中に均一分散させ、その状態で造形。その後、焼結と呼ぶ1000℃を超えるような高温処理を加えて溶媒を飛ばし、同時にセラミックス粉末の粒同士を結合させて、造形物を完成させる。この焼結という工程は、加工技術としてはかなり扱いにくい厄介なものだ。焼結によって造形物は縮んでしまい、大きさも形状も変わってしまうからだ。場合によっては、10%以上の縮みや歪みが生じる。逆説的ではあるが、茶碗や壺などの焼き物に1点モノの価値がつくのは、この特徴による無作為の出会いがあるためだ。さらに、前述したように、焼結した後は極めて硬くなり、焼結後には切削加工などができなくなる。このため、狙った大きさ、形状の造形物を精密に作ることがとても難しい。

日常的に陶器を利用して生活している私たちは、セラミックスは生活の中で身近にあるありふれた素材だと思いがちだ。しかし、こうした加工の難しさから、セラミックスはその潜在能力の割には、応用が広がっていない状態にあると言える。本来有用な材料であるセラミックスを利用し、3Dプリンティングを使って思い通りの形状に造形できるようになれば、そのメリットは計り知れない。

これまで、セラミックスの3Dプリンティング技術は、光造形法によって、小型部品を製造できる程度にとどまっていた。裏技として、粉末接着方式の3Dプリンターを活用すれば、セラミックスの粉を樹脂材料で固めて造形することはできた。しかし、造形物の形状は樹脂で維持されているため、セラミックスの優れた特徴を、そのまま利用することはできなかった。

焼結後にほとんど縮まず変形しないセラミックス材料が登場

ところが近年、3Dプリンティングに活用できるセラミックス材料がついに登場してきた。

AGCセラミックスは、3Dプリンター用セラミックス造形材開発と、その活用に最適化した粉末接着方式の3Dプリンティング技術を開発した。焼成後の収縮率が1%以下と極めて小さく、設計図通りに3Dプリントした焼成前の造形物の形状を、焼成後もほぼそのまま維持できる点が特徴だ。しかも、造形物を形成する際の層の厚さが0.1mmと薄く、積層痕が目立たない精度で造形できる。開発した材料を活用すれば、3D CADで描いた緻密で複雑な造形物を、セラミックスを素材として、±0.5mmの高精度で出力できる。既に、ステンレス鋼や鋳鋼などを精密に鋳造するための鋳型の製作や、形状が複雑なエンジン用部品の製造など幅広い用途で使われている。

「Brightorb」と呼ぶ同社が開発した新材料は、極微粒(約50μm)の人工セラミックスビーズと、水分で硬化するアルミナセメントの混合粉末である(図5)。主原料は、元々、ガラス窯用耐火物の製造工程で発生する副産物であり、いわばリサイクル材だ。このため、廃棄物削減にも貢献する。

AGCセラミックスが開発した3Dプリンター用セラミックス造形材「Brightorb」
[図5]AGCセラミックスが開発した3Dプリンター用セラミックス造形材「Brightorb」
Brightorbの粉末(左)、造形に使用する3Dプリンター(中)、3Dプリンティングした水冷式マニュホールド形状の鋳造部品の鋳型(右)
出典:AGCセラミックス

3Dプリンティングする際には、3Dプリンターのヘッドから設計データに基づいて硬化液を吐出して1層分の断面形状を描く。そして、それを積層していくことで立体物を精密に造形していく。出来上がった造形体は、含浸剤に浸して造形中に生じた目に見えない小さな隙間を埋めて、気密性を高める。その後、焼成し、水分や有機成分を除去して含浸剤浸透層を硬化させて、造形物を完成させる。造形後には、釉薬を上塗りして再焼成することで、表面の性質を改質したり、質感を向上させたり、着色したりすることもできる。

一方、森村グループ*4は、大阪大学や産業技術総合研究所と共同で、2014年~2018年にかけて実施した内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「高付加価値セラミックス造形技術の開発」の中で、AGCセラミックスとは別アプローチからのセラミックスの3Dプリンティング技術を開発した。

同グループでは、3Dプリンティングでの利用を想定した素材の調整、セラミックス材料を扱うことを想定した新たな粉末焼結積層造形方式と光造形方式、レーザー光による直接焼結技術を開発した(図6)。粉末焼結積層造形方式と光造形方式に注力した理由は、いずれも複雑形状への対応が容易で、造形精度が比較的優れているからだ。大型の造形物には粉末焼結積層造形方式を、小型で高精度が求められる造形物には光造形方式の適用を想定している。

森村グループが開発した粉末焼結積層造形方式と光造形方式でのセラミックスの3Dプリンティング技術、レーザー光による直接焼結技術
[図6]森村グループが開発した粉末焼結積層造形方式と光造形方式でのセラミックスの3Dプリンティング技術、レーザー光による直接焼結技術
粉末焼結積層造形方式の装置構造(左)、光造形方式の装置構造(中)、レーザー光による直接焼結技術の原理(右)
出典:SIP「高付加価値セラミックス造形技術の開発」のホームページ

粉末焼結積層造形方式では、セラミックス原料と樹脂バインダーの混合粉末を材料供給⽤ピストンに準備し、スクイーザー、もしくはローラー積層システムによって厚さ約0.1mmの層を塗布する。そして、硬化させたい部分にレーザー光を当てて加熱。樹脂を溶融させて原料粉末を融着させる。これが終わったら、成形部を層の厚み分だけ降下させて、同じ作業を繰り返す。SIPでは、原料粉末を充填しやすくするための原料粉末前処理や粉末供給⽅法、積層⽅法、圧密⽅法などを改良。さらに、レーザー照射条件の最適化や脱脂、焼結などの後処理技術を工夫することで、造形精度を高めた。

光造形方式では、光硬化性の液体樹脂にセラミックス微粒子を分散させたスラリーを⽤いて、3次元造形物を精密かつ高速に作製する手法を開発した。スラリーを機械制御のナイフエッジで基板上に塗布し、レーザー照射により光硬化させ、任意形状の2次元断面を形成させる。これを繰り返すことで、粉末焼結積層造形と同じように立体形状の成形体が得られる。SIPでは、セラミックス微粒子を液体樹脂に混合する際に、攪拌脱泡法などを導入。脱泡と同時に高濃度の分散を図り、造形精度の向上を図った。さらに、各種形状の部材の造形に対応した最適な混合条件などを検討した。

レーザー光による直接焼結技術は、成形と最終焼結を同時に行う開発途上の技術である。実現すれば、後焼結プロセスの省略、焼結炉不要、コスト低減などの大きなメリットが生まれる。同グループでは、酸化物セラミックスを主成分として酸化物系焼結助剤を添加した系、非酸化物セラミックスを主成分として金属系結合相を添加した系、非酸化物の共晶系複合セラミックス材料系を対象とし、直接レーザー焼結に向けた開発を行っている。SIPでは、基盤的技術として単層の粉体床・スラリー塗布層へのレーザー照射を行い2次元の焼結挙動を明らかにすると共に、材料系や波長によって異なるレーザー吸収挙動、加熱挙動と焼結挙動の関係を系統的に調べた。

これら以外にも、キヤノンやリコー、新東Vセラミックスなどが、セラミックスの3Dプリンティングを実用化。選択肢が広がると共に、3Dプリンティングの一大潮流になりつつある。

アートや工業デザインの分野にもイノベーション

セラミックス材料を用いた3Dプリンティング技術は、意外な分野にもイノベーションを起こしつつある。それは、アートや工業デザインの分野である。これまでは、陶芸やアクセサリー制作など一部を除けば、アートや工業デザインの分野で素材としてセラミックスを使った作品を作ることはほとんどなかった。アーティストやデザイナーが意図した通りの形状で作品を作ることができなかったからだ。これが、焼成後にも形状が歪まないセラミックス材料の登場と、形状を自在にクリエイトできる3Dプリンティング技術が確立したことで状況は一変。これまであまり使われてこなかった、魅力的な表現ができる素材として、セラミックスを見るアーティストなどが出てきた。

工業デザインを手掛けるスタジオであるPRODUCT DESIGN CENTER(PDC)は、3Dプリンティングで造形した正方形のセラミックパネルを使用して、建築家フランク・ロイド・ライトの作品をオマージュしたデザインの照明を制作した(図7)。また、コンピュータ上で水の波紋を緻密にシミュレーションし、これをセラミックスで3D プリンティングし、釉薬で水のようなつやを表現することで、水面の波紋が広がる一瞬を切り取り表現した作品も制作された。工業デザインの世界では、形や色での差別化が成熟し、新しい突破口として素材の違いに注目が集まっている。工業製品の素材としてのセラミックスは、手つかず状態の素材であり、価値あるデザインを生み出す可能性が出てきている。

フランク・ロイド・ライトの作品をオマージュしたデザインの照明 照明のシェードの拡大
水面の波紋が広がる一瞬を切り取り表現した作品 水面の波紋の別部分
[図7]PRODUCT DESIGN CENTERがデザインし、セラミックスの3Dプリンティング技術で実現した作品
フランク・ロイド・ライトの作品をオマージュしたデザインの照明(左上)、照明のシェードの拡大(右上)、水面の波紋が広がる一瞬を切り取り表現した作品(左下)、水面の波紋の別部分(右下)
出典:AGCセラミックス

3Dプリンティングが可能な材料は、これからさらに拡大していくことだろう。次は、おそらく細胞など生体を材料として、臓器などを作る技術で大きなイノベーションが起きる可能性が高い。実際、多くの研究機関が技術開発を進めており、一人ひとりの体に合わせたカスタム制作できる3Dプリンティングの特徴は、この分野との相性がよい。3Dプリンティングによるイノベーションの波及は、これからが本番だ。

[ 脚注 ]

*1
ABS樹脂:アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)が化学的に結合した熱可塑性樹脂。耐衝撃性、耐熱性、耐寒性、耐薬品性に優れる汎用性の高いプラスチック。
*2
PLA樹脂:主にトウモロコシ、テンサイ、小麦やジャガイモなどの植物から抽出されたデンプンを発酵、乾燥させて重合した熱可塑性樹脂。成分が植物由来のため、廃棄処理後は二酸化炭素や水に分解される特徴がある。
*3
インコネル:ニッケルを主成分とし、クロム、鉄、炭素などを添加した、耐熱性と耐蝕性に優れた金属。
*4
森村グループ:日本の陶磁器産業の企業グループであるTOTO、日本ガイシ、日本特殊統合、ノリタケカンパニーリミテッド、森村商事の5社。
Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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