No.005 ”デジタル化するものづくりの最前線”
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テクノロジー

ニッポンの職人技術をデジタル化する

  • 2013.11.29
  • 文/大草 朋宏

ものづくりの無形な技術をデジタル化する試みは、これまでも各方面で進められてきた。映像や音声というメディアで保存し、次世代に伝えていくことはすでに多くの局面で可能だ。しかしそれでは、技術を技術自体として継承し、将来的にものづくりや産業につなげていくには限界がある。 そこでいま、技術そのものが持つ力覚や触覚を、デジタルやITの力を利用して継承していく手段が研究されている。ものづくりの繊細な技を伝えていくには、どのような取り組みが考えられるだろうか。

工場に残る熟練技能のIT化

かつてものづくりは、熟練者による個人の技で行われてきた。そして次第に効率を求めて工場でのものづくりへと移行していく。すると先進国ではものがあふれる状況になり、それ自体としての機能を満たすだけでは満足できなくなり、個々人の嗜好を追い求めるようになる。工場はその多様化に対処しなくてはならず、さらなる効率化をすすめて自動化した。

こうして工場内では熟練の技が失われてきた。さらに、伝統技能を有する者への需要が減り、伝統技能も同様に失われつつある。

こうした熟練の技能は体系化されていない。失われつつある技を、どのように伝承し、どのように個人が習得していくかが、これからの日本のものづくりの課題のひとつといえるだろう。これまで国際競争力を維持してきた技能を失わないことが、次の日本のものづくりへとつながるかもしれないのだ。

このような課題に取り組むべく「ものづくり・IT融合化推進技術(デジタル・マイスタープロジェクト)」という事業が、平成13年から4年間かけて実施された。特に日本におけるものづくりの源泉である中小製造業に対して、熟練技能者個人が持つ技能を、ITを活用することで客観化を図り、再現性のあるデジタル技術に置き換えることを目的とし、少子高齢化などで失われつつある技能の喪失を防ぎ、有効活用していこうというプロジェクトだ。文章などによって表すことが難しい現場の暗黙知を、他人に伝えることができる形式知に変換するナレッジマネジメントという手法が考えられた。

「加工全般にわたる技能のデジタル技術化」や「設計・製造支援アプリケーションのためのプラットフォーム」の研究開発を行い、両テーマが相互連携して運用される一体的な取り組みを実施。これにより、技能の多くをデジタル化することに成功した企業などは、経験の浅い作業者でも、熟練技能者に近いレベルの作業が可能になった。そうして余裕の生まれた熟練技能者は、新たなイノベーションに労力を向けることが可能になり、全体が拡張されるという好循環が生まれることが期待されている。

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