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Science Report
サイエンス リポート

次世代のエネルギー候補「核融合発電」とは?

文/伊藤 元昭
2023.08.08
次世代のエネルギー候補「核融合発電」とは?

カーボンニュートラル達成は、世界中の国や地域が共に取り組むべき必達目標である。その実現に向けて、これまで化石燃料で動かしていたエンジンやタービンやボイラーなどを電化し、電力を脱炭素化した発電で賄おうとしている。発電手段を脱炭素化させるため、太陽光や風力など再生可能エネルギーに注目が集まっているが、不安定な自然エネルギーであることから、主力発電手段としてはいささか使いにくい面がある。そのため原子力活用が不可欠になると説く声は根強い。ただし、現時点の核分裂をベースとした原子力発電は、安全面でのリスクが高く、依存度を高めることは困難だ。特に、日本においてその傾向が顕著である。こうしたジレンマを解消する手段として、今、もう1つの原子力の活用法である“核融合”による発電の実用化が急加速してきている。安全・無尽蔵な夢のエネルギーと呼ばれながら遅々として開発に進展がなかった技術であるが、近年、実用化へのマイルストーンを達成する成果が得られ、商用活用が一気に視野に入ってきている。

“核融合”による発電に注目が集まり始めた理由とは?

今、核融合発電に注目が集まり始めた理由は、核融合発電を取り巻く環境がニーズ面とシーズ面の両面で急展開したからだ。

まず、電力システムに対するニーズ面の変化を見てみよう。世界が取り組んでいる発電の脱炭素化は、原子力発電をベースロード電源とし、需給バランスの均衡が難しい太陽光や風力など再生可能エネルギーの発電を補助的に利用するというアプローチで進められている。ただし、現在の核分裂反応を利用する原子力発電は、安全性と発電後に生まれる核廃棄物の取り扱いに、技術的課題と社会的課題を抱えている。このため、再生可能エネルギーの活用技術を高度化して利用シーンの拡大と電力供給の安定化を図るための技術開発に注力せざるを得ない。

しかし、原子力発電に代わるほど、安定的に莫大な電力を供給できるメドが立っているわけではない。現状の原子力発電と同等以上の安定感と供給量を確保できるブレークスルーとなる新エネルギー源が渇望されている。その最有力候補が核融合発電なのだ。

核融合発電の潜在能力は極めて大きい。1gの燃料で石油8トン分(一般家庭の電力換算で16年8カ月*1に相当するエネルギー量)もの膨大なエネルギーを得られるとされる。しかも、発電の過程でCO₂など温暖化ガスを発生しない。このように優れた潜在能力を持つ核融合だが、発電手段として利用するための技術が確立されておらず、長年にわたる技術開発が続けられてきたにも関わらず、実用化までには早く見積もっても2050年以降になると見られていた。

近年、にわかに核融合発電の実用化に向けたシーズ面が急加速し始めた。世界の主要国政府が、実用化を見据えた研究開発プロジェクトを急激に活発化させたのに加えて、実用レベルの核融合発電技術の開発や発電施設の建設を目指す多くのスタートアップ企業の参入も相次いでいる(図1)。

核融合発電の実用化に向けた動きが急加速
[図1] 核融合発電の実用化に向けた動きが急加速
写真:AdobeStock

ブレーキで反応を操る核分裂、アクセルで操る核融合の異なる制御方法

核分裂とは、1つの大きな原子核を複数の小さな原子核に分裂させ結合エネルギーを外に放出させる核反応のことをいい、核融合とは、逆に複数の小さな原子核同士をぶつけて1個の大きな原子核を作り前後で余剰となったエネルギーを放出させる核反応のことをいう。

核反応によって得られるエネルギーは、化石燃料の燃焼の約10万倍と莫大だ。そもそも、核融合発電とは、どのような原理で発電する、いかなる特徴を持つ発電手段なのか。

同じ核反応として分類される核分裂と核融合の最大の違いは、反応を制御する方法にある。自動車の操縦に例えて両者の違いを説明すれば、核分裂は、暴走している自動車をブレーキで制御している状態に似ている。核分裂反応を起こすための燃料物質は、元々原子核の状態が不安定であり、しかも一定量(臨界量)以上の燃料物質を固めて置くと、反応が連鎖的に発生し暴走してしまう。これに対し、核融合は、止まった状態の自動車のアクセルを踏んで走り出させるような制御をしている。核融合反応を起こすために使う燃料物質は、比較的安定した状態にある。原子から負に帯電する電子を剥ぎ取ってプラズマ状態にして、正に帯電している原子核同士を融合させるため、約1億℃以上の温度にして、静電反発力に打ち勝つエネルギーを与える必要がある。

こうした核分裂と核融合の制御方法の違いは、本質的な安全性の違いを生み出す。核分裂ベースの原子力発電では、制御機能が失われたら暴走してしまう可能性がある。これに対し、核融合ベースでは、反応が起きなくなるだけだ。

また、燃料物質の希少性や安全性にも大きな違いがある。

核分裂の燃料には、ウラン233(原子核中の陽子と中性子の合計(原子量)が233個)、ウラン235、プルトニウム239など重たい元素を使う。しかも、核分裂しやすい不安定な核種の物質が選ばれる。一方、核融合の原子炉では、重水素(原子核が陽子1個と中性子1個)と三重水素(陽子1個と中性子2個)など軽い元素が使われる。一般に、重たい原子核を持つ元素は、軽い元素よりも希少だ。しかも、核分裂しやすい不安定な核種は、自然に崩壊してしまうため、不安定なまま残る量はなおさら少ない。これに対して、核融合の燃料のうち、重水素は水から調達することが可能であり、三重水素に関しては自然界に存在する量は極めて微量だが比較的多く存在する他元素から作成する方法を採ることができる可能性がある。つまり、核分裂用の燃料よりも核融合用の燃料の方がはるかに調達しやすい。

さらに、核分裂の燃料は、放射性物質であるため扱いが難しい。加えて、核分裂後に生成される物質も、高レベルの放射性廃棄物となり、その処理に大きな課題が残る。これに対し、核融合は、燃料の三重水素と核融合炉自体には放射線リスクがあるものの、核分裂用燃料に比べれば危険性が低く、半減期(自然崩壊して量が半分になる時間)も短い。反応後に出来上がる物質もヘリウムであり安全に扱うことができる。

実用化にむけた鍵を握る「磁場閉じ込め方式」と「レーザー方式」

核融合反応を起こすためには、高温のプラズマを安定的に生成・保持する技術の確立が必須である。核融合炉の実現方法として「磁場閉じ込め方式」と「レーザー方式(慣性閉じ込め方式)」の大きく2つが提案されている(図2)。

磁場閉じ込め方式の核融合炉 レーザー方式(慣性閉じ込め方式)の核融合炉
[図2] 核融合炉には、大きく2つの方式がある
磁場閉じ込め方式の核融合炉(左)、レーザー方式(慣性閉じ込め方式)の核融合炉(右)
出典:ITER Organization、ローレンス・リバモア国立研究所

トカマク型とヘリカル型で研究が進む「磁場閉じ込め方式」核融合

このうち、磁場閉じ込め方式では、強力な磁気の力で高温のプラズマを閉じ込める。核融合を長時間連続発生できるため、得られるエネルギーが大きく、ベースロード電源として期待できる。ドーナツ状磁場に閉じ込める「トカマク型」と、らせん状磁場に閉じ込める「ヘリカル型」がある。これまでの核融合技術の開発では、トカマク型の研究が主流であり、日本やアメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国、ロシア、インドなどが参画する大型国際プロジェクト「ITER(イーター)計画」がその代表だ。

2022年2月、欧州トーラス共同研究施設(JET)が、核融合反応を5秒間持続し、従来の2倍以上に当たる59メガジュ―ル(約11メガワット)のエネルギーを得たと発表した。5秒間と、これまでとは段違いに長い時間反応を持続できたことで、実用化が視界に入ってきた。この研究成果を受けて、ITER計画では、2025年にプラズマを安定生成させる研究を開始し、2035年ごろの本格運転を目指す計画である。

多数のレーザーパルスを同時照射する「レーザー方式」核融合

一方、レーザー方式では、燃料を押し込めた球状カプセルに多数のレーザーパルスを同時照射して数ナノ(10億分の1)秒だけ約1億℃まで加熱、大気圧比で1000億倍以上まで圧縮し、瞬間的に核融合反応を起こす。小型の核融合炉の構築が可能で、燃料の投入量に応じた出力調整もできる。このため、電力需要が高まった際のピーク電源としての利用が想定されている。

2022年12月、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)は、レーザー方式の「レーザー核融合」の実験で、照射レーザー光の約1.5倍のエネルギーを取り出すことに成功したと発表した。この成果を受けて、レーザー方式での核融合発電の実現時期が、2030年代後半から2040年代に早まるのではと期待する声も出てきている。

国家規模のプロジェクトで大きな成果が出てきたのと同時に、新しいアイディアでより安全で実用化に向く核融合技術を開発・提案するスタートアップが次々と台頭してきている。

TAE Technologiesが開発を進める「FRC型」核融合

トカマク型とヘリカル型に続く、「FRC(磁場反転配位)型」と呼ぶ第3の磁場閉じ込め方式が出てきている(図3)。ドーナツ形状の磁力線に閉じ込められたプラズマを2つ発生させて、それらを高速で衝突させて超高温を実現し、核融合反応を起こさせる技術である。FRC型は、超高温状態を実現できるため、核融合反応で中性子を出さず安全性が高い燃料物質を利用できる。加えて、簡素な構造の核融合炉の実現が可能であり、しかも効率的な発電技術を適用できる革新的な方式である。アメリカのTAE TechnologiesとHelion Energyが技術開発を進めている。

核融合炉全体の構成(左) 反応中のイメージ(右)
[図3] 核安全性を高めた、FRC型の核融合炉
核融合炉全体の構成(左)、反応中のイメージ(右)
出典:TAE Technologies

TAEは、重水素と三重水素ではなく、陽子(p)とホウ素11(11B)を燃料(p-11B燃料)として利用し、約10億℃もの高温で点火する。通常の核融合では危険性が高く、設備の劣化も促す高速中性子が発生するエネルギーを熱に変え、蒸気タービンを回して発電に利用していた。FRCでは、高エネルギーのヘリウム原子核(α粒子)が生成される。α粒子は正に帯電しているため制御が容易で、しかもその動きを利用して90%と高効率(蒸気タービンでは30~40%)での発電が可能である。Helionは重水素とヘリウム3を燃料として利用する。

日本も参画する核融合スタートアップ

日本でも、核融合関連のスタートアップが生まれている。日本企業は、核融合炉そのものでの技術革新を狙うというよりも、大型プロジェクトの成果を実用化する際に必要になる、さまざまな周辺技術の開発に注力している。

京都大学発のスタートアップである京都フュージョニアリングは、核融合反応からエネルギーを取り出す機器・システムを開発している。核融合反応で発生した中性子から熱エネルギーを回収する「ブランケット」や、プラズマ中の反応を阻害する物質を排出する「ダイバータ」、マイクロ波でプラズマを加熱して反応を促す「ジャイロトロン」などの技術を開発している。一方、大阪大学発のスタートアップであるエクスフュージョンは、レーザー核融合の商用炉開発に向けたレーザー装置や効率的な燃料技術の開発を手掛けている。

核融合発電は、実現に向けたエコシステムが着実に構築されつつある。カーボンニュートラル達成に向けて、核融合発電が大きな効果を発揮する日が近づいているのかもしれない。

[ 脚注 ]

*1
石油の比重は約0.85kg/Lであるため、石油8トンは9412L。資源エネルギー庁の資料によると、石油(原油)のエネルギー量は38.26MJ/Lであり、エネルギー量は約36万MJとなる。1Whは3600Jであり、換算すると約100MWhとなる。東京都環境局の資料によると、一般家庭の1カ月分のエネルギー消費量は戸建て住宅が530kWh、マンション402kWhとされており、仮に全家庭の消費量を500kWhとすると、200カ月分、つまり16年8カ月分となる。

[ 参考資料 ]

一般家庭のエネルギー消費
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/home/energy.html
石油の体積当たりのエネルギー量
https://www.hakko.co.jp/qa/qakit/html/h01110.htm
石油の重さと体積の関係
http://ryowa-oil.co.jp/data1.html
Whとジュールの変換法
https://kenkou888.com/category21/wh_j_henkan.html
Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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