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Science Report
サイエンス リポート

脱炭素を目指す手段として重要性高まる「小型モジュール炉(SMR)」が注目される背景と展望

文/ 伊藤 元昭
2026.01.14
脱炭素を目指す手段として重要性高まる「小型モジュール炉(SMR)」が注目される背景と展望

CO2を排出しないクリーンで安定した電源として、また、安全保障の観点からエネルギー供給源を多様化する手段として・・・。日本では、再び原子力発電の活用に関する話題を耳にする機会が増えてきた。2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故以来、既設炉の稼働停止・見直しが進んだ。そして、具体的に進む増設・新設の動きもない状態だ(2025年11月現在)。しかし、近年は再稼働と増設・建替えに向けた議論・検討が着々と活発化してきている(図1)。

安全で小型の原子炉SMRによるクリーンで安定的な電力供給に注目が集まっている
[図1]安全で小型の原子炉SMRによるクリーンで安定的な電力供給に注目が集まっている
写真:AdobeStock

日本政府は、2025年11月4日に日本成長戦略本部を設置し、「17の重点投資対象分野」を掲げた。官民連携での技術・産業基盤の強化と国家の危機管理投資、及び成長投資を組み合わせる方向性を具体的に打ち出したものだ。戦略的に重点投資する分野の中には、「資源・エネルギー安全保障・GX」や「フュージョンエネルギー(核融合)」のような原子力活用につながる項目が明確に挙げられている。そして、近年の政府会議では、安全性重視で新たな原子力技術(次世代炉)及び核融合の研究を、より加速させていく方針が示されている。

このうち核融合に関しては、ここ数年で劇的な技術の進化が見られたものの、現時点では研究段階の技術であるため、実用化への道のりは長期的視野から見た方が良さそうだ。しかし、脱炭素化とエネルギー安全保障は、いずれも直近で対処すべき課題であり、比較的即効性のある原子力活用の施策の導入を考える必要が出てきている。そこで、にわかに注目が集まり始めたのが、従来の大型原子炉に比べて安全性が高いとされる次世代炉の一種「小型モジュール炉(Small Modular Reactor:SMR)」である。ここでは、SMRとはどのような技術でなぜ安全性が高いとされているのか、今注目が集まっている理由はなぜか、さらには、社会実装に向けた動きと課題などについて紹介する。

SMRとは、力技の制御を最小限に抑えて安全性を向上させる原子炉

そもそもSMRとは、いかなる特徴を持った、どのような原理・構造・設計思想の原子炉なのだろうか。国際原子力機関(International Atomic Energy Agency :IAEA)や各国の規制機関・政府は、以下の3つの条件を満たす原子炉をSMRと定義している(図2)。すなわち、(1)発電に利用する際の電気出力が300MWe級以下であること(従来の大型炉は1000~1600MWe)、(2)システム設計をシンプル化し、受動的安全機能(Passive Safety)の強化がされていること、(3) 設備の構成要素を工場でモジュールとして製造して現地組立を最小限に抑える設計であること、である。

SMRの定義と従来の大型原子炉との構造などの比較
[図2]SMRの定義と従来の大型原子炉との構造などの比較
作成:伊藤元昭
写真:NuScale Power

従来大型炉とSMRでは、燃料となるウランなどの物質が核分裂する際に発生するエネルギーを取り出して発電などに利用するという、原理自体に関しては変わりがない。ただし、SMRの方がシステム構造上シンプルで、安全性を確保するために人為的に力技の制御(能動的制御)を行う領域を最小限にとどめ、放置しても自然法則ベースでの自律的制御(受動的制御)が進むシステムを追求している点が本質的な違いとなる。

SMRは、従来炉に比べて小型である(出力が小さい)。このため、これまでにない場所や用途での活用が期待されている。電力需要がそれほど多くない地域や、大規模な送電網がない離島、遠隔地にも設置が可能とされている。廃止された石炭火力発電所の跡地を再利用する案も検討されている。発電だけでなく、高温の蒸気(プロセス熱)を化学プラントや工場に供給したり、その熱を使って水素を製造したりするなど、電力以外の多目的利用も期待されている。

再エネ活用が推進されているのに、今SMRに注目が集まる理由

「脱炭素社会の実現」と「エネルギー安全保障」という2つの課題には、太陽光や風力など再生可能エネルギーの活用推進でも対処できそうなものだ。実際、近年まではそうした方針での対処が進められており、現時点でもその大枠が変更されているわけではない。それにもかかわらず、今の日本において、再び原子力、とりわけSMRが注目されている背景には明確な理由がある(図3)。

再エネではなく、原子力、とりわけSMRに注目が集まっている理由
[図3]再エネではなく、原子力、とりわけSMRに注目が集まっている理由
作成:伊藤元昭

まず、生成AIの活用や「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の拡大などによる、データセンターを中心とした電気電子システムでの電力需要の急増に、早急に対処する必要が出てきていること。2025年の最新予測では、日本の電力需要増加分の過半数をデータセンターが占めるとも試算されており、既存電力網だけでは供給不足に陥る可能性が出てきている。データセンター(特にAI学習用)は24時間365日、極めて安定した高出力電源が必要。天候に左右される太陽光や風力だけでは賄いきれない。このため、ベースロード電源として利用可能で、かつ脱炭素電源である原子力の適用が急浮上してきた。米国ではAmazonやGoogleが、SMR開発企業への投資や電力購入契約を相次いで発表している。このことが、日本の産業界にも強いインパクトを与え、「データセンター×SMR」がセットで議論されるようになった。

次に、2050年のカーボンニュートラル達成目標の実現に向けた再エネ導入の道のりが、思いのほか険しいことがわかってきたこと。再エネ導入目標を掲げる海外諸国と比較して、直近までの日本での再エネ導入は“優等生”と呼べるほど公約通りのペースで進められてきた。2024年時点では再エネ導入比率が約26.7%にまで達している。ただし、その取り組みは再エネの主電源化に向けた端緒にすぎない。そして、導入規模拡大に向けて頼りにしてきた大型洋上風力プロジェクトの頓挫や、買取価格の優遇縮小による太陽光ビジネスの成長鈍化・収益性低下、需給変動や出力制御、系統連系に向けたインフラ整備の遅れなど、想定する成果見通しに暗雲が立ち込め始めている。再エネの適地が限られる日本において、省スペースで設置可能なSMRは現実的な「脱炭素の切り札」として位置付けられている。

さらに、太陽光も風力も、発電施設を構成する資材の中に輸入に頼るものが多く含まれていること。太陽光モジュールはセルの90%以上を輸入(特に中国)に依存し、風力の風車本体などは欧米・中国の企業が市場を支配している状況だ。その他にも、輸入に頼る資材は極めて多様に存在する。発電手段を問わず、全てを国産で賄うことは難しい。しかし、地熱や海外諸国のものに比べて際立ってCO2排出量が少ないとされる日本の火力発電なども含めて、エネルギー安全保障の観点から、エネルギー源そのものを多様化してリスク分散しておくことの重要性が高まっている。SMRは、燃料を除けば、国産で賄える部分が極めて多い。

そして、SMRの開発・量産が、日本企業の競争力の高い、新たな巨大輸出産業になる可能性があること。SMRは、現地で建設する従来の原子力発電とは異なり、「工場でモジュール(部品)を製造し、現地で組み立てる」という方式で設置する。言わばプレハブ住宅のようなものだ。そして、原子炉容器やタービンなどの大型鋳鍛鋼製品において、日本製鋼所や三菱重工業、IHIなどは世界トップクラスの技術を保有している。既に、米国のNuScale PowerやTerraPowerなどSMRの有力スタートアップに対し、日系企業(日揮、IHI、三菱重工など)が出資や機器供給で深く入り込んでいる。

小型でシンプルであることが、安全性を高める

IAEAなどの定義を起点として、大型炉とSMRそれぞれのスケールや構造などを少し詳細に紹介しながら、SMRの安全性に関して深掘りしたい。

まず、(1)で定義されている出力から分かるように、SMRは炉心や周辺システムのサイズが小さい。従来炉(1000〜1600 MWe)の炉心は、高さ約4m、直径約4m、燃料集合体は数百本と巨大である。周辺システムには、大規模・複雑な配管システム(加圧器、冷却材ポンプ(RCP)×数台、スプレー系、注水系など多数)を付加し、大型建屋(原子炉建屋・タービン建屋・補助建屋)に収める。一方、SMRは、炉心は比較的コンパクト(例:77 MWeの炉1基の炉心は高さ約2.7m・直径約2.7m。燃料集合体数は300MWeの炉であっても約1/3)。周辺システムの機能は、圧力容器内に内蔵化することによって、配管長の短縮を実現している。この点は破断リスクの低減につながり、SMRの安全性を高めている要因のうちの1つである。建屋も従来比で50~70%程度に縮小できる。

そして、(2)のシステム構成の単純化と受動的安全機能の強化は、従来炉に対する構造・設計思想面での最大の違いである(図4)。従来炉はポンプを利用して冷却水を循環させて炉心を冷やす能動的安全機能を採用している。システムを多重化して不具合の発生などに備えているものの、外部電源の喪失などによってポンプが機能不全に陥れば、炉心が暴走してしまう可能性があった。これに対しSMRでは、重力や温度差など自然現象を利用した冷却水の自然循環によって冷やす受動的安全機能を採用している。また、注水タンクにおいても、高所タンクから重力や蓄圧で注水する方式を、熱除去系では熱交換器を利用し自然空気流で熱交換する方式を採用している。機種によっては、水位が低下した際にも圧力容器内の温度・圧力を利用して自然な冷却が継続できる仕組みを導入したり、地下に設置して外的衝撃から守る対策を取ったりするものもある。これらの安全機能を統合して、電源喪失や自然災害などによる暴走リスクを極限まで低減している。

SMRの方式別の安全対策の比較
[図4]SMRの方式別の安全対策の比較
作成:伊藤元昭
写真:日立GEベルノバニュークリアエナジー

SMRの定義のうちの(3)設備構成要素のモジュール化は、安全性向上というよりも導入・運用の容易化につながる特徴である。従来の大型炉は、ほぼすべてを現地で建設し、工期は6~10年以上かかる。これに対し、SMRは、構成要素のモジュール化と標準化を推し進めることで工場での製造を可能にし、現地では組み立て作業だけで済ませることができる。工期も2.5~4.5年と短い。また、従来は1kW当たり5000~8000米ドルだった建設費用が、同2000~4000米ドルと安い。運転・メンテナンスにも差がある。これまで数百名規模で必要だった運転員を、数十名程度と大幅に削減可能である。さらに、長期の停止が必要だった燃料交換が、モジュール交換の導入によって、より短期間での交換が可能になる。

多数の建設プロジェクトが進行中の海外、日本は制度整備と技術開発の段階

先述したように、SMRに必要な構成要素やSMRそのものの技術・ビジネス開発において、日本企業は高い競争力を持っている。ただし、実際の導入(建設・運転)の動きに関しては、日本と海外でステージがかなり異なっていると言える(図5)。海外では、実機建設・サイト選定・電力購入契約まで進んだ例が多く存在する。一方、日本は、政策・制度整備と要素技術開発、海外案件への参画が中心(国内建設はまだ構想段階)となっている。

海外と日本のSMR関連の取り組みの進捗
[図5]海外と日本のSMR関連の取り組みの進捗
作成:伊藤元昭
写真:NuScale Power

欧米には、既にSMRによる発電所を設置するプロジェクトが複数ある。特に2025年以降、具体的プロジェクトが急加速し始めた感がある。カナダ オンタリオ州のダーリントン新設プロジェクトでは、日立GEベルノバニュークリアエナジー製のSMRである「BWRX-300(300MWe級LWR-SMR)」1基の建設ライセンスを2025年4月に取得した。オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)は、同サイトに最大4基のBWRX-300を並べる構想をしており、1号機の運転開始は2030年頃を想定している。米国では、テネシー州に設置したKairos Power製SMRの実証炉(2027年運転開始目標)と併せ、Googleとの間でAIデータセンター向けに6〜7基のSMRで最大500MWeを供給する電力購入契約を締結した。最初の稼働は2030年を目指すとされている。Amazonは、次世代SMRと燃料の開発企業「X-energy」に、同社が中心となって約5億米ドル規模の資金調達支援を行なったと発表している。

英国では、2025年11月に、ウェールズ・アングルシー島に、Rolls-Royce製SMR(約470〜480MWe級PWR)3基を建設することを正式決定した。英国政府はSMR開発に25億ポンドの公的支援をアナウンスしており、2030年代半ばの送電網接続を目指している。

中国では、SMR実証炉「ACP100(玲龍一号)」の建設が2021年から始まり、2024年には原子炉内部構造物や外側ドームの設置が進んだと報じられている。現地報道によると、2026年の稼働を予定し、電力供給に加え、地域の熱供給・海水淡水化などへの用途も想定しているとしている。ロシアでは、浮体式のSMRによる発電所「アカデミック・ロモノソフ」が、2019年末から商業運転を開始している。2025年初頭には累計発電量10億kWh超に到達したと報道されている。陸上用SMRとしてはサハ共和国北部のウスチ・クイガで「RITM-200N(約55MWe)」の建設に向けて準備が進行しており、2028年の運転開始を予定しているという。

日本では、現時点で国内に建設が決まったSMRは存在しない。政策位置付け・制度整備、JAEAとメーカーによる技術開発(DFS-SMR、浮体免震など)、海外SMRプロジェクトへの参画・投資が進められている状況だ。民間企業が先行し、政府がそれを後押しする形で進められている。現状は、日立GEが開発するBWRX-300(軽水炉型)と、三菱重工業が開発する小型PWR(加圧水型炉)が、国内の取り組みにおける二大潮流となっている。このうち小型PWRは、加圧水型軽水炉(PWR)をベースにした、日本独自の設計思想(安全性と経済性を両立)を持つSMRである。発電だけでなく、プラントの熱利用(水素製造や化学プラント向け)も視野に入れた多目的利用が可能な点を強みとしている。

従来炉よりも高い安全性が期待されるが、リスクはゼロではない

SMRは、従来炉に比べて構造・設計思想面で安全性が高いことは確かだと思われる。しかし、事故発生のリスクがゼロであるとは言い切れない。これらの点の改善が、これからの技術開発上や運用上の取り組み課題となる。そしてSMRの安全性を評価する際には、従来炉との比較でリスクが低減される部分と、新たに発生する、または残るリスクの両面に目配りすることが重要になる。

まず、放射性物質を扱う限り、ゼロリスクはありえない。SMRであっても「原子炉で核分裂を行う」という本質は変わらない。そのため、燃料破損時の放射能放出、廃棄物・使用済み燃料の安全管理、緊急時対応といったリスクは、規模が小さくなっても完全には消滅しない。特に廃棄物は従来炉と本質的に同じカテゴリーで中長期の管理義務が必ず発生する。

また、多数導入すれば総体リスクは増える。SMRは個々の出力が小さいため、電力供給ニーズを満たすには多数の炉を並列で建てる必要がある。すると、個々のサイトは安全でも、炉の数が増えることで全体リスクは増える。さらに、分散配置することで、監視・規制・保全の難易度が上昇する。加えて、モジュール化ならではの製造リスクがあることも留意しておく必要がある。工場製造の品質管理が一度破綻すると、不良モジュールが大量出荷されることになるからだ。

さらに、新技術ゆえの不確実性(設計、規制、人材、実績不足)が存在する。SMRはまだ新技術であるため、適切な規制/安全基準の整備は進行中である。長期運転・老朽化データが存在せず、運用経験が少ないため、安全性を確保した上での運用には不確実性が残る。地方分散配置を行う場合、熟練オペレーター確保が困難であることも課題だ。

福島第1原子力発電の事故を経験した日本が、安全性を高めた原子炉であるSMRをどのように評価し、社会実装に向けて検討していくのか。この点は、世界の脱炭素化やエネルギー安全保障を論じる上でも、重要な論点になりそうだ。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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