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マイクロコントローラ(MCU:通称マイコン)が、これまでの成熟プロセスからいわゆる先端プロセス(22nm以下)へと舵を切り始めた。これまでのマイコンは、CPUコアやメモリ(RAM)、ストレージ(フラッシュメモリ)、I/O(入出力)インターフェイスやタイマーなどの周辺回路を1チップに集積して、主に制御機能を司ってきた。ところが最近では、セキュリティ回路やAIアクセラレータ回路までも集積するようになってきた。いわゆる制御用マイコンから演算機能も多用する、もっと賢くもっと安全なマイコンへと要求が増えてきたからだ。このため微細化して集積度を上げざるを得なくなってきた。これからのマイコンは確実に高集積に向かう。ここでは、どうやってマイコンを高集積にできるのか、マイコンチップを作る立場から探っていく。
これまでのマイコンは、いわゆる成熟したプロセス(90nmや65nm、40nm)などで設計・製造されてきた。最先端でさえ、先端と成熟の境となる28nmまでだった。微細化の妨げとなっていたボトルネックは、マイコンに集積しているNORフラッシュメモリ回路。NORフラッシュは微細化できない構造だからだ。このためフラッシュメモリの容量を増やそうとすれば、アクセス速度の遅いNANDフラッシュメモリを使うしかなかった。しかし、市場で入手できるNANDフラッシュでは記録容量が大きすぎて安価なマイコンには向かない。
マイコンとして使うには、これまでNORフラッシュの容量で十分だった。ところがクルマのSD-V(ソフトウェア定義のクルマ)化により、マイコンに高性能、すなわち高集積、高微細化を求めるようになってきた。なお、クルマ用途にはこれまで通り、SoCよりも安価なマイコンが求められている。
そこでマイコン設計者はNORフラッシュを諦め、PCRAM(相変化メモリ)やMRAM(磁気抵抗メモリ)(図1)、ReRAM/RRAM(抵抗変化型メモリ)など新しいメモリを採用するようになった。これらはいずれも微細化に対応できるからだ。NANDフラッシュの容量は大きすぎるだけではなく、218層もあるメモリセルのために必要となるシリコンプロセスが複雑で、マイコンの単純なプレーナ技術とは相反した。これに対して、新型のメモリはいずれも微細化が可能であり、適度な集積度のメモリを設計・製造できるようになってきたのだ。特殊な材料を形成するというプロセス工程は加わるが、すでに22nm、そして18nmプロセスへの製品化を始めた半導体メーカーも出てきている。
これらの新型メモリは、マイコンに集積することによってようやく商品化レベルになった。実は10年ほど前にもDRAMやNANDフラッシュなどと置き換える用途が期待されたが、残念ながら果たせなかった。米国のIntelとMicron Technologyが共同開発した、最大128Gビット容量の3D XPoint(スリーディークロスポイントと発音)メモリにはPCRAMが使われており、ストレージクラスメモリとして発売したが、コストと位置づけが残念ながら中途半端で、結局コンピュータメモリやストレージデバイスからは撤退してしまった。
しかし、マイコンに集積するメモリであれば十分勝負できそうだ、とマイコンメーカーが考え、NORフラッシュに変わるメモリとして開発されてきた。すでに製品化したところも出ている。
マイコンに集積される新型メモリのメリットは多い。従来のNORフラッシュと比べると、メモリアクセスが簡単である。NORは書き換える時には消去コマンドが求められる。またNORがページ単位での書き換えなのに対して、新型メモリはバイト単位で書き替えができる。EEPROMと比べると書き込み速度が速く、メモリ書き換え回数も多い。
新型メモリを利用したマイコンを製品化した、あるいはしようとしている半導体メーカーは、高集積マイコンを手掛ける所であり、高集積化よりも数量が期待される8ビットマイコンや16ビットマイコンに力を入れる企業は参入しない。
現在、新型メモリを手掛けると発表している半導体メーカーは、ルネサスエレクトロニクスやSTMicroelectronics(スイス)、Infineon Technologies(ドイツ)などに加え、自動車エレクトロニクスに力を入れる所が多い。さらに面白い企業としては、パワーエレクトロニクスを手掛けるサンケン電気も新型メモリであるReRAMを使ったマイコンを開発している。
新型メモリのReRAMあるいはRRAMは、金属酸化物のような絶縁体を金属電極で挟む構造をしている。両電極間に電圧を加え、徐々に上げていくと、最初の内は少ししか電流が流れず高抵抗状態を示すが、突然、電流が大きく流れて低抵抗状態になる(図2)。そこで、0と1を区別する読み出し電圧という電圧点で二つの状態を見ると、電流の小さな高抵抗の時を「0」、電流が大きい低抵抗の時を「1」とすることができる。そして、低抵抗状態に対して逆の電圧を加える(電圧を正から負に変える)と 、再び電流が小さい状態に戻るため、メモリを消去できることになる。
MRAMも同様で、抵抗の高い状態と低い状態を実現し、0と1を割り当てる。動作原理としては、2つの強磁性体材料で絶縁膜を挟む構造を作っておき、強磁性体の一つを、保持力(磁石の強さを表す)を強くしておき、それを参照磁性層とする。その電子スピンの向きは決まった方向に向けておく。もう一方の磁性体層は保持力の弱い材料を使い、スピンの向きを自由に変えられる自由層とする。自由層のスピンの向きが参照層と同じなら抵抗が大きく、逆向きなら抵抗は小さい。このダイオード構造に流す電流を増加させ、その電流の向きによって、スピンの向きを変えることができる。電流の大きさで書き換えられるSTT(スピン転送型)-MRAMが微細化に向くMRAMになる。
PCRAMも二つの金属電極が絶縁体を挟む構造をしているが、その絶縁体の種類が違う。PCRAMではカルコゲナイドと呼ばれる絶縁体(Ge2Sb2Te5など)を使う。常温ではアモルファス状の絶縁体で抵抗は高いが、このダイオード構造に大きな電流をゆっくり流すと溶けて多結晶になる(図3)。多結晶になると電流が流れやすくなり低抵抗状態になる。やはり、高抵抗状態と低抵抗状態を、0と1に割り当てる。また情報の読み出しは低い電圧で、情報の切り替えは高い電圧で行う。
これらの新型メモリに共通する特長は不揮発性、すなわち電源電圧をゼロにしても1あるいは0の状態が保たれることである。従来のDRAMやSRAMは電源を切ると、1あるいは0の情報が失われてしまう。このため常に電圧を加えなければならない。また、NANDフラッシュやNORフラッシュも不揮発性であるが、1、0の読み出し速度や書き換え速度はDRAMやSRAMよりも1桁以上遅い。以上の特長をまとめると、新型メモリは電源電圧を切っても情報は失われず、しかもDRAMメモリ並みにアクセス速度が速いのだ。ただし、メモリ単体では従来のNANDフラッシュやDRAMよりも高い。しかし、マイコンに集積できるプロセスならさほど大きな違いはなさそうだ。
では、どのような実例があるのか見てみよう。実際の商品化が最も早かったルネサスから紹介しよう。ルネサスは、MRAMを集積した、最小線幅22nm ULP(超低消費電力)/ULL(超低リーク電流)プロセスで設計・製造した32ビットマイコン「RA8P1」ファミリーを2025年7月にサンプル出荷した。最大1GHzで動作するArm Cortex-M85および250MHzのCortex-M33のデュアルCPUコアに加え、AI/ML(機械学習)用のニューラルプロセッサEthos-U55コア、高度な暗号化セキュリティIP、ストレージなども集積している。
ただし、MRAMは今回、初めての集積であるため想定できないことが起きる恐れもあり、最大1MBのMRAMだけではなく4MBあるいは8MBのNORフラッシュメモリも集積している。NORフラッシュ部分は従来のサイズを使っているものと思われる。MRAMはデータメモリとしてではなく不揮発性のROM的なコード格納にしか使われていない。データメモリには従来通りSRAMが使われており、ここでは2MBのSRAMを集積している。
STMicroelectronicsは、従来の40nmまでのNVM(不揮発性メモリ)から28nm/18nmと微細化するマイコンに搭載するNVMとしてPCM(位相変化メモリ)を使い微細化に対応していく、と明言している。開発レベルでは、28nmのFD(完全空乏化)プロセスでメモリセル面積は従来の半分となる0.019µm2を得ている。同社は28/18nmプロセスでのePCM(Embedded Phase Change Memory)(図4)の量産立ち上げ中だとしている。同社のFDSOI(Fully Depleted Silicon on Insulator)技術は、同じ寸法ならバルクCMOS微細化技術よりも1世代先を行くと言われている。この技術は、リーク電流の原因となる空乏層を2方向から止めるため、リーク電流が少ないという特長がある。
同社が従来PCRAMと呼ばれていたメモリをPCMと呼ぶのは、RAM動作(一時的に記憶するメモリの動作)ではなく、コードやデータをストレージとして使うためである。既存あるいは新規のアプリケーションソフトウェアをOTA(Over The Air:無線でメモリを更新すること)により更新できるようにすることを狙っている。将来、クルマのソフトウェアを、OTAによって更新できるようにするため、ePCMを搭載するマイコンは車載用になっており、車載用途に必要なASIL安全規格を満たしている。クルマ用のマイコンは今後、仮想化技術を採用するため高集積が求められ、より微細化技術へ進展させていく。
Infineonは、マイコンに新型メモリを使うことを正式に表明していないが、長年にわたってRRAM(またはReRAM)を開発してきており、その理由を、組み込みシステム(組込マイコン)は、起動コードの長期信頼性、特に20年のデータ保持が求められるからと述べている参考資料1。同社はメモリ企業ではないが、所有するマイコンに、不揮発性と高速動作を兼ね備えたRRAMを集積することは間違いない。
ただ、どのようなマイコンにRRAMを集積するのかについては述べていない。同社はハイエンドのAurixシリーズ、ミッドレンジのTraveoシリーズ、センサー駆動などのエッジデバイス用としてPSOCシリーズなどのマイコンシリーズを持っており、おそらくはハイエンドのAurixシリーズに搭載していくのではないだろうか。あるいはクルマ向けにRISC-Vコアのマイコン開発も進めているため、そのシリーズに搭載される可能性も否定できない。
Infineonと同様に ReRAMを使ったマイコンを開発しているのがサンケン電気である。同社は、パワー半導体のようなパワーエレクトロニクスの会社である。面白いことにパワー半導体の制御に、ReRAM不揮発性メモリを使ったマイコン「MD6605」を開発している(図5)参考資料2。22nmのULLプロセスで製造されたRISC-Vコアを使ったマイコンである。サンケン電気はこれまでも180nmや55nmのプロセスでマイコンを開発してきたが、マイコン単体では販売せず、高耐圧のドライバとセットで1パッケージのICとして販売してきたという。
パワー半導体は、電源やモータ駆動の制御に使われており、これまではアナログで制御していたが、マイコンからのデジタル信号で制御する方が高速、高精度、高効率にできるため、同社はマイコンを開発した。効率が上がれば消費電力が下がり、放熱が簡単になり、システムコストが下がる。デジタル化でマイコンやADコンバータなどの部品コストは上がるものの、小型・小面積になりシステムコストは下がることになる。22nm ULL(Ultra-Low Leakage)プロセスは台湾のTSMCが製造しているが、量産は2025年第4四半期からとなっている。このマイコンチップも高耐圧ドライバを1パッケージ内に集積したQFN40パッケージの製品「MD7701」として販売する。
以上、述べてきたように、新型メモリを搭載したマイコンが使われる用途は、さまざまである。クルマへの搭載を狙う企業は、今後のSD-Vに備えて高集積化とOTA対応などのために使うが、サンケン電気のように電源用のデジタル制御に使う用途もある。
前者の用途は、クルマのコンピュータ(ECU)の仮想化技術を支える高集積マイコンである。高集積マイコンでは仮想化に必要なマルチコアプロセッサに加え、AIプロセッサやセキュリティ回路、グラフィックス回路なども含まれる。ここでは制御命令だけではなく演算命令も加わるため、まるでSoCのような高集積ICになる。
後者の電源用では、米国のNVIDIAのようなAIチップを動かす、低電圧(1V以下)・大電流(300Aなど)のSoCに給電するPOL(Point of Load)電源など成長分野への道が開けている。電源電圧を数mV単位で制御することによって、SoCのAIチップの省電力化をサポートする。いずれの用途も製造は、TSMCをはじめとするファウンドリになりそうだ。
津田 建二(つだ けんじ)
国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト。
現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。
半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2025」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。