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Science Report
サイエンス リポート

再注目のUWB通信技術:高精度ポジショニングと新たな応用展開

文/津田 建二
2026.01.07
再注目のUWB通信技術:高精度ポジショニングと新たな応用展開

通信規格としては最近までほとんど聞かなくなっていた近距離高速通信規格UWB(Ultra-Wide Band)通信が息を吹き返し始めた。近距離通信としての規格ではWi-Fiとの競争に負けた。UWB以外にもWireless 1394やWireless USBなどの規格も林立していたが、やはりWi-Fiに負けた。しかし、UWB通信は、対象物との距離を測る測距技術や位置を推定するポジショニング技術として再登場してきた参考資料1。レーダーとしても使う。UWB技術の売りは、位置精度がcm単位と高くなることだ。そのための半導体も用意された。この技術は今度こそモノになるのか。応用での実証が問われることになる。

UWB通信技術の歴史的背景とWi-Fiとの競合経緯

2003年ごろ注目された近距離無線通信技術にUWB(Ultra-Wide Band)がある。当時のWi-Fiは今ほど速くなかったので、高速通信としてはUWB通信の方が有力視されていた。UWB通信の通信距離は10m以内だが、通信データレートはWi-Fiの802.11a/802.11gの最大54Mbpsよりも高速の480Mbpsだった。しかし、近距離で高速という用途となると、動画伝送としては不十分で、家庭でパソコンからプリンタへ無線で出力するような応用しかなかった。

当時は、近距離無線として、Wireless 1394やWireless USBなどのインターフェイス規格もあり、それぞれのプロトコルの共存やインターオペラビリティ(相互運用性)などの検討が進められていた。しかし、それよりもWi-Fiの進化の方が速かった。2009年には802.11nの600Mbps、2013年にはIEEE 802.11acの1GbpsとUWBを追い抜いて遥か先に行ってしまったのだ。こうしてUWB通信の出番はなくなった。

現在はWi-Fi 6/6E(IEEE 802.11ax)や、その次のWi-Fi 7(IEEE 802.11be)へと進化し、理論的な最大通信速度は46Gbpsまで提案される時代になっている。

iPhone 11採用でUWBが急速に普及し始めた理由

UWB通信が再び注目を集めるようになったきっかけは、米国のAppleが2019年に発売したiPhone 11にアセットトラッキング用のUWBコントローラU1を搭載したことだ参考資料2。iPhone 11に搭載されているUWB発信機からの電波を受ける受信機となるのがAirTag(図1)である。このタグを取り付けたカメラなどの貴重品が、iPhoneから遠く離れると、UWB電波が届かなくなるため、カメラが近くにないという通知がiPhoneに届く。貴重品(アセット)の場所を追跡する(トラック)ことから、この機能をアセットトラッキングと呼んでいる。

UWB通信を使うAirTag
[図1]UWB通信を使うAirTag
写真:津田建二

Apple では、iPhone11以降および、Apple Watchのシリーズ6以降にもUWBコントローラを搭載している。また、Androidスマホにも続々UWBコントローラが搭載されるようになった。

距離や角度を正確に測るUWBの仕組みと特徴

アセットトラッキングの利用にUWB技術が使えたことで、これからの新しい応用に関してもUWBチップメーカーは自信を深め始めた。彼らは消費者向けでも産業向けでも新しい応用を考えている参考資料34

UWB通信の機能には、リアルタイムの距離測定(RTLS:Real Time Location System)や、位置の特定(positioning)、レーダーなどがある。測距や位置の特定はUWBだけではなく、衛星からの信号をベースにしたGPS(Global Positioning System)やGNSS(Global Navigation Satellite System)、Wi-Fi、Bluetoothなどのプロトコルもある。しかし、UWBとの決定的な違いは、その精度だ。GPSやBluetoothなどは位置精度が数m~数十m単位であり、それほど高くないが、UWBはcm単位の精度がある。

UWBは、どうやって距離を測定したり位置を特定したりできるのか。スマホからアセットとの距離を測るのには基本的にToF(Time of Flight)法を使う。これは測定したい物体に反射して戻ってくる電波から距離を推定する方法である。電波の速度は光の速度と同じだから電波が戻ってくるまでの時間を測ることによって、距離がわかるという訳だ。レーダーも同様の原理で対象物との距離を測定している。

Wi-FiやBluetoothなども同様の原理だが、Bluetoothは複数の発信体あるいは受信体を用意しなければ距離と角度がわからず、場所の特定ができない。しかし、UWBは発信体にも受信体、受信体にも発信体がついている。このため、2台の発信体と受信体でToF法を使って距離を、AoA(Angle of Arrival)法を使って電波が届く角度を測定し、互いに場所を特定する。さらに、受信体内部の発信体から発信体内部の受信体に電波を送る際の時間差も補正しながら算出し(図2)、互いの距離の精度を高めている。そのためにパルス幅2nsのパルス列の電波を使っている。

デバイス1からデバイス2へUWB信号を送り、デバイス2が信号を受け取った後にデバイス1へ信号を送る場合、時間的な遅れを考慮することで、より正確な位置を互いに算出できる
[図2]デバイス1からデバイス2へUWB信号を送り、デバイス2が信号を受け取った後にデバイス1へ信号を送る場合、時間的な遅れを考慮することで、より正確な位置を互いに算出できる
出典:NXP Semiconductor

また、電波には直接届く電波と壁や地面、建物などによる反射によって届く電波があるが、直接届く電波が最も強い。反射波は直接波とは異なる角度で受信されるためAoA法も必要となる。これで精度はさらに上がる。

また、UWBは大量のパルス列の電波を収容するため、帯域は500MHzと広い。国によって許可される周波数帯は異なるが、6GHz帯や8GHz帯を使う。BluetoothやWi-Fi、電子レンジなどの2.45GHzとは異なるため、電波が混み合って切れるという心配がない点も有利である。

さらにUWBでは、デバイス間で信号をやり取りした正確なタイミング時刻をSTS(Scrambled Timestamp Sequence)機能がエンコードしているうえに、測定したデータをAES(Advanced Encryption Standard)暗号プロトコルに従って暗号化しており、セキュアなデータパケット伝送が可能である。

物流や資産管理、ドローンでのUWB活用例

精度が高いことで使える応用が従来のタグ製品から変わってくる。優れた実績を持つUWBチップの設計製造企業は、Androidスマホのタグに使われ、AppleのAirTagのセカンドソースにも認定された米国のQorvoと、やはりAndroidスマホに採用されたオランダのNXP Semiconductorが2大メーカーのようだ。その一つQorvoは、図3のような新しい産業向けの応用を考えている。

新たな産業用途も想定
[図3]新たな産業用途も想定
出典:Qorvo

また、薬品や救命器具を運ぶスイスのJedsyの配送ドローンに、NXP SemiconductorのUWB製品が搭載されるというニュースも2025年10月に流れた(参考資料4)。ドローンが到着する着陸位置の距離や場所を測定するためにUWBが使われるのだ。

さらに、患者やスタッフ、重要な装置などが今どこにあるかをUWBを使ってリアルタイムでチェックする。病院のベッドや紛失した車椅子の場所なども病院内をウロウロすることなく瞬時に誰でもアクセスできる。薬品や患者のためのグッズなどを運ぶ搬送器具と他の器具との接触や衝突なども防ぐことができそうだ。

位置情報サービスでUWBが注目されるポイント

医療の応用も多いが、UWBの新しい応用の本命は、今どこにいるのかという位置の特定、ロケーションサービスだろう。広い倉庫内を走るフォークリフトや、在庫を積んだ商品棚などにUWBを搭載していれば、どこにどの商品を運び入れたり出したりするのかを瞬時に知ることができる。これまでのデバイスは誤差が数mあったので、どの棚なのか見つけるのに苦労したが、UWBは精度が数十~数cmと高い。

また、製造業において、UWBリーダー(読み取り機)を生産ラインに設置し、部品にタグを付けておけば、生産ラインに必要な部品がリアルタイムで明確に認識できるため、WIP(Work-in-Progress)管理にも有効だ参考資料5。集められたデータは、どのラインでどの部品を取り付けているかがわかるだけではなく、そのデータを元に流れをコントロールできる。

物流倉庫やインターネットショッピングなどの配送センターでは、タグを取り付けた荷物を常に監視するアセットトラッキングはもとより、配送や物流のトラックにも取り付ければ、物流全体を把握できる。このほかにロケーションサービスとして考えられるものに自律走行するロボットや医療用のRTLSなどがある。

幼児の置き去り防止に使える低コストUWB技術

また、UWBレーダーは車内の幼児置き去り事故に対処するために重要な技術になる可能性がある。幼児の車内置き去り事故は、日本だけではなく米国でも深刻で、2023年には29名の幼児が暑い夏に車内に閉じ込められ命を落としている参考資料67。幼児の存在を確認するシステム、CPD(Child Presence Detection)は、欧州のEuro-NCAP(European New Car Assessment Program)のファイブスター安全賞基準に含まれ、2026年1月から発売されるクルマにはマストとなる。米国でもNHTSA(米国運輸省道路交通安全局)によって、CPD装置が早ければ2027年にマストになりそうだ。

UWBは周波数をスウィープするレーダーとほぼ同じような仕組みで距離を測っているため、レーダー機能もチップに集積できる。従来の60GHzレーダーはUWBと別のシステムが必要になるため割高となっていた。これからの幼児車内検出には、低コストのUWBレーダーがメジャーになる可能性は高い。

このほか、ドアを開閉するデジタルキーに従来のBLE(Bluetooth Low Energy)よりも消費電力が低いUWBを採用しようという動きが、HyundaiやBMW、Ford、Honda、Mercedes-BenzなどにあるとQorvo Japanは見ている。家やマンションのドアのカギにもUWBの利用が増えつつあるという。

主要半導体メーカーの最新UWB製品動向

半導体チップの視点に立てば、UWBの汎用チップと自動車用のチップを製品化してきたQorvoと、タグチップで実績を積んできたNXPが他よりも1歩リードしているようだ。今年後半には両社ともUWB+レーダーのSoCをリリースしており、コスト的には有利な立場にある。

Qorvoは、2025年9月に、UWB+レーダーをSoCにした「QM35825」を製品化しており、自動車向けにCAN-FDコントローラから出力できるようにした製品「QPF5100Q」もリリースしている。

NXPも測距とレーダーをSoCにしたセキュアなUWBの「Trimension SR250」を新製品発表した。10月には、この新製品の前世代となるSR150がJedsyの医療品配送ドローンに搭載されると発表した。

ハード・ソフトを含むUWBの普及のための仕組みづくり

半導体にSoCやプロセッサも集積されるとなると、ハードウェアだけではなく、ソフトウェアでも動作するようになるため、ハードからソフトまでのエコシステムが重要になる。半導体メーカーはチップだけを作るが、それを実際のボードに載せてデモする段階まで見せる必要がある。チップに埋め込むソフトウェアの開発企業、プリント回路基板メーカーやアンテナ設計企業などのハードウェア企業、さらには一緒にUWBを普及させるパートナー企業たちがいて、初めて商品としてユーザーに提供できるようになる。このためのエコシステムの構築が極めて重要になる。

パートナー作りはUWB産業を大きくしていくうえで重要である。UWBは他の測距技術より精度が高いという特長を生かしてハードウェアだけではなく、ソフトウェアのパートナーとも手を組み、ユーザーの望む設定範囲を決めたり必要な機能を追加したりできる。

また、UWBより高精度なロケーション技術も出てきている。カナダのZeroKeyのロケーションサービスは、mm単位の精度を誇る参考資料8。超音波を使いながら独自技術を加えたというが不明なところが多い。しかし、実際のデモで見せたおもちゃの電車の軌跡はレールの幅そのものだった。つまり精度がmmであることは間違いなさそうだ。

UWBは今、勢いがついてきた技術ではあるが、油断するとZeroKeyの技術に取って代わられるかもしれない。UWBは比較的低コストでできる点が有利である。応用が広いことも期待が大きい。場合によってはこれから先、Wi-Fi 7も含めた規格、あるいはソフトウェアで標準化を図るMatterという規格でさえパートナーとなることもありうる。そのためにもエコシステムは重要な情報源となりうる。

[ 参考資料 ]

1. 「UWB通信のリアルタイム位置検出やレーダーで復活を狙うQorvo」、セミコンポータル、(2025/09/09)
https://www.semiconportal.com/archive/editorial/technology/chips/250909-qorvouwb.html
2. Ultra Wideband, Apple Community、(2023/03/29)
https://discussions.apple.com/thread/254750118?sortBy=rank
3. Trimension® Ultra-Wideband (UWB)、NXP Semiconductor Products、
https://www.nxp.com/products/wireless-connectivity/trimension-uwb:UWB-TRIMENSION
4. NXP Trimension Ultra-Wideband Solutions Enable Jedsy X Medical Delivery Drones、NXP News Brief, (2025/10/07)
https://www.nxp.jp/company/about-nxp/newsroom/NW-NXP-TRIMENSION-ULTRA-WIDEBAND-SOLUTIONS
5. Ultra-wideband (UWB) location tracking, RFiD Discovery
https://www.rfiddiscovery.com/en/solutions/ultra-wideband-uwb-location-tracking
6. UWB’s Increasing Role in Automotive Applications、Microwave Journal、(2024/09/12)
https://www.microwavejournal.com/articles/42605-uwbs-increasing-role-in-automotive-applications
7. Child Presence Detection Evaluation、Safe Driving、EuroNCAP、Version 0.9、2025年3月
https://www.euroncap.com/media/85787/sd-102-cpd-evaluation-v09.pdf
8. HYPER-ACCURATE 1.5 mm 3D RTLS、ZeroKeyホームページ
https://zerokey.com/quantum-rtls/
Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト。

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。

30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2025」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

URL: http://newsandchips.com/

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