Expert Interviewエキスパートインタビュー
お金・モノ・地位から得られる幸せは長続きしない
── 幸福度を測るサービスは、どのような方法で提供しているのでしょうか。
「幸福度診断Well-Being Circle」というサイトでサービスを提供しています。幸せという感情は、とても多面的な要因で感じるものです。このため、アンケートのような形式で、様々な角度からの質問に答えてもらって、11項目、34要素で数値化した幸福度を測っています(図1)。
11項目とは、次のようなものです。幸福度の総合指標である「Well-Being」。次に、自己実現と成長の因子「やってみよう因子」、つながりと感謝の因子「ありがとう因子」、前向きと楽観の因子「なんとかなる因子」、独立と自分らしさの因子「ありのままに因子」。これらは幸せの4因子と呼んでいます。さらに、外向性や協調性など「性格傾向」、健康であることの自認「健康力」、「ストレスの低さ」、信頼関係のある環境「社会の幸せ力」、職場環境の状況「職場の幸せ力」、収入や社会的地位など「地位財」です。
これらの幸福度は、各要素に関連した様々な研究の成果を集め、実際に日本人の幸せとの相関が高い要因を統計的に分析し算出しています。
── 幸せの形は様々ですね。アンケートでは、どのようなことを聞いているのでしょうか。
幸せを感じさせる要因には、大きく2種類があることが学術的に分かっています。「地位財」と「非地位財」です(図2)。このうち、地位財はお金やモノ、社会的地位などです。一方、非地位財は、良好な心身の健康や職場や過程の環境、社会環境などを指します。そして、地位財によって感じる幸せは長続きせず、非地位財が良好であることによって感じる幸せは、長続きすることが分かっています。Well-Being Circleのアンケートでは、非地位財の状態を問う設問を中心にしており、地位財を問うものを絡めながら聞いています。
非地位財では、「自分の強みを理解していますか」とか、「もっと成長していきたいと思いますか」といった問いに、7段階で答えてもらいます。自分の評価をストレートに聞くことで、質問を読んだだけで、幸福度を高めるにはどのような状態になればよいのか理解できるようにしています。地位財に関しては「収入面に満足していますか」などを聞いています。
── 多くの人は、自分の幸せを地位財を中心に測っているように思います。幸福度は、そこでは決まらないのですね。
そのとおりです。地位財と幸福度には、それほど高い相関がないのです。実際、年収で1000万円ぐらい低かったとしても、様々なことにチャレンジしたり、信頼関係のおける人たちと一緒にいたりする人の方が幸福度としては高くなります。私も、独立して会社を設立したら年収がガクンと落ちましたが、俄然、幸福度は上がっています。
── 自分や家族を幸せにしたいと考える際には、努力目標として、「出世したい」「年収を上げたい」「高学歴を得たい」といった他人との違いを比較しやすいことがらを考えがちです。
確かに地位財は比較しやすい要因です。そして、人は他人との比較で優越感を感じるのも確かです。しかし、これは、幸せというより快楽の一種であり、長続きがしないわけです。この点に気づくと、幸せになるための考え方が変わってきます。
定期的に幸福度を診断して、日々の生活を振り返るキッカケにする
── 幸福度を診断した結果は、どのような形で被験者に提供されるのでしょうか。
幸せとの相関が高い34要素を数値化し、数値の高い要素と低い要素が何なのか、ひと目で分かるように図示した結果を届けます(図3)。各要素のうち、現在の幸せを支えている上位要素と、もっと幸せになるために伸ばす余地がある要素も示します。幸福度を定期的に診断することによって、変化が大きい要素があれば、そこに注目して自分の生活を振り返り、幸福度が上下した原因を探ることができます。
── 幸福度を診断した結果は、どのように利用したらよいのでしょうか。
幸福度の数値が高い低いという点を見ていただくよりは、自分が幸せになるためのきっかけ、ヒントに使ってもらえればと考えています。幸福度の各要素をもっと高めるためのアクションのヒントをまとめた「幸福向上ガイド」も用意しています(図4)。これを参考にすれば、さらに幸福度を高める生活のあり方を考えることができます。ただし、指標の数値が全部高くなれば統計的には幸せな状態にあるといえるのですが、被験者が「この項目の数値が低くてもいいや」と思えるのならば、それでもよいのだと思います。
── 実際に利用された方からは、どのような声が届いていますか。
サイトには、SNSで利用して感じたことをシェアする機能があります。そこでは、「自分の幸せについて初めて考えた」といった声が上がってきています。こうした声が嬉しいですね。日々の生活や仕事に忙殺されていると、改めて自分の幸せについて考えるようなことはありませんから。そして、「定期的に診断して、自分のことが分かってきた」とか、「診断結果を基に、次にやりたいことができた」といった投稿も数多く出てきています。