- 本間 希樹
- 国立天文台 水沢VLBI観測所所長
国立天文台 教授、総合研究大学院大学 教授、
東京大学大学院 教授
- 永田 美絵
- コスモプラネタリウム渋谷
チーフ解説員
PRESENTED BY
クロストーク ”テクノロジーの未来を紐解く
後編:”宇宙人に恥ずかしくない未来”をつくる、未知への探求心とチームワークの力
その正体はおろか、存在するかどうかさえ謎に包まれていた天体「ブラックホール」。しかし2019年、人類はついにその姿を捉えることに成功した。
この大偉業にかかわった国立天文台教授・水沢VLBI観測所所長の本間希樹さんと、コスモプラネタリウム渋谷のチーフ解説員を務める永田美絵さんの対談の前編では、ブラックホールとはどのような天体なのか? どのようにして撮像したのか? そして今後の研究の展望などに迫った。
後編では、ブラックホールにまつわるさまざまな疑問や、宇宙人はいるか? という話題、そして科学や天文学の魅力と、夢や明るい未来を叶えるための鍵などについて語っていただいた。
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永田 ── プラネタリウムで解説していると、よく来場者から「ブラックホールの中はどうなっているのか?」という質問をいただくのですが、実際に入ったらどう見えるんでしょう?
本間 ── きっと想像を絶する光景だと思います。その光景を見ながらだんだん落ちていって、そして真ん中にある、「特異点*1」と呼ばれる、潰れた黒い点が見られるはずです。
永田 ── よく「体が引き伸ばされてしまう」とか、怖い話を聞くのですが……?
本間 ── 体が引き伸ばされてしまうのは、小さなブラックホールなんです。(前編で触れた)「はくちょう座X-1」のような、太陽の質量の10倍くらいしかないような小さなブラックホールだと、体がスパゲッティのようになって引き伸ばされ、そしてバラバラになってしまいます(図1)。
でも、今回撮像できたような巨大ブラックホールの中なら入ることができます。その中ではいくつもの大発見ができるでしょう。でも、もちろん、一度入ったら外には出られませんし、通信もできないので、他の人にその様子を伝えることはできません。人生最期のときには入ってみたいですね(笑)
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永田 ── ブラックホールの反対に、「ホワイトホール」という天体があるという話もありますよね。
本間 ── 理論的にはありえます。アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論を解くと、何でも吸い込むブラックホールと、その逆で一方的に物を吐き出すホワイトホールは、セットで出てくるものなのです。
永田 ── もしホワイトホールが存在したとしたら、どのように見えるんでしょうか?
本間 ── ブラックホールに物が落ちるのは無限の時間がかかって見えるのですが、ホワイトホールはその逆で、逆に無限の時間がかかって物が出てくるように見えるはずです。でも、実際にそれを見ることができたとしたら、「ビッグバンより以前にそのホワイトホールが存在していた」ということを意味しますので、非常におかしなことになります。だから現時点では、多くの研究者は「ホワイトホールとは数式上の存在で、実際にはないのではないか」と考えています。
でも、アインシュタインも一般相対性理論を生み出したあと、ブラックホールという天体が存在しうるということがわかっても、その存在を信じませんでした。あまりに奇妙な天体なので、「ブラックホールなど存在しない」とする論文を書いたほどです。ですが、それから100年経った今、実在することがわかりました。ホワイトホールでも同じように、今は誰も信じないけれど、いつか見つかって、「昔はその存在を信じない人もいたんだよ」と笑い話になるかもしれません。