No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
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デザインも一人、それがBsizeの強み

一人家電メーカーという形態について、八木氏は「もし10年前だったら、不可能ではないにしろ、厳しいだろう」と見る。インフラが整ったことで、現在は「個人とメーカーの境界がない。誰でもメーカーになれる」という。売れるかどうかは別にしても、少なくとも「作る」ことに関しては、ハードルが下がってきたと言える。

しかし、製品をいざ「売ろう」ということになると、機能と同等、いや場合によってはそれ以上に重要となるのがデザインである。機能が優れていても、デザインが悪ければ買う気にならない。逆にデザインだけ良くても、機能が大したことなければ、やはり買う気にはならない。機能とデザインは、商品の両輪なのだ。

Bsizeのミッションは「デザインとテクノロジーで社会貢献すること」である。社名の"Bsize"というのは、美(B)、真(si)、善(ze)という漢字3文字が由来。これは哲学でいう"真善美"、つまり人間の理想を表す言葉のことであり、同社はこれをテクノロジー(真)、社会貢献(善)、デザイン(美)と現代風に解釈した。

そういった思いから、八木氏は大手メーカーのエンジニア時代から、デザインを独学。自分でやらなくても、外部のデザイナーに依頼するという方法も考えられるが、そうしなかったのは「企画とデザインと技術は同一」というこだわりがあるからだ。「この3つを別々に考えると、伝言ゲームみたいになり、意図と違うものが仕上がってしまう。同じ頭で考えるのが大事」だという。

「意志決定の速さが"一人家電"の強み。いつも頭の中で"一人会議"だから」と笑う八木氏だが、大手メーカーを否定するつもりは全くない。「大手メーカーには、一定の品質の商品を大量に供給するという役割がある。一方で社会には、新しい価値を与えるような、突拍子もない製品も必要。それこそベンチャーがやるべき仕事で、逆にそうならないとコスト競争に巻き込まれて淘汰されてしまう」と見る。

ただ、これまで"一人家電"という切り口で紹介されることが多かったBsizeだが、"一人"であることには全くこだわっていない。現に、今は社員が一人増え、実はすでに"二人家電"。彼には電子回路を担当してもらっており、人数はさらにもう少し増やしていきたいという。

小田原城のすぐそばにあるBsizeのオフィスの写真
[写真] 小田原城のすぐそばにあるBsizeのオフィス

「ニッチを狙っているつもりは全くなくて、むしろ未来のスタンダードを作りたいと思っている。組織はコンパクトなままで、事業はどんどん広げていきたい」と熱く語る八木氏。日本のモノづくりの新時代は、ベンチャーから始まるかもしれない。

Bsize
http://www.bsize.com/

[ 脚注 ]

*1
フルフィルメントサービス:商品の保管、梱包、配送などを代行してくれるサービス
*2
クラウドファンディング:インターネット経由で不特定多数の個人から資金調達を行う仕組み。Kickstarterなどが有名

Writer

大塚 実(おおつか みのる)

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は『人工衛星の"なぜ"を科学する』(アーク出版)、『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』(講談社ブルーバックス)、『宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1』『宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2』『技術を育む 人を育てる 日本の宇宙産業Vol.3』(日経BPコンサルティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min

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