No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

連載01

ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流

Series Report

発電所にもダウンサイジングの波が押し寄せる

モノの本質を変えてしまうダウンサイジングの潮流が、社会システムを構成するプラントや設備、産業機器でも見られるようになった。こうした潮流によって、私たちの近未来の暮らしや社会は、大きな変貌を遂げる可能性がある。ここからは、「発電所のダウンサイジング」の動きに注目して、その動向と暮らしや社会に与える影響について考えたい。

電力は、あらゆる機器の動力源として、現代社会に欠かせないエネルギーになった。ただし、莫大な電力を生み出すためには、かなり大掛かりな施設が必要である。火力、水力、原子力と、電力を生み出すエネルギー源は様々。だが、一般に、電力を効率よく生み出すためには、大掛かりな装置にした方が変換効率は高い。さらに、エネルギー源となる化石燃料や水流、核燃料を扱い、管理する施設や、出来上がった電力を効率よく送電・利用するための電力変換など、周辺の付帯施設も必要になる。このため、大電力を1か所で生み出した方が経済的である。

ただし、大電力を1か所で集中的に発電するのではなく、消費地に近い場所で分散発電して地産地消した方が都合がよい面もある。輸送が困難だったり、不経済なエネルギー源を利用したりする場合が、それに当たる。例えば、太陽光発電は、エネルギー源である太陽光を広い土地で受けて電力を生み出す必要があるため、本来、分散発電に向いた発電手段だと言える。また、バイオマス(産業廃棄物や未利用の林産・農産資源、さとうきびやとうもろこしなど資源作物などを燃料として利用)も、燃焼によって化石燃料ほどの大きな熱量が得られるわけではないので、発生・生産される場所で輸送することなく発電に利用した方が効率的だ。

また、集中的に発電した大電力を遠方の消費地まで送る過程で、多くの電力を損失してしまうこともある。送電線での自然放電のほか、電力の電圧変換や周波数変換などをする際にも多くの電力を失ってしまうからだ。こうした損失をなくすためには、電力を地産地消できるに越したことはない。また、燃料の燃焼によって発電する際には、最終的に捨てるしかない排熱が発生する場合がある。こうした排熱も、エネルギーの消費地で得られれば暖房や給湯などに利用できる。

太陽光とエネファームで気付いたダウンサイジングの意義

発電所の多くは、巨大で高額な機械である。とても街角に設置できるものではなく、ましてや一般家庭に置くことなどできない。ただし、既に一般家庭レベルでダウンサイジングした発電所を保有し、地産地消を実現している例がよく知られている。一つは、太陽光発電システム。もう一つはエネファームである。これらによって、多くの人が、発電所をダウンサイジングして活用する意義に気付き始めている。

政府による導入補助金や、2009年から実施された発電した電力の余剰分を固定価格で買い取る制度(固定価格買取制度:FIT)の実施などによって、太陽光発電システムが普及した。太陽光発電協会の調べによると、日本での2017年時点での戸建住宅での普及率は、8.3%だという(図2)。意外と普及しているという印象がある。そして、太陽光発電システムの普及によって、電力の地産地消という考え方が広く認知されるようになった。

[図2]ダウンサイジングした発電所の先駆け太陽光発電
日本での住宅用(10kW未満)の太陽光発電の導入件数推移(左)、アメリカのPowerhiveによるアフリカの無電化地域での「ミニグリッド事業」(右)
出典:太陽光発電協会(左)、豊田通商(右)
日本での住宅用(10kW未満)の太陽光発電の導入件数推移 アメリカのPowerhiveによるアフリカの無電化地域での「ミニグリッド事業」

日本では、電気代節約のための手段という太陽光発電だが、世界に目を転じると、その利用には別のメリットがある。例えば、アフリカなどの電力網が整備されていない地域を電化する際の電力供給源として、太陽光発電システムは有力である。アメリカのベンチャー企業であるPowerhiveは、アフリカの無電化地域において、太陽光発電による「ミニグリッド事業」を展開している。ミニグリッドとは、太陽光発電システムと蓄電池を組み合わせて、太陽光で発電した電力を安定して利用できるようにしたものである。

一方、家庭用燃料電池は、都市ガスやLPガスから取り出した水素と空気中の酸素を化学反応させて発電する仕組みである(図3)。化学反応の過程で同時に熱が発生し、これを給湯や暖房用として利用することもできる。エネルギー源である都市ガスなどはガス管を通じて供給されるが、送る過程で失われる量は、電力に比べると比較にならないほど少ない。2009年に世界で初めて日本で実用化された。

エネファームは、太陽光発電システムよりも安定した量の電力を発電できるメリットがある。しかも、マンションのような限られた設置場所しかないところでも利用できる。エネファームの普及を推進する団体、エネファームパートナーズは、2019年11月に日本でのエネファームの累積普及台数が30万台を超えたと発表している。ただし、排熱利用の価値が高い寒冷地での普及に期待が集まっているが、太陽光発電に比べれば、一般家庭での普及はまだまだ進んでいない。エネルギーの利用効率は高いが、タダで降り注ぐ太陽光を使うのと違って、ユーザーが燃料を購入する必要があるため、通常通り電力を買って利用するのに比べると、そのメリットが分かりにくい点が伸び悩みの原因とされている。

[図3]エネファームの発電原理
出典:一般社団法人 日本ガス協会
エネファームの発電原理
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