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Science Report
サイエンス リポート

Web3時代のエンターテインメント産業の基盤を、ブロックチェーンの利用で築くチャレンジ

文/神吉 弘邦
2022.09.08
Web3時代のエンターテインメント産業の基盤を、ブロックチェーンの利用で築くチャレンジ

2021年頃より、にわかに脚光を浴びた「Web3」というコンセプト。これは次世代のネット社会を描く青写真である。喧伝されるイメージは「GAFAMに代表されるテックジャイアントが支配するインターネット上のコンテンツを、非中央集権的な新しいプラットフォームに解放していく」といったものだ。しかし、激しく変動する暗号通貨マーケットの投機的な思惑にも左右され、リアルな姿がなかなか見えてこないのも現状。実際にどのようなプロジェクトが立ち上がっているのか、エンターテインメント界で先陣を切るふたりに聞いた。

Web3とは、2010年代にはすでに既知だったテクノロジーの上に立つものだと言える。1980年生まれのコンピュータ科学者で、ブロックチェーン・プラットフォーム「イーサリアム」の共同創設者でもあるギャビン・ウッドが初めてWeb3を提唱したのが2014年。その際は、かつてティム・オライリーが2000年代初頭に唱えた「Web2.0」のインパクトを明確に意識していた。SNS時代の到来によって情報の送り手と受け手の立場が対等になり、誰もが自由に発信しやすく進化した21世紀のワールド・ワイド・ウェブ。しかし、やがてWeb2.0時代の勝者である一部企業に情報とパワーが集中していった流れは周知の通りである。

ネット上の「情報の透明性」を保ち、個人の履歴が囲い込まれず、オープンに履歴に刻まれていく理想を求めるWeb3。定義は定まっていないものの、その構成要素はいくつかあるだろう。まずは、「ブロックチェーン」との接続。暗号通貨だけでなく、今後はすべてのWeb3アプリケーションが利用していくことになる。次に、中央に管理者を設けずメンバー間で組織を管理・運営する「DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律組織)」と呼ばれる体制の普及。企業体のようなヒエラルキー組織が代わるという、1990年代後半に掲げられた理想に立ち戻れるのかもしれない。さらには、法定通貨によらない暗号通貨やトークンによる経済圏の誕生。コミュニティへの参加や奉仕への対価としてブロックチェーンに紐づいた報酬が与えられるだけでなく、「NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)」をアート作品のように販売、資産として所有する動きが注目されている。

NFTが注目されているのは、ブロックチェーンによって唯一無二の価値が保証される安心性だけではない。株のように売買することで、評価を高めたNFTの価値が上がっていく。こうした金銭的な価値に加え、さらに大きなメリットがあるとWeb3時代を見据えたクリエイターたちは語る。それはどういうことか。

NFTドリームを日本の小学生が叶える

NFTマーケットプレイス「OpenSea」のZombie Zooコレクション
[図1] NFTマーケットプレイス「OpenSea」のZombie Zooコレクション
2022年8月上旬現在、260作品がミント(発行)され、180人が所有していることがわかる

アーティストの草野絵美さんは、クリエイティブディレクターとして現在2つのNFTコレクション(作品シリーズ)を手がける。1つは、『Zombie Zoo』(図1)。もう1つは、グローバルなチームと共同で送り出した『Shinsei Galverse(新星ギャルバース)』である。

Zombie Zoo は、当時8歳だった草野さんの長男が「Zombie Zoo Keeper(ゾンビ飼育員)」を名乗り、夏休みの自由研究として始めたNFTの制作活動。動物や家電製品などが「ゾンビ化」したピクセル画のイラストが250点以上あるコレクションだ。2021年8月、最初の作品を「OpenSea参考資料1」(NFT売買の大手プラットフォームサイト)にアップロード。SNSを通じたブランディングやPRを実地で学んだ。作品の売買が成り立つWeb3の構造として、まずは暗号通貨取引所からイーサリアム(Ethereum、単位はETH)を購入、ウォレットの「MetaMask」に移し、OpenSeaで表示された希望価格で取引する、という流れを把握した。

小学生の自由研究なら、ここまでで十分すぎるレポートが提出できるだろう。毎日の絵日記のようにコツコツと作品を投稿していくと、次第にNFTコレクターたちの目に「ピュアな創造性」が止まるようになっていった。転機となったのは、世界的なDJであるスティーブ・アオキさんが、Zombie Zooの作品3点を、6ETH(当時のレートで約240万円)で購入したことだ。そのニュースが引き金となり、Zombie Zoo Keeperの知名度と作品価格が上昇した。

アーティスト、Fictionera代表の草野 絵美さん
[図2] アーティスト、Fictionera代表の草野 絵美さん
東京藝術大学の講師もつとめる

草野さんは振り返る。「息子の作品に関しては、本人がずっとアイロンビーズで作品を編んだり、『Minecraft』でデジタル作品を作ってきたりしたセンスが出たと思います。NFT市場が黎明期だったこと、小学生のアーティストが珍しかったのも手伝い、さまざまな要因で『バズり』ました。これまでNFTに敷居の高さを感じていたクリエイターたちも『Zombie Zoo Keeperを見て始めてみた』と言ってくださる方が多かったです。ただ、本人はまだ9歳なので、私としてはそこまで無理をさせたくない。勉強や友達との遊び、いろんなアクティビティが日常にありますから、本人が『やりたくない』と言ったらもうやらないべきだとも思う」

世界中のコレクターを相手にしたNFT作品の販売で得た報酬は、主に大学進学の教育費として使われる予定だという。子どもにお金との付き合い方をどう教えるか、親子でどのように対等な関係が築けるかなどは、草野さんの著書(『親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て参考資料2』)に詳しい。

「8歳の頃の夏休みに描いた絵が250作品のかたちになって、ブロックチェーン上に残ったというのが素晴らしいことだと思うんです。今後は、それらがIP(知的財産)としても生き残っていけたらいいなと考えています」

現在、Zombie Zooを題材にしたアニメ制作プロジェクトが東映アニメーションのプロジェクトとして進行中。さらには「The SANDBOX参考資料3」(クリエイターがブロックチェーン上でIPやゲーム体験を収益化できるコミュニティ主導型のプラットフォーム)を使ったゲーム化も計画されている。

創作にチームを結成した

一連の体験は、クリエイターである草野さん自身にも大きな影響を与えた。あるZombie Zooの作品(「Zombie Starfish」)の購入者が、カルチャーと暗号通貨を扱う老舗DAOである「FWB(Friends With Benefits)参考資料4」に所属するDevin Mancusoさんだった。シリコンバレー在住のオーストラリア人であるDevinさんは、Dropbox社のデザイン戦略部門ヘッド。個人的にZombie Zooの作品と展開に興味を持ち、草野さんと何か一緒にできないだろうか、とtwitterのダイレクトメッセージで声をかけてきたのだ。

彼のオファーに対して、草野さんは新たな提案を持ちかける。「実は、私は音楽活動もやっていて、そのミュージックビデオでコンセプトとアニメーションを手掛けた大平彩華さんというアーティストの友人がいる。私と目指す世界観も同じだし、いつか一緒にアニメを作りたいと夢を語り合っていた。一度、彼女のキャラクターデザインを見てくれないか?」と。大平さんの画力と「ノスタルジックなルックを古臭くならないバランス」を探して落とし込める才能をプロデューサーとしても信じていた草野さんは、大きく賭けに出た。

2カ月後の2021年12月には「新星ギャルバース」のアイデアが固まった。リリースするのはPFP(profile picture)プロジェクト。これは、目や鼻、口や髪型などのパーツを組み合わせて、少しずつ違うアイコンを生成する手法から生まれるNFTで、所有者が1つのコミュニティとして繋がる目的がある。草野さんは300〜400点のパーツを想定していたが、大平さんが最終的に描いたのは2,300点。それらをAIのサポートも入れて組み合わせることで8,888体の「ギャル」アイコンが生まれた。Devinさんのアイデアで、アイコンは数字を振って管理するのではなく、すべてに固有の名前と物語、オリジナルの決め台詞を付けることに。それらを作成するために、機械学習で言葉を組み合わせて文章を出力していった。さらに、Devinさんの15年来の友人でありNFTコレクターであり、多くのDAOでコミュニティを熟知したマーケターのJack Baldwinさんもオーストラリアから参加。Discord*1でコミュニケーションを取りながら、グローバルなプロジェクトを進めた。

OpenSeaの「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」コレクションより
[図3] OpenSeaの「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」コレクション
二次流通として売り出されているNFTをマウスオーバーすると「Buy now」ボタンが表示される
1980~90年代アニメ調のギャルがすべての人々と文化に平和をもたらすべく活動しているというコンセプトイメージ
[図4] 1990年代アニメ調のギャルがすべての人々と文化に平和をもたらすべく活動しているというコンセプトイメージ

その間、草野さんは海外のNFTコミュニティに対して新星ギャルバースを認知させるべく100回ほどアタック。最初は門前払いされた相手でも、大平さんのキャラクターデザインを見せた瞬間に「話を聞かせてほしい」と変わる例が多かったという。確かな手応えを感じてから、2022年4月14日に8,888点のNFTをOpenSeaで販売。わずか数時間で完売し、グローバルのNFT取引額ランキングで、一時は世界1位のプロジェクトになった。その後の3日間で、二次流通を含めた取引総額は3,600ETH(当時のレートで13億円以上)に達した。

「ギャルバースの取引総額が世界一になるとまで予想しなかったし、最初は競争率が高くないチェーンでリリースしようとも考えました。リリースタイミングも良かったんですね。まだ、NFTは黎明期で『アニメ絵』みたいなものの人気が高いし、NFTの世界ランキングで上位の『Azuki参考資料5』や『CLONE X参考資料6』など日本の要素が入っているものも多いです。新たに『日本人のクリエイターがリードするNFTプロジェクトが出るらしい』という話題性が作れました」

真の目的は、アニメ化とコミュニティ構築

OpenSeaの「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」コレクションより
[図5] OpenSeaの「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」コレクションより
「新星ギャルバース」の各NFTの詳細を開くと、個別の名前やストーリーが付いているのがわかる

高額のNFT作品を売り抜けて富を狙うプロジェクトも多いが、草野さんたちの狙いは異なる。当初からスローガンに掲げたのは「アニメ作品を作る」という目標だ。動機を「もともとアニメが好きだったから(笑)」と語りつつ、NFTを買っていない人々や子どもたちにも届けるために映像化したい、静止画であるNFTの世界観をより広げたい、という夢を描く。

「ギャルバースは『一夜にして2億円を儲けて終わり』という具合に言われることもありますが、それは誤解です。NFTの最も効果的な利用方法は『資金調達の手段』だと考えています。2億円を調達して、そこからアニメーションを作って、クリエイターにちゃんと報酬を払い、ビジネスを回していき、二次流通の利益など使ってまた新しい作品を作っていきたい。NFTを売った後にどういうキャンペーンをしていったらファンとのエンゲージメントが高まるのか。コミュニティに向けて、さまざまな価値を提供することを考えています。まだ正解が確立していないので、VR空間の開発やファンクショナルなNFTを追加でリリースするなど、常に新しい試みをアップデートし続けようと思っています」

草野さんたちが目指すのは、クリエイターが経済活動の中心になる「クリエイターエコノミー」だ。「バーチャル・リアリティやメタバースの世界が訪れたとき、自分でコンセプトを考え、手を動かして、何かを生み出せるというクリエイターのポジションが高くなってくると思っています」。

ゲームの世界観を反映したシールコレクション

スクウェア・エニックスのNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」ロゴ
[図6] スクウェア・エニックスのNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」ロゴ
© 2021-2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Powered by double jump.tokyo Inc.

一方で、大手エンターテインメント企業もWeb3時代のコンテンツ作りに着手している。スクウェア・エニックスは、2012年からリリースしてきた人気ゲーム「ミリオンアーサー(通称ミリアサ)」シリーズの世界観とキャラクターを扱ったNFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー参考資料7」を2021年10月から販売。2022年8月現在、第四弾「キャメロットの奇跡」までリリースされた。価格は1枚800円より。発行枚数や販売期間を設定しながら、これまで約10万枚を販売している。

共同開発を手がけたdouble jump.tokyo(以下、DJT)は、2018年に創業したNFT/ブロックチェーンゲーム専業の開発会社。同社CTO(最高技術責任者)の満足 亮(まんぞく・りょう)さんは起業から1〜2カ月後に入社した。満足さんいわく「現在の「NFT」という概念が登場したのは2017年末から2018年初頭にかけてだった」とマーケットを振り返る。DJTは、概念自体が提唱されていたNFTに対して「ゲームを組み合わせると面白いのでは?」という狙いで始まった会社である。

2018年11月末にはイーサリアムベースのブロックチェーンゲーム「マイクリプトヒーローズ」を初リリース(現在の運営はMCH社)。ゲームにかけた「時間とお金と情熱」がブロックチェーンに刻まれた「資産」になるのが特徴だ。具体的には、育てたキャラクターや装備品を資産と捉えて、所有だけではなく貸し出しなどを通じて運用できるシステムを備えたゲーム。次作の「ブレイブ フロンティア ヒーローズ」は、全世界で合計3,800万ダウンロードを超えるヒットを記録したアプリゲーム「ブレイブ フロンティア」(2022年4月25日にサービス終了)のキャラクターやアイテムが登場する本格ブロックチェーンゲーム。

しかし、すでにWeb3の世界では何度も浮き沈みがある。まず、2018年1月のコインチェック事件(外部からのハッキングにより取引所「Coincheck」から580億円相当の暗号通貨ネムが流出)。そこからNFTの登場で徐々に業界は盛り返したものの、黎明期のNFT市場はいったん縮小した。「2020年の夏にはDeFi(Decentralized Finance:分散型金融)と呼ばれる金融市場のほうが大きく盛り上がりを見せた一方、NFTやゲームの市場は立ち上がり切らない状態で萎んでいったのです」と満足さん。潮目が変化したのは、Web3のコンセプトが名前とともに再浮上した2021年初め。イーサリアム以外のチェーンとして「Polygon参考資料8」などが立ち上がっていた。

Polygonと同じく非イーサリアム系のチェーンとして2018年から準備が始まったものに「LINE Blockchain」がある。「2019年ぐらいからスクウェア・エニックスとやり取りさせていただいていました。ゲームなども視野に入れて『初めてNFTを持つ体験として、どういうかたちで出すのがいいか?』と議論を重ねていたのです。ちょうどLINE Blockchain(2020年9月発表)が選択肢に出たタイミングで『デジタルシールという方法でいけるんじゃないか?』とスタートしました」。

double jump.tokyo取締役CTOの満足 亮さん
[図7] double jump.tokyo取締役CTOの満足 亮さん

こうして資産性ミリオンアーサーは、長年のファンがいるゲームシリーズの既存ファン層、NFTに関心を持ちつつ購入したことがない新規層、さらには「クリプト層」と言われる暗号資産を日頃から扱うようなユーザーに対しても「NFTを使ってこういう遊びもできる」というメッセージを打ち出した。「まずは国内にリーチするという意味では、2022年2月に100万ウォレットを突破したLINE Blockchain は最善の選択肢だった」と満足さんは言う。

「イーサリアム上でやり取りされるNFTは、例えば『blue-chip』と呼ばれる二次流通価格で10 ETH以上でやり取りされる高額になった作品しか注目されません。実際にそれがブランド価値になるのですが、発行数もだいぶ絞られてしまう。資産性ミリオンアーサーにおけるスクウェア・エニックスと私たちの狙いはそこにはなく、なるべく広いユーザーに届けたかったのです。資産性ミリオンアーサーでは『日本のIPの大手プレイヤーがNFTにやってくるんだ』という姿を見せられたと思います」

ユーザー数を狙ってシールを多く発行すれば、それだけ二次市場にも流通しやすくなり、価値も下がってしまう。だから発行したシールはなるべく所有してもらいたい。需要と供給の関係だ。そのためにユーザーが継続してNFTを所有する期間に応じて獲得できる「OMJ(おまんじゅう)ポイント」のシステムを設けた。

「最初、単に『シールを飾る』という要素だけにしていましたが、それとは別に、ブロックチェーンで『ステーキング(staking)』と呼ばれる『NFTを持っていれば何かしら得られる特典』を実装しました。資産性ミリオンアーサーには、シールをカスタマイズできる仕様を入れているので『自分で作ったオリジナルのシールだから手元に持っていたい』と思ってもらえる。なるべく手放さない、自分の愛着を持ってもらえる方向に企画を持っていきました」

NFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」のトップページ
[図8] NFTデジタルシール「資産性ミリオンアーサー」のトップページ
© 2021-2022 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Powered by double jump.tokyo Inc.

しかし、なかなか所有者が手放さず、発行数が限られるNFTの世界は「閉じたシステム」になってしまわないのだろうか。「新規ユーザーが入って来られないという問題は、世界中のNFTブランドが直面している」と満足さんも認める。売って終わりにしないためにも、その時々に応じて新規販売も含め、新しいユーザーが入りやすいようにする戦略は求められる。

すでに公開された情報として、資産性ミリオンアーサーのゲーム化も検討されている。「NFTではユーティリティと呼ばれる仕組みですが、持っているものを愛でるだけではなく、それを使ってまた新しい何かが生まれてくる。これは必ずしも『儲かる』ということではないのですが、新しい遊びができるのかもしれない。そういった企画をチームで検討中ですね」。DJTは、自社が掲げている「ブロックチェーン・テクノロジーを使ってゲームの未来を再構築する」というビジョンに向けて突き進んでいるようだ。

Web3の体験を提供できるかどうかが鍵

double jump.tokyoのホームページより
[図9] double jump.tokyoのホームページより

ここからは「資産性ミリオンアーサー」を離れて、満足さんに「Web3時代のNFT/ブロックチェーンゲームの未来」を聞いた。やはり草野さんと同様、ひと言目には「まだ正解が見えていない状態」という答えが返ってくる。「そろそろブロックチェーンゲームでもコンテンツのリッチ化が始まるかもしれませんが、やはりノウハウがあるチームもいないため、結構な規模で予算をかけて開発するという体制はまだ難しい。どちらかと言うと、現在は『エコシステム』と呼ばれるトークンなどによる経済圏を作っていく活動が主流でしょう」。

それでは、現在のゲームの作り方と比較して将来どのような違いが出てくるのか。「いわゆるオンラインゲームやモバイルゲームの企画をする場合、PLと呼ばれる事業計画を立てます。クリエイティブにコストが何億円ぐらいかかり、どの段階でリリースができて、プロモーションにいくらかけて、どれぐらいユーザーが集められ、その何%がこれぐらい課金してくれて……という具合です。ただしブロックチェーンゲームやNFTのプロジェクトは発行枚数に上限を設ける場合が多く、ユーザーは一定数に限られます。その代わり『二次流通の売り上げとその手数料』が入るようになります。これは、既存のゲームビジネスになかった概念です。二次流通の収益をちゃんと立てようとすると、すでに世に出したNFTの価値をしっかり上げるのが重要な要素。それを既存のビジネスの指標でどう展開していくかは、おそらくどの会社もまだできていないと思います」。

さらに満足さんはゲームのパブリッシャー側が感じている課題として、Web3業界では「事業の予測が立てづらい」ことを挙げた。情報を内部に閉じるよりは「オープン」になり「外部と連携しやすい」ことが好まれるようになる。その結果として、そもそも「コンテンツの権利はどこに所属するか?」というテーマも浮上してくる。

「例えば、クリエイティブ・コモンズ参考資料9では『CC0』と言って『商用利用でも、なんでもOK』と権利をすべて放棄する場合もあります。あるいは『商用利用はいくらまでなら勝手にやっていいですよ。それ以上の額を超える場合はちゃんと連絡してね』というケースもある。そうした柔軟なコンテンツ利用の権利を既存のビジネス構造の中で付与するのはなかなか難しい。Web3の自由さと既存の文化が合わないところはあったりします」

既存のビジネスで成功してきたのが「大手」なのだから、Web3との食い合わせが悪いことは否めない。しかしユーザー側にとって、いまだ偽物や詐欺まがいのプロジェクトもはびこるWeb3の世界において、LINE Blockchainのような既存の仕組みから入る方が安心感を得られる面はあるかもしれない。

「ある種『それがWeb2的だ』と批判されることもありえますが、私は『文化の話と体験の話は違う』と思っているんです。仮にNFTだからできる体験が提供できているならば、その上に既存のUXが1枚あろうとNFTのプロジェクトとしては成功だという立場です。その結果、ユーザーが自己責任でWeb3のど真ん中のプロジェクトに向かってもいいわけですし。実際にやってみると、アプリケーションはどうしても従来のサーバーなどを用意してユーザーに届ける必要があるので、100%ブロックチェーンで提供するのは不可能です。『これがブロックチェーンプロジェクト』とか『DApps(Decentralized applications:分散型アプリケーション)です』と言うのは、あまり適切じゃないと思う」

メタバース時代へのカウントダウン

ゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」トップページより
[図10] ゲーム特化型ブロックチェーン「Oasys」トップページより
シンガポールに拠点を置くOasysの創業には、バンダイナムコ研究所の代表取締役社長兼 CEO の中谷始氏、セガ共同 CEO の内海州史氏らが参加

満足さんはあらためて、ブロックチェーンの真の価値について触れた。NFTや暗号資産などの「資産」という側面よりは、それらの「履歴」がパブリックに残ることで、Web2.0時代のように「1社の独断で消えないこと」に価値があると考えている。「もちろん権利を考える必要はありますが、ブロックチェーンを使っているのだから外部とのコラボレーションなどもしやすいはずなんですね」。DJTでは、ゲームに特化したパブリックのブロックチェーン『Oasys参考資料10』プロジェクトに開発チームの立ち位置で参画している。

「ゲームの戦歴などは、それ自体が資産になるはずという考えに基づいて、それをブロックチェーンに残すのが目的です。完全にパブリックなイーサリアムなどのチェーンを使うと、やはり金融の要素が大きくなってDeFi寄りになる。そうすると、莫大なコストがかかってしまうんですね。自分たちは『そうじゃない世界を1個作りたいね』とゲーム事業者さんたちを集めてやっています」

ゲームの中で、自分の積み重ねてきたものを売ったり、あるいは買ったりする新しい体験。それが次の面白さに繋がっていく。ブロックチェーンの短期的な側面として、いろんなものに経済性が付けられるメリットを語った満足さん。さらに先の時代には、ブロックチェーンに残されている「履歴」が個人のアイデンティティを育む未来の到来を思い描いている。

「ブロックチェーン上の自分があってもいいし、もしかしたらオンライン上の自分があってもいい。あくまでもリアルの自分というのは、自分を構成する一要素でしかないという時代が来ます。それらすべてが薄く繋がっているという未来像は、なんだかワクワクしませんか?」

[ 参考資料 ]

1. OpenSea
https://opensea.io/
2. 親子で知的好奇心を伸ばす ネオ子育て
https://www.amazon.co.jp/dp/4484222078
3. The SANDBOX
https://www.sandbox.game/jp/
4. Friends With Benefits
https://www.fwb.help
5. Azuki
https://www.azuki.com
6. CLONE X
https://opensea.io/collection/clonex
7. 資産性ミリオンアーサー
https://shisansei.million-arthurs.com
8. Polygon
https://polygon.technology/
9. クリエイティブ・コモンズ
https://creativecommons.jp/sciencecommons/aboutcc0/
10. Oasys
https://www.oasys.games/

[ 脚注 ]

*1 Discord
Discord社(アメリカ)が開発・提供するコミュニケーションツール。音声、ビデオ、テキストチャットが可能で、オンラインゲームのプレイヤーが使用するサービスとして人気を集めている。
Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1998年、慶應義塾大学(SFC)環境情報学部卒業後、日経BP入社。パソコン誌編集部に配属。

その後、文芸出版社での書評誌創刊を経て、2002年から8年間、日英併記のデザイン誌「AXIS」編集部。

2010年よりフリーランス。デザイン誌、建築誌、テクノロジー誌、ビジネス誌、カルチャー誌など、オンラインと紙の両メディアで編集・執筆を行うほか、企業の複数メディアで企画や立ち上げの支援、コピーライティングを担う。

2012年から「TELESCOPE Magazine」に参加。Cross Talk(スペシャルセッション)、Interview(サイエンティスト・エキスパートインタビュー)、Laboratories(研究室紹介)のコーナーに寄稿してきた。

2018年〜2020年、自然と科学をテーマにしたウェブマガジン「NATURE & SCIENCE」(アマナ)編集長。

2021年より経済誌「Forbes JAPAN」コントリビューティング・エディター。

https://www.linkedin.com/in/hirokuni-kanki-b4a04716/

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