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Science Report
サイエンス リポート

データセンターと電力供給インフラをセットで確保し連携する、「ワット・ビット連携」

文/伊藤 元昭
2026.10.14
データセンターと電力供給インフラをセットで確保し連携する、「ワット・ビット連携」

AIの進化と応用・需要の拡大に伴って、ハイパースケーラーによるデータセンターを能力増強・増設する取り組みが活発化している。数十兆円を超える規模の巨額投資が次々と打ち出され、半導体など関連産業や株式などの市場は、データセンター投資の動向を中心に動く状況となった。

AIを生活やビジネスの中で活用したいというニーズは極めて高く、もはや、インターネットと同様のあって当然の社会インフラになりつつある。しかも、昨日より今日、今日より明日の方が、より使いやすく、賢いAIサービスが確実にリリースされてくるに違いないと誰もが信じている。ただし、こうした発展は、データセンターの能力増強・増設が思惑通りに進んではじめて実現する。

“電力供給“と“計算能力“を一体開発・連携運用する「ワット・ビット連携」

直近では、データセンターの計算能力強化が思い通りに進まないのではないかとみる声が、多方面から上がるようになってきた。「必要資金が巨額すぎて調達・回収不能なのでは」「必要な半導体を十分調達できないのでは」「データセンター建設地住民の反対の声が高まっている」という声、さらには、「AIが進化し過ぎて人間が制御しきれず規制すべき」という意見もある。そうした中で、計算能力強化を阻む要因として特に逼迫した懸念として語られているのが、「計算量の増大に対応する電力が調達できない」というものだ。

電力インフラとデータセンターを一体開発・連携運用する「ワット・ビット連携」
[図1]電力インフラとデータセンターを一体開発・連携運用する「ワット・ビット連携」
作成:伊藤元昭(Googleの生成AI「NotebookLM」を利用)

ハイパースケーラーなどデータセンターの新設を急ぐ企業にとって、潤沢な電力の安定調達は自社のクラウドサービスビジネスの成長を決定づける要因となった。データセンターで消費する量に見合った電力を、安定的に調達するためには発電設備と送電網の新設と増強が必須になるからだ。そして、これらの新設・増強には、データセンターそのものの設置よりも長い時間を要する。

また、電力インフラはあらゆる産業、生活、社会活動の基盤である。このため、突然生まれた巨大電力需要にどのように対処すべきかは、電力会社だけでなく、政府・自治体にとっても重要課題となっている。既に、データセンターを新設する場合、例え、既存の電力設備を使ったとしても、大量の電力供給を申請してから実際に供給体制が整うまでに数年待たなければならない。

こうした状況の変化に対応するため、“電力供給(ワット)“と“計算能力(ビット)“の双方をセットで一体化させて最適開発・連携運用する「ワット・ビット連携*1」と呼ぶ新たなコンセプトが急浮上し、実践に移されるようになった(図1)。そして、ワット・ビット連携は、「DX(デジタル)」と「GX(脱炭素)」を両立させる国家・産業レベルの統合戦略としても、重要性が高まってきている。

なぜ今、「ワット・ビット連携」が重要になっているのか

国際エネルギー機関(International Energy Agency:IEA)が発行したレポート「Energy and AI」の試算によると、世界のデータセンターでの電力消費量は2024年時点での約460TWhから、2030年には約945TWhへと急増する見通しである(図2)。わずか6年間で約2倍になる計算だ。945TWhは、現在の日本の年間電力消費量をやや上回る規模に相当する。

世界全体のデータセンター関連の電力需要シナリオ
[図2]世界全体のデータセンター関連の電力需要シナリオ
出典:IEA「Energy and AI」(2025年4月公表)を基に経済産業省が作成

電力供給者の視点から見て、他の電力需要に比べてデータセンター用への対応は特に頭の痛い問題になっている。需要の伸び率が年平均約15%と、その他よりも4倍以上も速いペースで進んでいるからだ。さらに、問題解決を困難にしているのが、需要急増する場所が集中すること。数百MW~1GW級のデータセンターが、特定地点に突然出現する。1GWというのは、大型原子力発電所1基に近い出力に相当する。

基本的に、電力系統での供給能力は、周辺地域の電力需要に合わせて用意されている。ところが、「3~4年後にここで500MW欲しい」とデータセンター事業者から要求されても、資金や資材の調達、住民理解などを含めて、発電所や変電所、送電線はそれほど短期間では整備できない(図3)。

電力インフラの整備は、情報通信インフラの整備よりもずっと難しい
[図3]電力インフラの整備は、情報通信インフラの整備よりもずっと難しい
作成:伊藤元昭(Googleの生成AI「NotebookLM」を利用)

発電所よりもデータセンターの方が設置場所選択の自由度が高い

データセンター側での電力消費の急増と電力インフラ側での供給増強の難しさの間にある困難を解消するために導入されるワット・ビット連携。その具体的施策には、様々な形態がある。そもそも、国や地域ごとに、データセンターの建設動向に違いがあるうえに、既存の電力インフラや供給者の事業形態自体が大きく異なるからだ。さらには、ワット・ビット連携の実現に向けて導入すべき新技術の開発状況次第で、最適形態が変わってくる。ここからは、まず、日本で進められているワット・ビット連携の形態と具体的取り組み例を、その後、ハイパースケーラーによる巨大データセンターの新設計画が目白押しで最も電力調達が逼迫している米国での動きを紹介する。

これまで、日本でのデータセンター新設では、東京・大阪など需要地に近い地域を設置地に選ぶ傾向があった。そして、増加する電力需要に対応するため、必要な電力量に応じた送電線や変電所などの電力インフラを増強していた。これに対し、現在日本で進められているワット・ビット連携では、まず、潤沢な電力供給が可能な場所にデータセンターを設置することを優先する。ただし、多くの場合、AI処理などの計算需要は都市部を中心に高まり、計算需要地とデータセンターが遠く離れることになる。このため、計算結果を光ファイバで都市部へと送ることを想定している。

こうした方針に沿った取り組みがソフトバンク、NTT、KDDIなどによって進められている。ソフトバンクは北海道苫小牧に大規模AIデータセンターを建設中である。北海道には、洋上風力、陸上風力、太陽光、水力など再エネ資源が豊富である。北海道で発電し、AI関連処理を実行し、計算結果だけ東京へ送信するという「電力地産地消型AI DC」を目指している。

日本政府は、こうしたデータセンター用地決定のアプローチを「エネルギー供給に合わせた需要の集積」と呼んでいる。短中期的には既存系統に余力がある場所にデータセンターを誘導し、中長期的には電力・通信インフラを新たに一体整備する方針を示している。特定地域へのデータセンター集積を2段階で推し進める戦略だ。

光ファイバでデータを遠方に伝送するのと、送電線で電力を同じ距離だけ送るのには実践難易度に大きな違いがある。発電所よりもデータセンターの方が設置場所を選ぶ際の自由度が高いからだ。まず、送電線の新設は、用地取得や環境アセスメント、変電所整備などを含めると長い時間がかかる。これに対し、光ファイバによる光通信は比較的短期間・低コストで増強できる。さらに、情報の伝送は伝送距離が遠くなっても運用上で伝送遅延の問題を軽減可能だ。これに対し、電力の送電は、送電線や電力変換設備での損失が大きくなってしまう。さらに、今後、光伝送の通信容量を拡大し、サーバー内外から長距離データ伝送用の基幹網まで光通信化する「オール光ネットワーク(All-Photonics Network:APN)」などの新たなネットワーク技術の適用が進めば、遠隔データ間で巨大なデータを低遅延で運べるようにもなる。

「ワット・ビット連携」は、施設の最適配置から動的最適制御へ

電力需給には変動要因が多く、需給バランスの振れ幅も大きい。データセンターでの計算処理量はユーザーの利用状況によって大きく変動する。一方、一般家庭や工場、社会インフラなどで消費する電力需要も変動幅が極めて大きい。さらに、火力や原子力などによる発電量は安定しているが、これから増えてくる太陽光、風力など再生可能エネルギー由来の発電量も天候や時刻によって変動する。

進化したワークロードシフトの処理手順
[図4]進化したワークロードシフトの処理手順
作成:伊藤元昭(Googleの生成AI「NotebookLM」を利用)

当初実践されるワット・ビット連携は、電力の消費量と供給量それぞれの平均値や上限値に注目してデータセンターと発電所を最適配置する方法である。最新の情報通信技術や電力制御技術を投入して、多様な要因で変動する電力需給状況に合わせて連携形態を最適化する動的なワット・ビット連携に向けた技術開発と導入の試みが進められている。計算量と電力需給の変動に、より細かく、より密に連携させ、さらには、変動を誘発する要因にも目配りして最適化の度合いを高める方向へと技術開発が進んでいる。

計算需要が変動した際、電力供給量を変動制御するのではなく、「計算負荷を動かす」というアプローチに沿った管理制御技術の開発と導入に向けた検討・実証実験が進められている。計算量を電力の需給や計算負荷の変動に応じて振り分けるという、こうした手法は「ワークロードシフト」と呼ばれている(図4)。前提として、データセンターの設置場所を日本国内に散在する発電適地の近隣に分散させておき、それぞれを大容量光ファイバでつないでおく。そして、電力需給が逼迫状態になった地域で大きな計算需要が生じた際に、電力供給に余裕のある地域のデータセンターに計算負荷を動かす。こうした方法は、大都市圏での総需要が急増した際の対応策として、東京電力が検討している。

一歩進んで、再生可能エネルギーの発電量や大都市圏の電力需要を大きく変動させる要因となる天候や時刻や電力の市場価格などの変化を織り込んで、消費地と需要地のバランスを最適化するワークロードシフトを導入する試みが、日立製作所、富士通、NTTグループなどによって、それぞれ進められている(図5)。この場合も、大都市での冷暖房用など動かしにくい消費先を動かすのではなく、動かしやすいデータセンターでの計算需要を動かす。さらに進んで、リアルタイムの行動や設備稼働状況をデジタルツインで横断的に可視化。これによって、地域全体の電力消費を最適化。加えて、再生可能エネルギーを含む全国の電力需給状況をリアルタイム可視化・分析することで、コンピューティングに必要となる計算処理の実行場所を電力需要に合わせて適地・適時にコントロールする手法も東京大学などによって開発されている。

NTTグループなどが構築して実証実験したワークロードシフト
[図5]NTTグループなどが構築して実証実験したワークロードシフト
出典:NTT、NTT西日本、QTnet

米国ではハイパースケーラーによる原発の新規導入・再稼働や宇宙データセンター構想も

米国のハイパースケーラーは、莫大な電力の安定調達に対する逼迫感が、日本企業の比ではないほど深刻だ。AI関連投資の巨額さを念頭に置けば、熾烈なAI技術の開発競争もしくは急激に拡大するAIサービスに見合った計算能力に増強できないと、会社の存亡に関わる可能性が高いからだ。このため、これまでの発想にはなかった大胆な施策やIT業界と電力業界の枠を超えてビジネスを再定義するような動きが出てきている(図6)。

米国ではデータセンターの電源確保に大胆な施策を取り始めた
[図6]米国ではデータセンターの電源確保に大胆な施策を取り始めた
急増する電力需要を賄う小型モジュール原子炉を導入した発電所を設置(左)、安定した太陽光発電が可能な宇宙にデータセンターを設置(右)
出典:Kairos Power(左)、SpaceX(右)

ワット・ビット連携の文脈で、これまで稼働停止していた原子力発電所をAI処理の専用電源に近い形で復活させる例が出てきている。MicrosoftとConstellation Energyは、2024年に、ペンシルベニア州の旧Three Mile Island原発1号機を再稼働するため、20年間のPPA(電力購入契約)を締結。出力約835MWの発電量を、自社データセンターの電力消費と脱炭素電源を対応させるために購入した。2028年の運転開始を計画している。Amazonも、原発の活用に積極的なハイパースケーラーである。原発に隣接する土地を取得し、原子炉2基分に相当する最大1920MWの電力をAI・クラウド事業向けに購入する契約を結ぶなど、複数の地域で原発の電力確保とデータセンターの新設・増強を一体化させた開発を進めている。

さらに、小型モジュール原子炉(SMR)のような、より安全な原子炉の開発・社会実装にハイパースケーラーが関与するようにもなってきた。GoogleはKairos Powerと共同で、1基当たりの発電量が最大50MWの小型モジュール原子炉(SMR)「Hermes 2」をテネシー州オーク・リッジに建設。2030年からGoogleのデータセンターにつながるテネシー川流域開発公社(TVA)の系統に供給する。同様の計画は、アイオワ州でも進めている。一方Amazonも、また、Virginia Dominion EnergyとNorth Anna原発付近で、ワシントン州では公営電力会社のコンソーシアムEnergy NorthwestとSMRを計画している。

SpaceXは、さらに、大胆な施策を構想している。同社は、「Orbital AI Compute(軌道上AIコンピューティング / 宇宙データセンター構想)」と呼ぶプロジェクトを発表した。AIアクセラレータを搭載した衛星群を低軌道(LEO)に大量配備し、宇宙空間そのものを分散型AIデータセンターとして活用するプロジェクトである。 同社は、大量の人工衛星を携帯電話基地局として連携運用することで地球上のどこでもつながる通信網「Starlink」を事業化している。Orbital AI Computeでは、計算機能に加え、発電機能、冷却機能を備えた人工衛星を数多く打ち上げ、軌道上で電力を自給自足しながら大規模なAI演算を行う。

同社が宇宙にAIデータセンターを置く目的は大きく3つある。まず、ワット・ビット連携の観点からの電力と送電の制約回避。太陽同期軌道(SSO)などでは大気減衰や夜間の影響を受けず、ほぼ常時強力な太陽光発電が可能である。地上の送電網の負荷や電力接続待ちのボトルネックを排除できる。次に、冷却インフラの代替。真空空間への放射冷却を活用することで、地上施設のような大量の冷却水や大型チラー(冷凍機)設備を不要にする。最後に、土地・規制(NIMBY)問題の解消。地上データセンター建設に伴う騒音・景観問題、水資源消費に対する住民反対や用地不足を回避する。

発電設備を確保する以外にも、日本と同様のワークロードシフトも行われている。米国固有の注目できる取り組みの中に、データセンターの消費電力を、「需要応答(デマンド・レスポンス:DR)の資源として収益化する例が出てきている。Googleは、米国複数の電力会社と、合計1GWのデータセンターのデマンド・レスポンス契約を結んだ。系統での電力需要が供給量を上回った時に、Googleがデータセンターの計算処理の一部を延期・移動。消費電力を低下させた分を電力網を安定化させるために利用し、電力会社から収益を得るというものだ。逆に、エネルギー供給者であるDuke Energyは、ハイパースケーラー専用料金制度を導入した。大口需要家であるハイパースケーラーが、新しい再生可能エネルギー、蓄電池、原子力、その他クリーン電源の追加コストを負担しながら、データセンター向けに新しい電源を確保できる仕組みである。電力会社が巨額投資して一般家庭へ転嫁するのではなく、大口需要家自身が新規電源のコストを負担するものだ。

米国ではデータセンターの電源確保に大胆な施策を取り始めた
[図7]より効果的で効率的なワット・ビット連携を実現するためには、情報通信と電力制御の領域への新技術の導入が必須
作成:伊藤元昭(Googleの生成AI「NotebookLM」を利用)

より効果的で効率的なワット・ビット連携を実現するためには、情報通信と電力制御の領域に新たな技術の開発・導入が必要になってくる(図7)。エネルギー管理システム(EMS)やデジタルツインのような「電力の状態を把握する技術」、AIを利用したワークロードシフト技術など「計算負荷を動かす技術」、光通信技術に代表される「離れたDCを高速につなぐ技術」、さらには低消費電力電源など「データセンター自体を省電力化する技術」が今後進化していくものと期待されている。

[ 脚注 ]

*1
政策・官公庁での呼称では「ワット・ビット連携」と呼ばれる場合が多い。エネルギー政策などの文脈の中で語られることが多いからだ。その一方で、クラウドベンダーやSIerなどIT業界では「ビット・ワット連携」と呼ばれる例が多い。
Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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