No.008 特集:次世代マテリアル
連載02 人々と社会の未来を支える半導体の応用事例集
Series Report

IoTを活用して産業と企業の競争力を高める

最初に、ものづくりの革新につながるIoT関連システムを紹介する。ドイツ連邦政府は、「Industrie 4.0」と呼ぶ、ものづくりの革新プロジェクトを産官学が連携して進めている。ICTをフル活用して、消費者個々のニーズに応える1点モノの製品を、誰でも購入できるコストで作る仕組みの構築が狙いである。生産設備などにセンサーを取り付ける。そして、顧客のニーズ、設計データ、生産設備の稼働状況、部品の在庫状況など、開発から生産・納品まで、サプライチェーンの隅々にわたる情報を収集。それをビッグデータとして結合し、工場や生産装置が自律的に判断して"あなただけの製品"を生産するのだ。

次は、損害保険の革新に向けたIoT関連サービスである。米国の自動車保険会社であるプログレッシブは、契約者個々の運転状況に応じて保険料が変動する自動車保険「MyRate」のサービスを開始した。被保険者の車両にセンサーと専用無線通信機器を搭載して、走行距離、運転の時間帯、急ブレーキや急発進といった被保険者の運転傾向を測る。そして、交通事故の可能性を割り出し、保険料金を設定する仕組みだ。

IoTでサステナブルな社会を実現

そして、医療・ヘルスケアの分野のIoT関連サービス。体にセンサーを付けて体温や心拍数、血圧、尿酸値など、病状の診断に向けた生体情報を常時モニタリングできれば、病気が発症・深刻化する前に対処できる。まだ体温と心拍数に限られるが、こうした用途に利用できる機器や器具がすでに登場している。例えば、アップルの「Apple Watch」などウエアラブル機器に、生体情報を取得するセンサーが組み込まれるようになった(図3)。また、STマイクロエレクトロニクスは、眼球の歪みを検知するセンサーと、測定データを無線送信する信号処理回路を内蔵する緑内障診断用コンタクトレンズを開発した。

アップルの「Apple Watch」(左)、STマイクロエレクトロニクスの緑内障診断用コンタクトレンズの図
[図3] 生体情報を常時モニタリングして病気の発症・深刻化を防止
アップルの「Apple Watch」(左)、STマイクロエレクトロニクスの緑内障診断用コンタクトレンズ

最後は、社会インフラの保全に向けたIoT関連システムの例である。総務省は、2025年までに、橋の利用状況や老朽化の状況を把握するためのセンサーネットワークを、全ての橋に導入することを決めた。壊れてからではなく、大規模修繕が必要になる前に補修して、更新時期の平準化とコスト縮減を図る。現在日本の橋は、1km当たり毎年45億8000万円の保守点検料を費やしている。それを8億5000万円まで抑えることができるという。既に東京ゲートブリッジに各種センサーを配置して、ひずみ、伸び縮み、ジョイントの部分の動き、走行した車両の重量などをモニタリングしている。

毎年1兆個のセンサーを世界にばらまく

IoTに関連したサービス、システム、機器を考える出発点は、これまで知り得なかったデータを収集することだ。このため、IoTの発展の鍵は、センサー技術の高度化と大量に利用するための低コスト化につながる。

米国では、毎年1兆個のセンサーを活用する社会"Trillion Sensors Universe(1兆個のセンサーを使う社会)"を、2023年までに作り上げるプロジェクトが立ち上がっている。一連の活動を進めるために立ち上げられたベンチャー企業、Tセンサーズサミット(TSensors Summit)を中心に、高度で安価なセンサーを作るための技術開発と応用開拓のロードマップ、および技術標準の作成が進められている。

現在開拓が進むセンサー応用は、既存のセンサーの活用を前提としたものが多い。だが、今後IoT関連機器の利用を拡大させるためには、新しい用途に合わせて開発したセンサーの登場が求められる。今後のセンサーは、以下のような5つの方向に進化していくようだ(図3)。

センサーを高度化するための5つの進化軸の図
[図4] センサーを高度化するための5つの進化軸

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