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本間教授に聞く!
史上初、ブラックホール撮像成功までの道程前編

「ブラックホール・シャドウ」撮像成功の舞台裏

本間 希樹
国立天文台 水沢VLBI観測所所長
国立天文台 教授、総合研究大学院大学 教授、
東京大学大学院 教授
永田 美絵
コスモプラネタリウム渋谷
チーフ解説員
2020.01.20
本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

Digest Movie
ダイジェスト・ムービー

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その正体はおろか、存在するかどうかさえ謎に包まれていた天体「ブラックホール」。しかし人類はついにその姿を捉えることに成功。しかも、その偉業には日本人研究者が大きな貢献を果たした。2019年4月10日、日本を含む国際研究チームは、ブラックホールの“影”こと、「ブラックホール・シャドウ」を撮像することに成功したと発表。ブラックホールの存在を、初めて画像で直接的に証明したのである。
この世紀の大成果を成し遂げた、イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)の日本チームのリーダーである国立天文台教授・水沢VLBI観測所所長の本間希樹さんと、コスモプラネタリウム渋谷のチーフ解説員を務める永田美絵さんの対談を通じて、はたしてブラックホールとはどんな天体なのか? 撮像できたブラックホールとはどのようなものなのか? そして、この研究の先になにが待ち受けているのか? といったことについて、まさにブラックホールに吸い込まれるように迫ってみたい。

(構成・文/鳥嶋真也 写真/川合穂波〈アマナ〉)

天文の道を志したきっかけ

本間希樹教授

── 本間さんは天文学者、永田さんはプラネタリウム解説員と、それぞれ天文のお仕事に携わっておられますが、どうしてこの道を目指そうと思われたのですか?

本間 ── 子供のころから夜空を見上げたり、流星群を観測したり、星が好きでした。横浜育ちなので、あまりたくさんの星は見えなかったのですが、「夜空の向こうにどんな世界が広がっているのだろうか?」という、そんな宇宙のロマンに想いを馳せていました。

永田 ── なにかきっかけになった天文現象はありましたか?

本間 ── はっきりとは覚えていないのですが、なにか大きな流星群が来ると話題になったとき、深夜に出かけて、外で寝転がって空を見ていた記憶がありますね。あとは彗星。中学生のころにやってきた「ハレー彗星」はあまりよく見えませんでしたが、そのあとにやってきた「ヘール・ボップ彗星」(図1)や「百武彗星」はきれいに見えました。そのころはすでに大学院生で、宇宙を目指して勉強をしていたころだったので、とても感動しました。

[図1]1997年3月、東京大学大学院理学系研究科附属 天文学教育研究センター木曽観測所で捉えたヘールポップ彗星の画像
©NAOJ(国立天文台)
ヘールポップ彗星

── ちなみに、永田さんはなぜプラネタリウム解説員になったんですか?

永田 ── 私も小さいころから夜空や星を見るのが好きでした。大きなきっかけとなったのは、皆既月食を見たことでした。地球や月、太陽といった天体がそれぞれ動いているんだということが、知識だけではなく実際に見てわかったことに感動しました。それから、学生時代にアメリカの惑星探査機「ボイジャー」が、太陽系のいろいろな惑星を探査したことにも感動しました。私はとくに土星が好きだったので、ボイジャーが撮影した画像を見たときはうれしかったです。そこから、「将来は星に関する仕事がしたい」と強く思うようになりました。

本間希樹教授と永田美絵氏

本間 ── でも、天文の仕事ってなかなか狭き門ですよね……。

永田 ── 最初は近所にあったプラネタリウムに通って、どうやったらプラネタリウムの解説員になれるのか聞きました。それから、学校の先生に「天文の仕事がしたい」と相談したら、プラネタリウムの方にかけあってくださって、そこから進路に関する情報をいただくことができました。

その後、大学のときにプラネタリウムで解説員のアルバイトをする機会があり、さらに卒業後、当時渋谷にあった「五島プラネタリウム」で、解説員の募集が偶然あり、運良く就職することができました。いろんな人の縁、巡り合わせがあっての結果でした。

本間 ── プラネタリウムの解説員はなかなか募集がないんですよね。運もあったのでしょうが、なによりも最初に、永田さんの一途な想いがあったからだと思います。

国立天文台・水沢VLBI観測所
国立天文台・水沢VLBI観測所

インタビューの行われた国立天文台 水沢VLBI観測所

「ブラックホール」とはどんな天体?

本間希樹教授

── 今年4月、国際チームが史上初めて「ブラックホール・シャドウ」の撮影に成功したと発表し、本間さんはその日本チームのリーダーとしてご活躍されました。

永田 ── ブラックホールとはそもそもどんな天体なのですか?

本間 ── ブラックホールはとても変わった天体なんです。まず、とても小さい。太陽よりもずっと小さく潰れた天体なので、重力が非常に強い。そのため光もガスも吸い込んで、入ったら最後、何も脱出することができません。そんな「一方通行の穴」という不思議な天体で、そんな天体が宇宙に存在するのが奇跡的ですね。

永田 ── 昔は、そんな天体があるかどうかもわからなかったんですよね。どうやって見つかったのですか?

本間 ── 1960年代に、X線という特殊な電磁波を使って、「はくちょう座X-1」という天体を観測しました。すると、X線が短い時間で激しく変動していることがわかりました。これは、ものすごく小さな天体に、ガスが勢いよく吸い込まれて、そのガスからX線が出ていることを示していました。そこから、「もしかしたらブラックホールにガスが落ちていくところを捉えたのではないか?」と推測されたのです。

永田 ── X線を出しているのはブラックホール自身ではなく、そのまわりのガスなんですね?

本間 ── そうです。ブラックホールはただ吸い込むだけなので何も出しません。ブラックホールのまわりには、ガスがまとわりついて「降着円盤」というものができます。そのガスがブラックホールに吸い込まれていくときに、ものすごく熱くなって、光やX線を出すんです。それが見えるわけですね。

見えないものを見ようとして得た、史上初の「ブラックホール・シャドウ」撮像成功

本間希樹教授

── ブラックホールがあるらしいということはわかっても、直接的には存在が証明できなかったわけですが、それに終止符を打ったのが、本間さん達が成し遂げた「ブラックホール・シャドウ」の撮像でした。これは、地球から5500万光年の距離にある、おとめ座銀河団の楕円銀河M87の中心に位置する、太陽の65億倍にも及ぶ質量の巨大ブラックホールを捉えたものでした。

永田 ── ブラックホールという見えないものを、どうして見てみようと思ったのですか?

本間 ── 見えないからこそ見たかったんです。はくちょう座X-1の観測などで、ブラックホールがあるらしいということはほぼ確実でしたが、でも見た人はいない。それなら見てみたい、という想いでした。そんな想いを、私を含めた200人以上の研究者が抱き、5~10年の間研究し続けました。長かったですが、絶対に研究を止めてなるものか、という想いでした。

── ここに実際に本間さん達が撮影されたブラックホール・シャドウの画像があります(図2)。これはどんな風にブラックホールが写っているのですか?

[図2]イベント・ホライズン・テレスコープで撮影された、銀河M87中心の巨大ブラックホール・シャドウ
©EHT Collaboration
イベント・ホライズン・テレスコープで撮影された、銀河M87中心の巨大ブラックホール・シャドウ

本間 ── まず、ブラックホールは球体だということを念頭に置いてください。そして、ブラックホールの強い重力で曲げられた光が、その全体にまとわりついています。それを断面で切ったように見ると、このように平面に、ドーナツのような姿で写ります。たとえば大福を2つに切って断面を見ると、真ん中に餡子が、皮が輪っかのように見えるのと同じです。

永田 ── よく「ブラックホールを撮像した」と言われますが、正確にはブラックホールそのものではないんですよね?

本間 ── そうです。ブラックホールは光も吸い込むので、決して見ることができません。この画像の真ん中の黒い部分は、ブラックホールそのものではなく、光を吸い込んでできた影です。これを「ブラックホール・シャドウ」といいます。ブラックホールそのものは見えておらず、この影のさらに中にあるはずです。

本間希樹教授と永田美絵氏

永田 ── この世紀の大成果はどうやって成し遂げられたのですか?

本間 ── ブラックホールはとても小さな天体で、地球からは針の穴ほどにしか見えません。そのため、高い視力をもった望遠鏡が必要でした。そこで「VLBI(超長基線電波干渉法)」という、複数の電波望遠鏡を並べて、あたかもそれらがひとつの巨大な電波望遠鏡になるような技術を使いました。

今回、ブラックホール・シャドウを撮像した「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)*1」では、世界6カ所にある合計8台の望遠鏡を組み合わせ、直径約1万km、地球と同じ大きさの電波望遠鏡を実現しました(図3)。これにより、人間の視力にすると300万という、ちょっと想像もできないような視力を達成しました。

また、ミリ波と呼ばれる、これまで観測に使っていたセンチ波という周波数の電波に比べて、銀河の星間プラズマやブラックホール周辺のガスに対して透過力が高いというメリットをもった周波数で観測できる望遠鏡を使ったという点も大きいです。ミリ波を使った望遠鏡の開発や観測は難しかったのですが、ここ最近の技術の進歩や国際協力で可能になりました。

[図3]2017年4月に行われたイベント・ホライズン・テレスコープの観測に参加した望遠鏡の配置
©NRAO/AUI/NSF
2017年4月に行われたイベント・ホライズン・テレスコープの観測に参加した望遠鏡の配置

永田 ── いろんな国の研究者が関わりましたが、日本はどのような貢献を果たしたのですか?

本間 ── EHTには世界中で200人以上、日本の研究所からは14人が関わりました。私はその日本チームの取りまとめを担当しました。日本チームは、たとえば南米チリにある「ALMA*2」を、EHTのVLBIで使えるようにするための技術開発をしたり、ブラックホールを画像化するためのデータ解析などをしたり、そのきっかけとなる論文を書いたりしました。とくにデータ解析をする手法を独自に作り、それを使ってEHTが捉えたデータを解析し、画像を出したことが大きかったですね。

永田 ── データ解析や、その手法の開発などは、他の国の研究チームもそれぞれやったのですか?

本間 ── チームを複数に分けて、3つの解析手法を使って解析しました。日本は3つのうちの一つの解析手法を開発し、それを使って解析したのです。まず最初は、お互いのやり方を秘密にして、それぞれ分かれて解析するんです。なぜかというと、研究に間違いがあってはならないので、1つのデータをそれぞれ独立して解析して、あとで照らし合わせて、本当に正しいかどうかを検証できるようにしたのです。

永田 ── 各国が解析して出した画像の中で、日本チームのものはとくに綺麗な画像でしたよね。

本間 ── 私も含め、若手の研究者や他分野の研究者たちが力を合わせて開発した解析方法の勝利だと思います。いままで使っていた方法よりも、より良い画像が出せるということを、幸いにして示すことができました。じつはアメリカも独自の解析方法を提案してきていますが、僕らの方法から影響を受けていることは間違いない(笑)。それも含めてこの分野の研究の進展に貢献できたことはうれしく思います。

EHTに参加した日本の研究者
©NAOJ(国立天文台)
EHTに参加した日本の研究者
本間希樹教授

永田 ── ちなみに、画像化されたブラックホールはすごく綺麗な赤い色ですよね。

本間 ── 実際には、電波で見ているので人間に見える色ではないんです。チームの中でどんな色がいいか相談して、一番かっこいいのはこんな感じだろうということで、この色をつけました。

永田 ── このデータがブラックホールだということは、いつごろわかったのですか?

本間 ── 望遠鏡で観測したのは2017年で、2018年6月に各国の研究チームにそのデータが同時に渡されて、解析が始まりました。そこからは早くて、私たちは30分ほどでブラックホールの影があるとわかりました。それまでに別の天体を使って何度も解析の練習をしていたので、いざ本番となったときに素早く対応できたんです。

永田 ── そのときのご感想は?

本間 ── それはもうガッツポーズでした。10年の苦労が報われたのですから。その夜はもちろん祝杯をあげました。

永田 ── さぞ美味しいお酒だったでしょう(笑)。

── そして2019年4月に、本間さん自ら、この成果を発表されたわけですが、どのような反応を予想されていましたか?

本間 ── じつは発表するまでヒヤヒヤでした。この画像がもつ意味がどれくらい伝わるかわからなかったんです。すでに映画などで、CGで作られたブラックホールの綺麗な映像があるのに、私たちのはいくら本物とはいえ、ぼやけた写真でしたから。どういう反応があるか心配でした。

本間希樹教授

永田 ── でも、多くの人が感動してくれましたよね。

本間 ── それが伝わったのは、メディアの方々のおかげでもあり、そして一般の方の興味や関心、知識の高さのおかげです。子どもさんもよくわかってくださいました。永田さんのように、プラネタリウムを通じて成果のもつ意味を広めてくれたおかげですね。

通信技術と半導体技術の役割

── こうしたブラックホールの観測や解析には、通信や半導体の技術も重要だったんですよね。

永田 ── 多くの電波望遠鏡を組みわせたデータというと、そのデータ量はかなりのものになりますよね。どうやってやり取りしたんですか?

本間 ── まさにデータ量は膨大なので、インターネットの回線ではとてもおいつきません。また、ネットがない場所に置かれた望遠鏡もありましたので、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)ごと持ち出して、アメリカとドイツに集めて処理をしました。そして、その処理したデータを日本などに送って、そこでそれぞれ解析したのです。

永田 ── 将来、5Gなどで通信技術がさらに発展すれば、今より研究しやすくなりますか?

本間 ── そうですね。だいたい100 Gbpsくらいを専有して利用できれば、もっと効率的に解析できるようになり、研究が進むでしょう。

永田 ── それからスーパーコンピュータの役割も大きかったんですよね?

本間 ── この水沢キャンパスにある、天文学専用のスーパーコンピュータである「アテルイⅡ*3」を使って、すでにある理論を使い、ブラックホール・シャドウを撮影できたらこんな風に見えるはず、という画像をシミュレーションしました(図4、5)。

[図4]国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(Center for Computational Astrophysics,CfCA)
天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」

©NAOJ(国立天文台)
アテルイⅡ

永田 ── その結果はどんなものだったのですか?

本間 ── 実際に撮像できたものとよく似ていました。そこで、理論が間違っていないこと、もっと言えば、そもそもブラックホールの存在を予言した、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論が正しいと確信できました。

永田 ── 本間先生の研究にとって、半導体はどれくらい重要なのですか?

[図5]アテルイⅡの計算ブレード
©NAOJ(国立天文台)
アテルイⅡの計算ブレード

本間 ── 私たちの研究と半導体の進化は密接に関わっています。小さく暗い天体を撮るときはたくさんのデータを取る必要がありますから、そのデータを処理するためには、処理速度の速い半導体が必要です。

たとえば電波を受信し、それをデジタル処理するときに使うサンプリングチップと呼ばれる部品が重要ですし、データを掛け合わせるときにはコンピュータのクラスタを使っていますが、そこではCPUの性能と数が大事になってきます。

私たちは、いま手に入る技術水準の範疇でしか動けないのですが、もし半導体技術が進歩すれば、バンド幅が広がり、より暗いものが見られるようになるでしょう。今後の技術革新に大いに期待しています。

ブラックホール研究のこれから

本間希樹教授

永田 ── 今回発表されたM87の中心に位置する巨大ブラックホール以外に、撮影したブラックホールはあるのですか?

本間 ── EHTによる観測では、南極にある電波望遠鏡も使っています(図6)。今回撮像できたM87の中心にある巨大ブラックホールは、南極の望遠鏡からは見えないので出番はなかったのですが、じつはもうひとつ、「いて座A**4」という、天の川銀河の中心にあるブラックホールと思われる天体もターゲットにしました。いて座は南極から見ると地平線に沈まず、ずっと見えているので、いて座A*の観測のためには南極の電波望遠鏡を使うことが重要でした。

すでにいて座A*も、2017年にデータを取得して、現在解析を進めている段階で、2020年には画像を公開できると思います。ぜひ楽しみにしていてください。

[図6]南極点望遠鏡
©Junham Kim, University of Arizona; Robert Schwarz
南極点望遠鏡

永田 ── さらにその次の観測のテーマなどは決まっているのですか?

本間 ── 次は「動画」です。今回撮像したのは静止画でしたが、より詳しく観測して、ブラックホールのまわりで起きている現象の動きを、動画で捉えたいと思っています。じつはこれはそんなに簡単ではないですが、望遠鏡を増やせば見えるチャンスはあるはずです。EHTでは2020年に、望遠鏡を3台増やして、取得するデータを増やします。これから5年くらいで動きが見えてくると思います。

それから「大きいブラックホール」と、銀河との関係ですね。

永田 ── ブラックホールに大きいや小さいがあるのですか?

本間 ── これらはでき方が違います。小さいブラックホールは、太陽より30倍くらい大きな恒星が燃え尽きたときにできます。どうやってできるかわかっていますし、銀河の中にたくさんあることがわかっています。一方、今回撮影できたような巨大ブラックホールは、私たちの住む銀河系を含めて、あらゆる銀河の真ん中に1個だけあり、太陽の100万倍以上、今回撮影したM87のものだと約65億倍という、とてつもない大きな質量をもっています。

こうした巨大ブラックホールは、銀河ができたときになんらかの役割を果たしたはずなんですが、それがなにかはわかっていません。巨大ブラックホールが先にあって銀河ができたのか、その逆なのかは、まさに”鶏と卵”の問題です。でも、巨大ブラックホールが銀河にとって重要な役割を果たしていることは間違いありません。天文学における次の10年の大きな研究テーマとなるでしょう。

本間希樹教授

永田 ── ブラックホールが物質を吸い込むとき、それに伴って、ある一定方向に物質を噴き出す「ジェット*5」という現象がありますが、それが銀河を作った、という説もありますよね?

本間 ── たしかにそういう説もあります。ブラックホールから噴き出すジェットが、さまざまな物質をかきまぜて、銀河全体の隅々にまで物質を行き渡らせ、星などが誕生したという説ですね。それから、ジェットがガスとぶつかって、そこで新しい星が生まれるのではという説もあります。もしかしたら、私たちはブラックホールのおかげで生まれて存在しているのかもしれないという、非常におもしろい説です。可能性はあるので、これからの研究で明らかにしていきたいと思います。

永田 ── いまお話いただいた、巨大ブラックホールと銀河の関係や、ジェットの問題などを解決するための手がかりはあるのですか?

本間 ── 宇宙の果てにあるような遠くの銀河を見て、その中がどうなっているかを明らかにすればわかるかもしれません。そのためにはさらに視力の高い電波望遠鏡が必要なのですが、それは途方もないほどの性能になるので、現代の技術からすると夢のまた夢です。

でも、先ほどお話した通信や半導体などの例のように、科学・技術の進歩のスピードと行く末は計り知れません。いつか人類は、そんな望遠鏡を実現させるだろうと思っています。

(後編へ続く)

国立天文台・水沢VLBI観測所
国立天文台・水沢VLBI観測所

[ 脚注 ]

*1
イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT): 波長の短いミリ波帯(主に1.3mm)を用いて、地球直径に匹敵する1万kmもの基線長でVLBI観測を行う望遠鏡。これにより、視力300万という史上最高の解像度を達成している。今回のブラックホールのデータが集められた2017年の観測では、APEX(チリ)、ALMA(チリ)、IRAM 30m望遠鏡(スペイン)、ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(ハワイ)、大型ミリ波望遠鏡(メキシコ)、サブミリ波干渉計(ハワイ)、サブミリ波望遠鏡(アリゾナ)、南極点望遠鏡(南極)の計8局が参画した。
*2
ALMA(アルマ): 日本を含む東アジア、北米、欧州南天天文台加盟国およびチリの国際協力によって、南米チリの標高5000mの高地に建設された巨大電波望遠鏡。2011年に科学観測を開始した。口径12mおよび7mの合計66台のパラボラを組み合わせ、ミリ波やサブミリ波という波長の短い電波で天体を観測する。
*3
アテルイⅡ: 水沢VLBI観測所に設置され運用中の天文学専用のスーパーコンピュータ。さまざまな天体現象をコンピュータ内に仮想的に再現して計算することができ、「理論天文学の望遠鏡」の異名をもつ。2018年6月1日に共同利用を開始し、現在も運用されている。2013年に導入された従来機である「アテルイ」の6倍、2014年10月に行われたアップグレード後と比較しても3倍の演算能力にまで向上している。ちなみにアテルイ(阿弖流為)とは、今から1200年ほど前に岩手県の水沢付近に暮らしていた蝦夷(えみし)の長であり、朝廷の軍事遠征に対して蝦夷をまとめて勇猛果敢に戦った英雄の名前から取られている。
*4
いて座A*(いてざ・えー・すたー): 私たちの住む天の川銀河の中心にあると考えられている、巨大ブラックホール。太陽質量の約400万倍の質量をもつと考えられており、地球から約2万5千光年の距離にある、最も近い巨大ブラックホールでもある。そのため、ブラックホール候補天体のなかで最大の視直径をもち、EHTによってそのブラックホール・シャドウが撮像されることが期待されており、M87と並ぶEHTの最重要ターゲットとして観測が行われた。
*5
ブラックホール・ジェット: ブラックホールは強い重力で周囲の物質を吸い込む反面、天体に周囲から降着する物質の一部が細く絞られ、一方向または双方向に向け、最大で光速の99%もの速度で噴出させているものがあり、それをジェットと呼ぶ。それがブラックホールによってどう駆動され、どう輝くのかは、宇宙物理学における最大の謎のひとつとなっている。
Profile
本間 希樹氏

本間 希樹(ほんま まれき)

国立天文台 水沢VLBI観測所所長
国立天文台教授、総合研究大学院大学教授、東京大学大学院教授

アメリカ合衆国テキサス州生まれ、神奈川県育ち。平成6年東京大学理学部天文学科卒、平成11年同大学院博士課程修了。同年国立天文台COE研究員。
その後、助教、准教授を経て2015年より現職。専門は電波天文学で、超長基線電波干渉計(VLBI)を用いて銀河系構造やブラックホールの研究を主に行っている。著書に『巨大ブラックホールの謎』(講談社ブルーバックス)、『国立天文台教授が教える ブラックホールってすごいやつ』(扶桑社)など。2017年よりNHKラジオ『子ども科学電話相談』の回答者も務めている。

永田 美絵氏

永田 美絵(ながた みえ)

コスモプラネタリウム渋谷 チーフ解説員
NHKラジオ『夏休み子ども科学電話相談』天文担当。

東京新聞のコラム『星の物語』を連載中。主な著書に『星座の見つけ方と神話がわかる星空図鑑』(誠美堂出版)、『ときめく星空図鑑』(山と渓谷社)、『星と宇宙の不思議109』(偕成社)、『はじめよう星空観察』(NHK出版)、『宙ガールバイブル』(双葉社)などがある。そのほか「星座切手シリーズ」の星空解説文も担当。
美絵 (みえ、11528 Mie)での小惑星登録もある。
日々、宇宙や地球の素晴らしさを伝え続けている。

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。主な著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、論文誌などでも記事を執筆。

Webサイト:http://kosmograd.info/
Twitter:@Kosmograd_Info

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