No.008 特集:次世代マテリアル
連載02 人々と社会の未来を支える半導体の応用事例集
Series Report

マイクロプロセッサーからFPGAへ

最先端のデータセンターでは、データを処理するための頭脳となるデバイスが、大きく変わってきている。コンピュータの頭脳と言えば、マイクロプロセッサーを思い浮かべる人が多いのではないか。ところが、最新のデータセンターでは、マイクロプロセッサーに代えて、これまで専用演算回路の試作用デバイスとして使われていたFPGA(Field-Programmable Gate Array)を使う動きが広がっている。例えば、「マイクロソフト」はWeb検索エンジン「Bing」などの高速化に向けて、中国検索エンジンの最大手「バイドゥー」は画像の分類など検索エンジンの高速化に向けて、それぞれFPGAベースのデータセンター向けサーバーを開発し、商用導入する予定である(図5)。また、日本でもニコニコ動画のドワンゴが、配信システムの高速化に向けてFPGAの活用に乗り出している。

FPGAでは、複雑な処理を一気に実行できる専用演算回路を作り込むことができる。特に、複雑な数値演算アルゴリズムを実行する時に大きな効果を発揮する。また、並列化による高速化も必要に応じて可能だ。マイクロプロセッサーとFPGAで電力当たりの性能を比較した場合、検索処理では約10倍、複雑な金融モデルの解析では実に約25倍もFPGAの方が高いという。これは、マイクロプロセッサーがソフトを変えるだけでいろいろな働きを変えられる「汎用」に対して、FPGAは「専用」の回路にできるからだ。

マイクロソフトがデータセンターの頭脳を刷新の図
[図6] マイクロソフトがデータセンターの頭脳を刷新
出典:Doug Burger"Transitioning from the Era of Multicore to the Era of Specialization"SICS SOFTWARE WEEK 2014

さらにその先の技術も既に登場している。IBMは、非ノイマン型という従来のコンピュータとは全く別の仕組みで動く半導体チップ「SyNAPSEチップ」を開発した。脳の動きを模した、いわゆるニューロチップである。同社はビッグデータ時代を支える中核デバイスと位置付けている。54億個のトランジスタからなるチップは、わずか70mWしか電力を消費しない。

ストレージは半導体の時代へ

データセンターでのもう一つの大きな技術変革が、ストレージで起こっている。消費電力と発熱を抑える目的で、ハードディスク装置を、NAND 型フラッシュメモリーを記憶媒体とするSSD(Solid State Drive)やフラッシュアレイに置き換える動きが出てきている。データセンターの運用コストのうち、実に1/3が電気料金である。情報量の急増とともに、電力コストの増大が深刻な問題になっている。

SSDは、初期費用はかさむものの、高速で消費電力が少なく、ランニングコストの大幅な削減をもたらす。ただし、フラッシュメモリーとメインメモリーであるDRAMとの間には、アクセス速度の差が数桁ある。このギャップを埋めるストレージデバイスとして、今後はランダムアクセス可能な新型不揮発性メモリーの開発に期待がかっている。

Writer

伊藤 元昭

株式会社エンライト 代表。
富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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