連載01
実用化が間近に迫る究極のバッテリー、全固体電池
Series Report
第1回
究極のバッテリー、全固体電池がEVの普及を加速させる
2020.07.01

究極のバッテリーと呼ばれる全固体電池が、いよいよ実用化間近の段階に入ってきた。リチウムイオン二次電池の発明によって、スマートフォンやノートパソコンなど、大電力を消費する電子機器の持ち出しが可能になった。しかし、電池内部に可燃性液体が使われており、衝撃などによって発火・爆発を起こす安全面での課題を残している。こうした欠点を解消し、安全性と大容量・大出力化を兼ね備える究極の電池として期待されているのが、全固体電池である。本連載では、第1回で全固体電池の特徴とEVへの応用に向けた技術開発の動きについて、第2回でウェアラブル機器やIoTデバイスへの応用に向けた動きについて、第3回で全固体電池が実用化された後のバッテリーのさらなる進化を見据えた技術開発について解説する。
2019年のノーベル化学賞は、リチウムイオン二次電池を発明した功績で、元旭化成の吉野彰氏ら3人に贈られた。ノーベル賞は、言わずと知れた科学分野では最高の権威を持つ賞。受賞理由の多くは、基礎科学の分野での発見や研究での功績である場合が多い。身近な工業製品の発明が対象になるのは、2014年のノーベル物理学賞の対象となった青色ダイオードの発明などわずかしかない。
世界を変えたリチウムイオン二次電池
リチウムイオン二次電池は、なぜノーベル賞に値する発明なのか。それは、私たちの生活、仕事、社会活動を一変させるほどの電子機器の進化をもたらす、絶大なインパクトを持つ技術だったからだ。
スマートフォンやノートパソコンなど携帯型電子機器は、いまや現代人の生活に欠かせないツールになった。これらがあればこそ、いつでも、どこでも、誰とでもつながり、会話や仕事、買い物、コンテンツの視聴ができる。その一方で、スマートフォンは約10W、ノートパソコンは20〜30Wと見かけによらず大量の電力を消費する。これらの電子機器は、実用的な時間利用できるだけの電力を供給可能で、しかも気軽に持ち運べる大きさに収まるバッテリーがなければ、登場しなかったと言える。こうした要求に応えるバッテリーは、リチウムイオン二次電池しかなかったのだ(図1)。
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バッテリーの性能は2つの指標で表される。ひとつは、より小さな電池でより大きな電力を蓄えることを示すエネルギー密度(単位はWh/kgまたはWh/l)である。これはバッテリーの持久力を示す指標であり、スマホに応用する際には電池の持続時間の長さを決める。もうひとつは、充放電時の入出力電力の大きさを示す。パワー密度(単位はW/kgまたはW/l)である。バッテリーの瞬発力を示す指標であり、スマホに応用する際には、充電時間の短さや動かすことができるアプリの負荷の大きさを決める。
これら2つの性能指標からみると、携帯型電子機器を動かすバッテリーとして、リチウムイオン電池は、他に代わるものがないほど高性能である。他方式のバッテリーと比較すると、エネルギー密度は鉛蓄電池*1の約5倍、ニッケル水素二次電池*2の約2.5倍、パワー密度も鉛蓄電池の約3.3倍、ニッケル水素電池と同等である。
しかも、リチウムイオン二次電池は、携帯型電子機器向けバッテリーとして、極めて使い勝手のよい性質を備えている。まず、一般にバッテリーは充放電を繰り返すと性能が劣化するが、リチウムイオン二次電池は充放電しても劣化しにくい。また、充放電する際に、放電し切っていない状態で継ぎ足し充電しても、劣化しにくい特徴を備えている。
[ 脚注 ]
- *1
- 鉛蓄電池: 正極に二酸化鉛、負極に海綿状の鉛、電解質に希硫酸を用いた二次電池のこと。電極材料の鉛が安価で、短時間で大電流を放出しても長時間で緩やかに放電しても比較的安定して動作するため、車載用二次電池として最も一般的に使われている。
- *2
- ニッケル水素二次電池: 正極に水酸化ニッケルなどを、負極に水素または水素化合物を用い、電解質に濃水酸化カリウム水溶液などを用いた二次電池である。負極の水素源として、水素吸蔵合金を用いるニッケル金属水素化物電池 (Ni-MH) が実用化し、1990年以降、家電製品やハイブリッド車のバッテリーとして広く利用されるようになった。