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Science Report
サイエンス リポート

太陽系の外からやってきた恒星間天体「オウムアムア」の謎とは?

文/鳥嶋 真也
2024.02.07
太陽系の外からやってきた恒星間天体「オウムアムア」の謎とは?

2017年、人類史上初めて発見された恒星間天体。太陽系の外から突如やってきた異星に、天文学界は大きく沸き立った。「オウムアムア('Oumuamua、ハワイの言葉で「遠方からの斥候・使者」)」と名付けられたこの天体は、発見された時点で、すでに地球から遠く離れた場所にあり、さらに遠ざかってもいたため、十分に観測やデータ収集ができず、その正体をめぐって多くの謎を残した。そんななか、オウムアムアを追いかけて探査しようという検討が進んでいる。さらに、またやってくるであろう新たな恒星間天体を待ち構えて探査することを目指した探査機の開発が実際に進んでいる。人類が恒星間飛行をして、別の恒星にある天体を探査しようとすると、何万年以上もの途方もない時間がかかる。しかし、オウムアムアのように向こうからやってきてくれるなら、比較的簡単に異星を探査することができるかもしれない。

恒星間天体「オウムアムア」とは?

オウムアムアが発見されたのは、2017年9月9日のことだった。

発見したハワイ・ハレアカラ山頂にあるハレアカラ天文台は、夜ごと空を観測し、太陽系にある未知の小惑星や彗星を発見しようという「パンスターズ(Pan-STARRS)」という計画を行っている。それまでもたくさんの新しい小惑星や彗星を発見していたが、この日見つかった天体――のちにオウムアムアと呼ばれることになる天体は、太陽系を回っているものとは考えにくい動きをしていた。

そして、世界各地の天文台による追加の観測と分析の結果、最終的に太陽系の外から来た天体だと結論づけられた。つまり、オウムアムアは太陽とは別の恒星を回る惑星系で生まれ、恒星間空間を延々と移動し、はるばる太陽系へやってきたのである。(図1)

地上から観測したオウムアムア(画像中央にある青い丸の中の点)
[図1] 地上から観測したオウムアムア(画像中央にある青い丸の中の点)
出典:ESO/K. Meech et al.

恒星間天体(恒星などの天体に重力的に束縛されていない、恒星や亜恒星天体以外の天体)*1が存在し、それが太陽系を通過することは、大昔から理論的には予測されていた。しかし、実際に発見することは、望遠鏡の数や性能、人手などさまざまな事情から難しく、実際に発見されたのは、これが初めてだった。

オウムアムアは太陽系の黄道のほぼ真上、こと座のヴェガがある方角から、秒速約25.5kmでやってきたと考えられている。ただ、あくまで見かけの方角が一致しているだけで、ヴェガやこと座を構成している恒星の惑星系で生まれた天体だと決まったわけではない。

発見された時点で、オウムアムアは太陽への最接近から40日が経過しており、すでに太陽系を離れつつあった。現在オウムアムアは、太陽に対して秒速約26kmという速さで移動している。すでに土星の公転軌道を超えており、2030年代後半には太陽系を抜け、ふたたび恒星間空間に入って、流浪の旅を続けると予想されている。

発見時でさえ、地上からの見かけの明るさは21等級と暗かったこともあり、オウムアムアについては全長100~1000mであること、葉巻のような細長い形状かもしれないこと、岩石や金属などでできた密度の高い天体とみられること、回転しているらしいことといった、あやふやなことしかわかっていない。

そのため、研究者の間からは、形状や天体表面の活動、起源などをめぐって、さまざまな説が提唱されており、異星人が送り込んできた探査機ではないかという説まで真面目に唱えられている。(図2)

ヨーロッパ南天天文台(ESO)が作成したオウムアムアの想像図
[図2] ヨーロッパ南天天文台(ESO)が作成したオウムアムアの想像図
出典:ESO/M. Kornmesser

さらに、2019年には観測史上2つ目の恒星間天体「ボリソフ彗星」が発見されており、これまでの想定よりも多くの恒星間天体が太陽系に飛来している可能性もある。

太陽系から遠ざかるオウムアムアを追いかける「プロジェクト・ライラ」

こうしたなか、イギリスの非営利団体「Initiative for Interstellar Studies(i4is)」は、オウムアムアに探査機を送り込み、探査することを目指した、「プロジェクト・ライラ」という計画を進めている。ライラとは、オウムアムアがこと座(ライラ、Lyra)の方角からやってきたことにちなんでいる。

これまで、太陽系外にある天体を直接探査しようとすれば、何光年ものかなたへ、何万年もかけて旅するしかなかった。しかし、オウムアムアのように天体のほうから地球の近くへ来てくれるなら、比較的簡単に探査することができる、またとない機会となる。

高速で太陽系から遠ざかりつつあるオウムアムアに追いついて探査するためには、それ以上の速さで探査機を飛ばす必要がある。しかし、現代のロケットエンジンだけで、それだけの速さを出すことは難しく、かといってワープエンジンはSFの中にしかない。

そこで研究者たちは、木星と太陽の重力を利用することを計画している。まず探査機は、できる限り強力なロケットで木星に向かって飛ばされる。次に、木星の重力を使って軌道を変え、いったん太陽に向かう。そして、太陽に最も接近するタイミングで、探査機のロケットエンジンを噴射することで、探査機をオウムアムアまで届く軌道に乗せることができるのである。

このテクニックを「オーベルト効果」と言い、探査機を遠くの天体まで、効率よく飛ばせることができる方法として古くから知られているものだが、強い重力をもつ太陽で行うことで、それを最大化させるというのが、プロジェクト・ライラのミソである。

探査機の機体は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が2006年に打ち上げた探査機「ニュー・ホライズンズ」の設計を流用できるという。ニュー・ホライズンズは質量465kgの、グランドピアノほどの大きさの探査機で、冥王星などの近くを高速で通過し、詳細な画像の撮影に成功した実績がある。

また、太陽に近づくことで熱からの防御も重要になるが、こちらもNASAが2018年に打ち上げ、太陽に史上最も近づいた太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」の耐熱シールドを、そのまま流用することで実現可能としている。(図3)

プロジェクト・ライラの探査機の想像図
[図3] プロジェクト・ライラの探査機の想像図
必要最低限の観測機器と大きなアンテナ、太陽付近で軌道を変えるためのロケット、そして太陽の熱を遮るための大きな耐熱シールドが特徴的である
出典:i4is/Malavika Patel (3D model), Adrian Mann (rendering)

仮に、2030年にプロジェクト・ライラを打ち上げることができれば、2057年にはオウムアムアに追いつくことができるという。

また、i4is以外にも、アメリカのケック宇宙研究所などが、原子炉を使う核熱推進や、地上や宇宙から強力なレーザーを照射して、その反動で飛ぶ探査機などでオウムアムアに追いつこうという研究を行っている。

もっとも、いずれの案もオウムアムアを探査機できる機会は一度きり、それも一瞬と言えるほどわずかな時間しかなく、写真が数枚撮れればいいほうだろう。

それでも実現すれば、オウムアムアが、ひいては太陽系外にある天体が、どんな姿かたちをしているのか、私たちの住む太陽系の天体と同じところ、違っているところはあるのかなど、まさに教科書に新しい章が書き加えられるほどの成果が得られるに違いない。

第二、第三のオウムアムアを待ち構える「コメット・インターセプター」

プロジェクト・ライラは、現時点では、まだi4isによる検討の段階であり、NASAなどの宇宙機関によって実現に向けた計画が進んでいるわけではない。

一方、欧州宇宙機関(ESA)や日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)などは、今後もやってくるであろうオウムアムアのような恒星間天体を、あらかじめ待ち構えておいて探査する「コメット・インターセプター」という探査機を、実際に開発している。

コメット・インターセプターは、太陽・地球系のラグランジュ第2点(L2点)という重力的に安定した場所に待機し、地上からの観測で到達可能な恒星間天体が見つかると、その天体に向かって飛行し、親機と2機の超小型探査機(子機)の複数の探査機で天体に接近、観測するという計画である。

前述のプロジェクト・ライラは、恒星間天体が見つかってから探査機を造り、打ち上げて追いかけるという計画であるため、軌道が複雑で、なおかつ時間もかかり、観測の機会も少ないという欠点がある。一方、コメット・インターセプターは、あらかじめ宇宙で待機しておくことで、対象の天体の軌道にもよるものの、条件さえ良ければ、天体をより長期間、そして詳しく探査できる可能性がある。

また、3機の探査機で探査することで、 彗星の核とコマ(彗星が太陽に近づいたときに観測される、彗星頭部が明るく広がった領域のこと。核から放出されたガスとダストで構成されている)を、3つの異なる視点から多角的に観測できるため、彗星と遭遇する間に集められる情報を最大化することもできる。(図4)

コメット・インターセプターの想像図
[図4] コメット・インターセプターの想像図
恒星間天体や長周期彗星(画像中央)を発見すると、あらかじめ宇宙で待機していたコメット・インターセプター探査機(地球の近くにあるぼやけた点)が探査に向かう
出典:ESA

もちろん、来るかどうかわからない天体を待ち構えるのは、一種の賭けである。従来であれば、そんな計画に予算がつくことはなかったかもしれないが、近年は小型で低コストな探査機を造れる技術が発達し、さらに低コストで宇宙へ飛ばせるロケットも出てきた。それを活かし、ハイリスク・ハイリターンな宇宙ミッションに挑戦する動きが出てきており、コメット・インターセプターは、まさに、ヨーロッパと日本による、その最初のミッションとして開発されている。

また、コメット・インターセプターは、オウムアムアのような恒星間天体だけでなく、「長周期彗星」もターゲットにしている。

有名なハレー彗星のように、私たちがときおり目にする彗星のほとんどは、太陽系の外側、太陽から約30~40天文単位(au)、約50億kmの距離のところにある「エッジワース・カイパーベルト」という領域で生まれており、太陽系を一周(公転)するのにかかる時間は200年未満、たとえばハレー彗星なら76年である。

一方、長周期彗星は、太陽系の端にある「オールトの雲」と呼ばれる領域を起源とする彗星である。オールトの雲は太陽から1万auから10万au(約1兆kmから約10兆km)という途方もないところにあり、それほど離れたところからやってくる彗星なので、公転周期は何十万年にもなる。つまり、私たちのそばを通過して観測できる機会も何十万年間に一度しかなく、オウムアムアのような恒星間天体に負けないくらい観測が難しい。しかし、あらかじめ探査機を宇宙に打ち上げておくことで、出会える彗星の数を増やしたり、その機会を逃さずに探査したりできる可能性を高めることができる。

コメット・インターセプターは現在開発中で、予定どおり進めば2029年にも打ち上げられることになっている。

人類の前に突如現れた、別の惑星系からの使者は、多くの謎とともに期待ももたらした。もしかしたら、そう遠くない将来、人類は星の海を渡らずして、その海の向こうに何があるのかを知ることができるかもしれない。

[ 脚注 ]

*1 恒星間天体
星間空間に存在する星間物質(ガス)以外の天体。どの恒星にも重力的に束縛されていない。太陽系の彗星、小惑星、岩石惑星などと同種のものが多いと思われるが、たまたま太陽系に侵入し、人類が観測した例はこれまでに2例しかないので、詳しいことはまだ分かっていない。最初の例は、2017年10月19日に、ハワイのマウイ島ハレアカラ山頂にあるサーベイ観測のための専用望遠鏡Pan-STARRS1(PS1)により発見されたオウムアムアで、2例目は2019年8月30日にアマチュア天文学者によって発見されたボリソフ彗星である。
出典:天文学辞典(日本天文学会)
Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。主な著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、論文誌などでも記事を執筆。

Webサイト:http://kosmograd.info/
Twitter:@Kosmograd_Info
https://note.com/celestial_worlds

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