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Science Report
サイエンス リポート

リュウグウ、イトカワ、プシューケーの小惑星に眠る生命誕生のヒントや宇宙資源

文/鳥嶋 真也
2024.03.08
リュウグウ、イトカワ、プシューケーの小惑星に眠る生命誕生のヒントや宇宙資源

私たちを明るく照らす太陽、静かにたたずむ月、夜空に輝く星々。そうした天体に比べると、小惑星はちっぽけで目立たない存在である。しかし、実は小惑星の多くは、太陽系が生まれたころの姿かたちや状態を保っており、探査することで太陽系がどのようにできたのかを知ることができると考えられている。特に、一部の小惑星には、そのときの水や有機物が今でも残されており、地球の水はどこから来たのか、生命を構成する有機物はどこでできたのかといった謎を解明する手がかりが眠っている可能性もある。さらに、小惑星に眠る水や金属などを採掘し、資源開発をしようという動きもある。一方、小惑星の中には、将来的に地球に衝突する危険性をもつものもあり、いかにして地球を守るかという研究も進んでいる。

さまざまな小惑星の大きさや形

小惑星とは、太陽系を回る小さな天体のことである。その多くは、火星と木星の間にある「小惑星帯(アステロイド・ベルト)」、「メイン・ベルト」と呼ばれる軌道を公転しているが、地球軌道の近くを通るような軌道をもつ「地球接近小惑星」もある。

“小“惑星という名前からもわかるように、そのサイズは大きなものでも直径1000km、小さなものだと直径数mしかない。地球の直径(約1万2742 km)や月の直径(約3470km)と比べると、その小ささが際立つ。また、地球や月のように球形をしていないものも多く、その姿かたちは千差万別で、じゃがいものような形や、ダンベルのような形の小惑星もある。

そんな小さな天体だが、そこには大きな秘密が詰まっている。

地球に接近する小惑星のイメージ

[図1] 地球に接近する小惑星のイメージ

小惑星探査が太陽系と生命の起源を解き明かすヒントに

太陽系は、今から約46億年前に誕生したと考えられている。私たちが住む地球などの惑星は、最初は塵やガスから始まり、やがてそれらが集まって小惑星のような小さな天体になり、さらにそれらが衝突や合体を繰り返し、だんだん大きな天体になっていった。

その過程で、物質は衝突時の熱により、いったんどろどろに溶けてから固まっていく。そのため、過去の地球のことを知ろうとして地球の地面や地下を調べたとしても、その元となった物質についての情報は熱で変化したり、失われたりしている。

一方、小惑星の中には、そうした劇的な変化が起きておらず、太陽系が誕生したころや、その後の46億年間の進化についての情報が残り続けている可能性があるものがある。

このため、小惑星を調べることにより、太陽系がどのように生まれ、どのように進化してきたのかがわかると考えられている。

特に、小惑星のうち「C(Carbonaceous、炭素質)型小惑星」と呼ばれるカテゴリーに分類されるものは、水や有機物を含んでいる。つまり、過去の地球にC型小惑星が飛来し、その結果、水や生命がもたらされたのかもしれない。C型小惑星を調べることで、地球になぜ海がもたらされたのか、そして私たちのような生命をつくる元になった材料が、どのようなものであったのかについて、重要な手がかりが得られる可能性がある。

[図2] 小惑星の分類
出典 リュウグウ:JAXA
イトカワ:JAXA, 東京大, 高知大, 立教大, 名古屋大, 千葉工大, 明治大, 会津大, 産総研
プシューケー:Creative Commons Attribution 4.0 International
リュウグウ イトカワ プシューケー
小惑星の例 リュウグウ イトカワ プシューケー
分類

C型小惑星

S型小惑星

M型小惑星

成分 有機物や水を多く含む 岩石質 金属を含む

日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2014年、C型小惑星のひとつ「リュウグウ」に向けて、探査機「はやぶさ2」を打ち上げた。「はやぶさ2」はリュウグウで砂や石といった試料を採取し、2020年にそれらが入ったカプセルを地球に送り届けた。試料の分析は今も続けられており、これまでの研究でリュウグウに水やアミノ酸などが存在することが判明している。

また、アメリカ航空宇宙局(NASA)も小惑星探査機「オサイリス・レックス」を打ち上げ、C型小惑星「ベンヌ」に着陸して試料を採取し、2023年に地球に送り届けた。今後、ベンヌの試料の分析、またリュウグウとベンヌの比較などから、生命誕生の謎に迫れるかもしれない。

NASAの探査機「オサイリス・レックス」が探査した小惑星「ベンヌ」
[図3] NASAの探査機「オサイリス・レックス」が探査した小惑星「ベンヌ」
オサイリス・レックスはその試料を地球に持ち帰ってきており、現在分析が続けられている
©NASA/Goddard/University of Arizona

小惑星には大量の資源が存在する

私たち人類は現在、恐るべき早さで地球の資源――水や天然ガス、鉄やレアメタルなどを消費している。こうした資源をめぐっては、しばしば争いの種となるばかりか、近い将来枯渇すると言われているものもある。

ところが宇宙には、地球では希少な資源が大量に存在する。そもそも、あらゆる元素は宇宙の誕生(ビッグバン)で作られたり、恒星の表面や内部でいまなお作られ続けたりしていることを考えると、宇宙こそが原産地なのである。

ビッグバンや恒星の活動で生まれた元素は、宇宙に撒き散らされているが、そのままでは散らばり過ぎていて集めにくい。かといって、元素が集まって地球ほど大きな天体になってしまうと、地中の奥深くまで採掘しなければならなかったり、物質が変化してしまっていたりする。

そんななか、小惑星は、元素がほどよく集まっていて、それでいて採掘もしやすい、まさにちょうどいい“鉱山”なのである。

たとえば、小惑星の中には金属を含んだ「M(Metal、金属質)型小惑星」という種類がある。たびたび隕石の一種として、鉄を多く含んだ「隕鉄」が地球に落下することがあるが、その生まれ故郷と考えられるのがM型小惑星である。

もし、直径数kmという比較的小さなM型小惑星でも、そのほとんどが鉄でできていて、そしてそれをまるまる採掘できれば、人類が産業革命以降に生産した鉄の総量に匹敵する鉄が得られることになる。

また、白金(プラチナ)族を多く含んだ小惑星もある。白金は装飾品のほか、化学品の合成や石油を精製する際の触媒、燃料電池、耐熱性が求められる電子部品、さらにペースメーカーやカテーテルなど、工業・医療の分野でも幅広く用いられている。地球上では、白金は金よりも産出量が少なく、希少価値が高いが、もし小惑星で採掘することができれば大量に入手でき、手頃な素材になるかもしれない。

もっとも、こうした宇宙資源の採掘にあたっては、解決すべき課題は多い。たとえば、小惑星まで飛べるロケットは1機あたり約100億円かかる。小惑星を採掘できるような宇宙機はさらに数百億円かかる。さらに、地球に持って帰られる資源の量は数kgから数十kg程度になってしまい、コストに対してとてもペイしない。そのため、ロケットや宇宙機の劇的なコストダウンが必要になる。

ただ、将来、人類が宇宙に進出し、生活を営むようになり、資源を宇宙で“地産地消”するような時代になれば、コストの問題は解決できるかもしれない。

また、リュウグウのようなC型小惑星に埋蔵されている水も重要な資源である。水は、私たちが生きるうえで必要不可欠であり、植物を育てるのにも役立つ。水素と酸素に分解すれば、呼吸するのに必要な空気やロケットの燃料にもなる。毎回水を地球から持っていこうとすると莫大なコストがかかるが、現地調達できれば、宇宙で生活するハードルを大きく下げることができる。

現在、M型小惑星のひとつ「プシューケー」に向けて、NASAの探査機「サイキ」が航行を続けている。2029年7月に到着する予定で、人類は初めて“金属の世界”を目の当たりにすることになる。

小惑星「プシューケー」を探査するNASAの探査機「サイキ」の想像図
[図4] 小惑星「プシューケー」を探査するNASAの探査機「サイキ」の想像図
©Maxar/ASU/Peter Rubin

小惑星の衝突はフィクションの世界の話ではない

映画『アルマゲドン』(1998年)では、小惑星の衝突から地球を救うために立ち向かう人々のドラマが描かれる。

小惑星の地球衝突という出来事は、決してフィクションの世界だけの話ではない。

たとえば、2013年には、ロシアのチェリャビンスク州に推定直径17mの隕石が落下した。落下時の衝撃波により建物の窓ガラスが割れるなどの被害が出たほか、死者こそ出なかったものの、多くの負傷者を出した。

日本でも2020年、千葉県習志野市の周辺に「習志野隕石」が落下し、多くの人が落下時の火球を目撃し、大きな話題となった。その後、隕石の破片が回収されたほか、民家の瓦屋根が破損されたことも確認されている。

さらに太古の昔、いまから約6600万年前には、メキシコのユカタン半島北部に推定直径10kmの巨大隕石(小惑星)が落下し、地球で栄華を極めていた恐竜を絶滅に追い込んだと考えられている。いまも直径約160kmもある巨大な「チクシュルーブ・クレーター」が残っており、その衝撃の大きさを今に伝えている。

もっとも、地球を滅亡させるほどの小惑星が衝突する危険性は限りなく低い。NASAなどは、地球近傍小惑星の観測を行っており、日夜、新しい小惑星の発見や、発見後の詳細な追跡を行っている。その中でも、特に地球に衝突する可能性が大きく、また衝突時に地球に大きな影響を与えると考えられる小惑星は「潜在的に危険な小惑星」に分類される。

現時点で地球近傍小惑星は3万4000個以上が発見されている。ただ、今後100年以内に地球に衝突する危険性のある小惑星は確認されていない。最も危険性が高いものでも、2185年に「2009FD」という小惑星が714分の1、つまり0.2%以下の確率で衝突するという程度である。前述した小惑星「ベンヌ」も地球近傍小惑星のひとつだが、最新の研究では2300年までに地球に衝突する確率は0.057%しかない。

しかし、地球近傍小惑星の多くはまだ未発見で、たびたび新しい天体が、それも地球のすぐそばを通過する直前や直後に発見されている。また、ベンヌのような既知の天体も、軌道が変わるなどして衝突の確率が上がる可能性もある。

地球に衝突する天体から地球を防衛するにはどうするか

もし、地球に衝突する天体が発見された場合、その脅威から地球を防衛するには、どうすればいいのだろうか。実はNASAでは「プラネタリー・ディフェンス(地球防衛)」と銘打って、その具体的な方法の研究が進められている。

現在、最も有用な方法として考えられているのが、宇宙機を小惑星に衝突させて軌道を変えるという、シンプルかつダイナミックなものである。

ただ、小惑星については未知のことが多く、たとえばどのタイプの小惑星に、どのように宇宙機をぶつければ、軌道がどれくらい変わるのか、ということがわかっていない。

そこでNASAは2021年、体当たりで小惑星の軌道を変える技術を実証する初のミッション「ダート(DART)」を打ち上げた。ダートがターゲットにしたのは、地球近傍小惑星のひとつ「ディモルフォス」である。ディモルフォスは直径約170mで、また「ディディモス」という直径約780mの小惑星と二重小惑星の関係にある、一見すると双子のような小惑星である。

ダートは2022年9月、ディモルフォスに正確に衝突し、その後の分析で、公転周期が約32分短くなっており、たしかに軌道を変えられることが実証された。

また、2024年には、欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ヘーラー(Hera)」がディディモスとディモルフォスに向けて打ち上げられ、3年後の2027年にランデヴーすることが計画されている。ヘーラーによる探査で、ダートの衝突により公転軌道や自転量が、どれだけ変化したのかや、衝突によってできたクレーターなどを詳しく調べることを目的としている。

また、ヘーラーにはJAXAも参加しており、小惑星探査機「はやぶさ2」で実績のある熱赤外カメラを提供するほか、衝突現象の科学や小惑星の地質学、ダイナミクス、熱物性などの科学の研究でも貢献することになっている。

NASAの探査機「ダート」が、衝突寸前に撮影した、小惑星「ディモルフォス」
[図5] NASAの探査機「ダート」が、衝突寸前に撮影した、小惑星「ディモルフォス」
©NASA
NASAの探査機「ダート」が、衝突寸前に撮影した、小惑星「ディモルフォス」
[図6] ダートが衝突したディモルフォスを探査する、ESAの「ヘーラー」の想像図
©ESA/Science Office

小惑星は、あるときは太陽系の歴史に触れられるタイムマシンであり、あるときは豊富な資源が眠る宝の山であり、そしてあるときには人類を滅亡させかねない脅威にもなる。これから私たちに、いったいどんな顔を見せてくれるのだろうか。

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。主な著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、論文誌などでも記事を執筆。

Webサイト:http://kosmograd.info/
Twitter:@Kosmograd_Info
https://note.com/celestial_worlds

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