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ある夏の日、海水浴に行く。砂浜に踏み入ると、足の裏には細かな砂粒がびっしりと張り付く。その数は、片足だけでも数万から数十万粒に達するだろう。足もとには、さらに数百万粒もの砂が層をなし、ひとつの海水浴場の砂浜全体では1000兆粒、そして、地球上の砂浜すべてへと想像を広げれば、数千京から数垓粒ほどに達すると見積もられる。まさに「星の数ほど」という言葉がふさわしい、途方もない数の砂粒が、この地球には広がっている。
星の数ほど――私たちは、数えきれないものを、そう例える。けれども、実際に観測可能な宇宙にある恒星の数は、おおまかに1000垓個、あるいはそれ以上に達すると見積もられている。
その星々のどこかには、地球に似た惑星があるかもしれない。そこには生命が生まれ、知性が育ち、私たちと同じくらい、あるいは私たちより進んだ文明が存在しているかもしれない。そして、その文明は、宇宙のどこかで隣人を探し、私たち地球人に向けて何かを呼びかけているかもしれない。
それは、途方もない想像である。だが、ただの夢物語ではない。人類はこの数十年、望遠鏡と物理学、そして、技術の力を用いて、宇宙の沈黙の中にその呼びかけを探し続けてきた。その試みが、「地球外知的生命探査(SETI(セティ、セチ))」である。
人類は古くから、夜空を見上げながら、「この世界の外にも、誰かがいるのではないか」と考えてきた。古代には神々や天上界の物語として語られ、中世には宗教や哲学の問題として論じられてきた。
近代に入ると、コペルニクス的転回によって、地球が宇宙の中心ではないという認識が広まった。地球が特別な場所ではないのなら、ほかの天体にも住人がいるのではないか。そうした考えは、しだいに多くの人々に受け入れられていった。
月や惑星、とりわけ火星は、地球外知的生命が存在するかもしれない場所として想像されるようになった。19世紀末から20世紀初頭にかけては、火星表面に見える模様が「運河」と解釈され、火星文明の証拠ではないかと考える人々も現れた。これはのちに誤りと判明するが、地球外知的生命への関心を大衆文化へ広げる大きな契機となった。
20世紀も半ばを過ぎると、その問いは科学的な観測によって確かめることができるようになった。1959年、イタリア出身の物理学者ジュゼッペ・コッコーニと、米国の物理学者フィリップ・モリソンは、星間通信を探すなら、中性水素が出す1420MHz付近の電波に注目すべきではないかと提案する論文を、英国の科学誌『Nature』に発表した。
1420MHzという周波数は、中性水素原子が出す特有の電波に対応している。より正確には1420.40575MHzであり、波長にすると約21cmになる。そのため、この電波は「21cm線」あるいは「水素線」と呼ばれる。水素は宇宙で最もありふれた元素であり、銀河の中に広がるガスを調べるうえでも、天文学の基本的な目印になっている。
この周波数が含まれるマイクロ波帯は、宇宙から来る自然の雑音が比較的少なく、電波が星間空間や地球の大気を通り抜けやすい領域でもある。低すぎる周波数では銀河そのものからの雑音が強くなり、高すぎる周波数では別の種類の雑音や大気による放射が問題になる。その中で、1〜10GHz付近は「マイクロ波の窓」と呼ばれ、遠方から届く電波を受け取りやすい領域とされてきた。1420MHzは、その中でもとくに象徴的な位置にある。
さらに、1420MHzより高い周波数側には、水酸基、すなわちOHが出す電波の線がある。水素のHと水酸基のOHを組み合わせると、水(H2O)になる。このため、水素線と水酸基線に挟まれた比較的静かな周波数帯は、生命にとって欠かせない水にちなんで「ウォーター・ホール」と呼ばれるようになった。地上で動物たちが水場に集まるように、宇宙の知的文明も、この周波数帯を待ち合わせ場所として選ぶのではないかという発想が込められている。
もちろん、これは、宇宙人が必ず1420MHzでメッセージを送っているという意味ではない。まして、この周波数だけに耳を澄ませていれば、地球外文明からの信号に出会えるというわけでもない。一方で、地球人だけに通じる恣意的な発想でもない。物理法則が宇宙のどこでも同じであるなら、1420MHzという周波数もまた、どの文明にとっても同じ性質、意味をもつ。もし、ほかの星に電波天文学を発達させた文明があるなら、その文明もこの周波数を知っている可能性は高い。そして、この周波数を宇宙観測や呼びかけの目印にしようと考えたとしても、不思議ではない。
私たちが誰かに呼びかけるとき、「おーい」と声をかけたり、大きく手を振ったりするのは、それが相手にも伝わる合図だと考えるからである。それと同じように、1420MHzは、水素という宇宙に普遍的な元素に由来し、どの文明にも認識されやすい、自然な宇宙共通の合図になりうると考えられているのである。
無数にある周波数の中で、ここに注目すればよさそうだという特別な一点を、自然法則そのものが与えてくれている。あるいは未知の相手との待ち合わせ場所を、宇宙があらかじめ用意してくれているかのようにも見える――。このような性格から、1420MHzは「マジック周波数」と呼ばれている。
1960年には、米国の天文学者フランク・ドレイクが、同じく1420MHz付近の周波数に注目し、米国立電波天文台(NRAO)の電波望遠鏡を用いて、近くの恒星から人工的な電波信号が届いていないかを調べた。これが、世界初の近代的なSETI観測とされる「オズマ計画」である。
オズマ計画の観測では、地球外文明からの信号は見つからなかった。しかし、この試みは、地球外知的生命の探査を、空想や哲学の問題から、実際の観測によって検証できる科学へと押し上げる大きな転機となった。
その流れの中で、1970年代に重要な役割を果たしたのが、米国オハイオ州立大学の電波望遠鏡「ビッグ・イヤー」である。もともとは宇宙から届く電波源を広く調べる掃天観測のために建設された望遠鏡だったが、のちにSETI専用となった。
ビッグ・イヤーは地球の自転を利用して空を少しずつ走査し、特定の方向から、ごく狭い周波数幅の電波が届いていないかを調べた。もし地球外文明からの人工的な信号が存在するとすれば、それは自然の天体が放つ幅広い周波数の電波とは異なり、特定の周波数に集中した信号として現れる可能性が高いと考えられていたからである。この発想は、現在のSETIにも受け継がれている基本的な考え方のひとつである。
そして、1977年8月15日、ビッグ・イヤーは、いて座の方向から来たとみられる強い電波信号を記録した。信号は狭い周波数幅に集中しており、しかも1420MHz帯に近い周波数で検出された。
さらに、この信号は、強度が徐々に増し、ピークに達したのち、ふたたび弱まるという変化を示した。これは、遠方にある固定された電波源が、地球の自転によって、電波望遠鏡が受信しやすい範囲を通過するときに期待される変化である。信号が記録された時間は約72秒で、ビッグ・イヤーの観測方式において、空の一点がその受信範囲を通過するのにかかる時間とほぼ一致していた。こうした特徴は、この信号が単なる地上の電波混信ではなく、宇宙の天体から届いたものである可能性を示していた。
観測から数日後、データを確認していた天文学者ジェリー・イーマンは、印字された記録の中に「6EQUJ5」という目立つ列を見つけた。この文字列は、受信した電波の強さを段階的に表した記号である。イーマンは、その異常な強さに驚き、データの横に赤ペンで「Wow!(ワオ!)」と書き込んだ。これが、のちに「Wow! シグナル」と呼ばれるようになった由来である。
Wow! シグナルは、SETIの歴史において、最も有名な候補信号のひとつとなった。1420MHz帯付近で検出されたこと、人工信号を思わせる狭い帯域をもっていたこと、信号強度が強かったこと、そして、天体由来を思わせる時間変化を示したこと。地球外文明からの電波を探すうえで期待される特徴を、いくつも備えていたからである。
その一方で、ただちに宇宙からのメッセージと断定することもできなかった。信号は一度しか検出されず、その後、世界各地で何度も再観測が行われたものの、同じ信号は確認されていない。
未知の天体現象なのか、それとも地球外文明が発した人工的な信号なのか。半世紀を経た現在もなお、その正体をめぐる研究が続く未解決の謎である。
その後も世界各地で、さまざまな観測プロジェクトが実施されてきた。米国では、1984年に設立されたSETI研究所(SETI Institute)が、カリフォルニア州のハットクリーク電波天文台にある「アレン・テレスコープ・アレイ(ATA)」を用いた観測を現在も進めている。
さらに2015年には、SETIを大規模に進める計画として、「ブレイクスルー・リッスン」が始まった。10年間で1億ドルを投じ、世界各地の大型望遠鏡を用いて、近傍の恒星や銀河から届く人工的な信号を探す計画である。
こうした中、Wow! シグナルから50年目となる2027年に、あらためて、信号が届いた可能性のあるいて座の領域を観測しようという動きがある。
その旗振り役を務めるのが、兵庫県立大学の鳴沢真也氏である。鳴沢氏は天体物理学を専門とする天文学者として研究を続けるかたわら、2001年ごろから四半世紀にわたりSETIに取り組んできた。
きっかけのひとつとなったのは、阪神・淡路大震災後の復興期に進められていた大型望遠鏡計画だった。一般市民とともに取り組める研究テーマを探る中でSETIに着目し、1990年代後半から市民参加型の観測を進めた。また、2010年には、オズマ計画から50年を記念した世界合同SETI「ドロシー計画」でプロジェクト・リーダーを務め、世界5大陸15か国の研究機関・天文台を結ぶ大規模な国際観測を主導した。
鳴沢氏の研究は、電波SETIだけにとどまらない。異星文明からの信号は、電波だけとは限らない。レーザー光のような人工的な光信号を使って、遠方へメッセージを送る文明があるかもしれない。レーザーは、細く絞った強い光を遠くまで届けられるだけでなく、携帯電話などで使われるマイクロ波よりも数万倍から数十万倍高い周波数を利用するため、単位時間あたりにより多くの情報を送ることができる。このため、恒星間通信の手段として古くから検討されてきた。
そうした人工的な光信号を探す研究は、光学SETIと呼ばれる。その際に問題となるのが、どの波長の光に目を向けるべきかである。鳴沢氏は、異星文明が、どの波長を使う可能性が高いのかを考え、電波SETIにおける「マジック周波数」に対応する概念として、「マジック波長」を提案した。その論文は世界の研究者による関連研究でも引用され、光学SETIにおける観測波長を考えるうえでの、大きな手がかりとなっている。
そして、2026年4月8日、鳴沢氏が中心となり、「日本SETI研究会」が設立された。日本において、科学的手法に基づくSETIの観測・研究を進めるための任意団体であり、SETI研究を掲げる組織としては国内初という。
研究会の大きな目的のひとつは、Wow! シグナルの発見から50周年となる2027年8月に、信号が発信された可能性のあるいて座の方向を、世界規模で集中的に観測することである。現在、和歌山県紀美野町にある、みさと天文台の8m電波望遠鏡を活用する計画が進んでいる。また、国内外の観測施設との連携を広げ、電波観測だけでなく光学SETIも含めた観測網を築くことを目指している。[*1]
もちろん、この観測でふたたびWow! シグナルのような電波が受信できる可能性は低い。この方向に対しては、この半世紀の間、何度も再観測が試みられてきたが、同じ信号は見つかっていない。仮に、Wow! シグナルが地球外文明からのメッセージだったとしても、地球の暦で50周年にあたるタイミングで、都合よくふたたび送信してくれるとも考えにくい。
それでも、この取り組みには大きな意義がある。SETIは、一度の観測で劇的な成果を得る研究ではない。長い時間をかけて観測を続け、候補信号を丁寧に調べ、複数の施設で確かめ、失敗や空振りを積み重ねながら進めていく研究である。若い世代、アマチュア、一般市民が参加できる体制を整えることは、日本におけるSETIを継続的な科学活動として根づかせるうえで重要である。
これまでにWow! シグナルを超える有力な信号は確認されておらず、私たちは、まだ地球外知的生命体との遭遇は果たせていない。しかし、いつか出逢うための準備は、着実に進んでいる。
その大きな変化のひとつが、太陽系外惑星の発見である。1990年代以降、系外惑星の発見はSETIを大きく変えた。1995年には、太陽に似た恒星を回る惑星として、ペガスス座51番星bが発見された。現在では、確認された系外惑星は約6300個に達している。その中には、地球に近い大きさをもつ惑星や、恒星の周囲で液体の水が存在しうる領域にあると考えられる惑星も含まれている。
かつて、惑星をもつ恒星がどれほど一般的なのかは、よくわかっていなかった。しかし、現在では、惑星は宇宙にありふれた存在であることが明らかになっている。これは、SETIにとって大きな意味をもつ。生命が生まれうる環境が、地球だけの例外ではないかもしれないからである。
もうひとつの変化は、観測技術と情報処理技術の進歩である。光学SETIは、レーザー光のような短い光のパルスや、特定の波長に集中した人工的な光を探す試みである。高感度の検出器、高速な電子回路、精密な時刻計測、そして、大量のデータを処理する計算機の発達によって、電波だけでなく光でも地球外文明の痕跡を探す道が広がってきた。
フランク・ドレイクがオズマ計画を始めた時代に比べ、現代の望遠鏡は、はるかに高感度になり、同じ時間で得られるデータ量も桁違いに増えた。昔の観測が、粗い網で広い海をすくうようなものだったとすれば、現在の観測は、より細かな網で、より広い範囲を、より長く調べることができる。
信号解析も大きく進歩している。周波数をより細かく分けて調べることができ、電波の偏波、すなわち波の振動方向の情報も解析できる。これにより、候補信号が本当に天体由来なのか、それとも地上の電波混信なのかを、より慎重に見分けることができるようになっている。
近年話題になっているAI(人工知能)も、SETIに新たな可能性を開いている。現代の観測では、膨大な量のデータが得られる。そのすべてを人間の目で確かめることはできない。機械学習を用いれば、巨大なデータの中から、人間が見落としやすい不自然な信号の候補を見つけ出せる可能性がある。
さらに、現代のSETIは、単にメッセージを待ち受けるだけではない。研究者たちは、地球外文明の痕跡として、人工的な大気成分、惑星の夜側に見える都市光、巨大構造物による不自然な赤外線の余剰などにも目を向けている。こうした、高度な技術文明の存在を示しうる観測上の兆候や指標は、「テクノシグネチャー」と呼ばれる。これは、地球外知的生命を生命体そのものとして捉えるのではなく、技術文明が宇宙に残した観測可能な痕跡として探ろうとする考え方である。
観測施設そのものの技術革新も進んでいる。中国は2016年に、世界最大の単一鏡電波望遠鏡「天眼」、すなわちFASTを完成させ、2020年から正式運用を始めた。FASTは中性水素の観測やパルサー探査などで成果を上げているが、SETIも主要な科学目標のひとつに掲げられている。
また、南アフリカやオーストラリアで建設が進む「SKA」(スクエア・キロメートル・アレイ)も、将来のSETIに大きな影響を与えると期待されている。SKAは多数のアンテナを組み合わせた巨大な電波望遠鏡群で、その高い感度によって、これまでよりはるかに広い範囲の宇宙を探査できるようになる可能性がある。
さらに、日本SETI研究会が究極の目標として掲げているのが、月の裏側での観測である。地上には人工的な電波があふれ、宇宙から届く微弱な信号を覆い隠してしまうことがある。一方、月の裏側では、月そのものが盾となって地球由来の電波ノイズを大きく遮るため、きわめて静穏な観測環境が得られると期待されている。
鳴沢氏は、「いつの日か、月の裏側に電波望遠鏡を置き、宇宙からの声に耳を澄ませたい。それが、私にとって最後の夢であり、SETI人生の最終ゴールでもあります」と語る。
実現には多くの技術的課題があるが、近年ではロケット技術の進歩によって宇宙へ物資を運ぶコストが下がり、月面探査や月面基地建設に向けた動きも活発化している。そのため、月の裏側でのSETIも、少しずつ現実味を帯びつつある。
SETIとは、「宇宙に自分たち以外の知的存在はいるのか」という究極の問いへの挑戦である。それは古代ギリシャ以来、人間が問い続けてきた根源的な問題でもある。もし、発見があれば、それは一人の研究者、ひとつの国、ひとつの時代だけのものではなく、人類全体の発見となる。
そして、SETIは、人類と地球を見つめ直すきっかけにもなる。地球上の生命がどのように誕生したのか、私たちはまだ完全にはわかっていないが、多くの条件が重なって誕生したことは確かである。SETIは、宇宙のどこかにいるかもしれない他者を探す試みであると同時に、「人間とは何か」という私たち自身の存在の意味を問い直す試みでもある。
それはまた、私たちの文明が長く存続できるかどうかという問いにもつながっている。高度な技術を手にした文明は、核兵器、環境破壊、資源問題、人口問題といった、自らの存続を脅かしかねない課題にも向き合わなければならない。
鳴沢氏は、SETIによって地球外文明の存在を示す信号や痕跡が確認されれば、「戦争や環境破壊といった課題を乗り越えて文明が継続できることを示す、ひとつの証拠になるでしょう」と語る。それは、私たち人類もまた、自らの存続を脅かす危機を乗り越えられるかもしれないという希望にもつながる。
鳴沢氏はまた、「地球全体の平和と、人類が平和な未来を築くことへとつながるという想いが、私がSETIに取り組み続けるエネルギーの源となっています」と強く語った。
SETIは、単なる宇宙人探しではない。夢想家の道楽でも、沈黙する宇宙にむなしく問いを投げかけるだけの独り言でもない。私たち人類が、これからどのように生きるべきかを考え、その未来に希望を見出すための、時代と世代を超えた科学の営みである。地球上の砂粒よりも多い星々のどこかで、私たちとは異なる知性もまた、宇宙の謎に向き合っているかもしれない。その声を探すことは、この地球に生きる人類の行く末を探ることでもある。
鳥嶋 真也(とりしま しんや)
1987年生まれ。宇宙開発、宇宙科学、天文学の分野を中心に取材・執筆活動を行う。宇宙開発の歴史を調べることがライフワーク。著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌など複数の媒体で記事を執筆している。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。“軌道”つながりで鉄道も好き。