No.021 特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

No.021

特集:デジタルテクノロジーが拓くエンターテインメント新時代

Expert Interviewエキスパートインタビュー

── MUTEKに参加するアーティストは、どんな基準で選ぶのでしょうか。

我々が探しているのは、限界に挑戦し、ツールをクリエイティブな方法で使う、強いアイデンティティーを持ったアーティストです。ツールをあらかじめ決められたような方法でしか使えない、既成の文化をなぞるアーティストは要りません。ツールを問い直し、ツールの限界をさらに先へ押し続け、新しい音、スタイル、組み合わせやつながりを見出すアーティストです。例えば、当初から参加しているロバート・ヘンケというベルリンのアーティストがいます。Monolakeという名前で活動をしています。彼のルーツは音楽ですが、ある時点で自らツールを開発しようと決心しました。自分のアートを実現するためのツールが存在しなかったからです。

彼が生み出したツールは、今はエーブルトンという会社になり、ライブ・エーブルトンというソフトウェアは、20年後の現在、多くの人々が使うツールになっています。最初のツールはラップトップで作曲できるようにするものでしたが、それではラップトップに閉じ込められると感じたヘンケは、次に独自のコントローラーも開発しました。その後、さらに別のクリエーション方法に関心を移し、レーザーを作曲のための信号として利用するといったこともやっています。彼は、新しいフォームや方法を常に編み出すアーティストの好例でしょう。

MUTEK Montréal 2019でのMonolakeのライブの様子
画像提供:MUTEK Montréal
2018年のライブの様子
2018年のライブの様子
2018年のライブの様子

── ツールの限界に挑戦しているとわかるためには、ツールが通常ではどんな風に使われているのかを知っていなければなりません。MUTEKの観客には、一定レベルの知識があることを求めますか。

そんなことはありません。MUTEKは、可能な限り民主的なフェスティバルでありたいと努めています。これは、一部のコアなコンピューターオタクだけが理解できるというフェスティバルではなく、表現された結果を見せる場であり、アーティストが観客とどんなつながりを持てるのかに関心を持っています。

先ほども申し上げたように、5日間に渡って観客は異なったプログラムを目にし、多様な感情を経て、最後に大きな可能性のパノラマを手にする。そこからインスピレーションを得て、自分も何かをしようと感じて欲しい。観客に全てを理解してもらいたいとは期待していません。ただこの場を身をもって体験して欲しいのです。今でも、よくわからないのでいっそのこと行かない方がいいと、MUTEKを怖がっているような人々がいます。いったん来れば、ここは安心して自分をちょっと複雑なことに晒せる場だということがわかってもらえるはずです。

── 今、デジタル・クリエーションのテクノロジーの先端では、どんなことが起こっているのでしょうか。

色々な領域がありますから、それに一言で答えるのは難しい。一つ、我々自身もどう捉えるべきかと思いを巡らせているのは、AI(人工知能)がアートフォームの発展に与える悪影響は何か、という点です。特にモントリオールでは、過去2年間にAIは大きな流行語になりましたから、何にでもAIが出てくる。ですから、皆が音楽やAV(オーディオ・ビジュアル)な作品への影響を考えています。また、VR(仮想現実)、 AR(拡張現実)、MR(複合現実)テクノロジーの可能性は何かも、探求すべき分野です。同様に5Gも、どこへ行くのかはまだ見えませんが、新たなクリエイティビティーの方法を生み出す新パラダイムです。ポケットのように、そうした場所が方々に開かれている状態です。

アラン・モンゴー氏

── MUTEKのアーティストは、そうした先端テクノロジーを使いこなす人々ですか。

そうとも限りません。古いテクノロジーを取り出して、素晴らしい作品を作るアーティストもいます。我々はその両方に興味がある。前述したロバート・ヘンケは最近、80年代のコモドール・コンピュータ*15台を使ってチップをプログラムしたりしています。また、音楽業界ではアナログ・シンセサイザーの復活も見られます。観客がいい体験をすることと同時に、新しい方法や新しい言語が発見されること、それが我々が求めているものです。注目するのは「いい作品」であって、新しいテクノロジーに対して独断的になりたくはありません。

[ 脚注 ]

*1
コモドール・コンピュータ:コモドール(Commodore Business Machines、あるいはCommodore International Limited)はアメリカに存在したコンピュータ会社で、1977年に発表した「PET2001」や1982年に発売した「コモドール64」、1985年の「コモドール128」など、ホーム/パーソナルコンピューターを広く世の中に普及させた立役者でもある。1994年に会社は倒産しているが、その後権利を買収したいくつかの企業によって、コモドールのブランドは継続されている。
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