No.025 特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

No.025

特集:テクノロジーの進化がスポーツに変⾰をもたらす。

Visiting Laboratories研究室紹介

流体力学の応用でいずれ社会へ貢献

伊藤 慎一郎氏

TM ── 最近では3D-CADが登場し、コンピュータ計算が簡単にできるようになってきました。流体力学はナビエ-ストークスの方程式を解くわけですが、これまでの先生のお話の中でCADを使うという話題が出てこないように感じました。

伊藤 ── どちらかと言えば私は3D-CADよりも実験系の人間ですので、Star-CCMというCFD(数値流体解析:Computational Fluid Dynamics)ソフトウェアを使って、水泳のスタートやターン、飛び込みの状況を計算することはありますが、検証にはやはり風洞実験を使います。

TM ── 動きをデータ化するのですか。

伊藤 ── 動いているものをデータ化することは難しいです。動いているものを記述する場合には非定常状態の流体力学が必要になりますが、形が時々刻々と変化していくので、計算が難しくなるため、CFDで計算している人は極めて少ないと思います。

TM ── 最近ではコンピュータの能力が上がって計算できるようになったようですが。

伊藤 ── 富岳のようなスーパーコンピュータを使える環境にあれば可能ですが、コストがかかりますので、自分の持てる研究資材を使うことになります。そうすると最も手っ取り早い手法が実験になります。

風洞実験した後の解析ツールとしては、ダートフィッシュ・ソフトウェアなどがあります。実際の映像を解析するためのソフトウェアです。私は、ナビエ-ストークスなどの微分方程式を解いて数値計算するのではなく、力学的なモデルを立てて、解析的に解ける方程式を解くようにしています。この方が計算負荷は少なく、解きやすいからです。これが私の手法です。この方がわかりやすいと思います。

TM ── この流体力学の応用研究をもっと広げるとすれば、今後はどのような方向に向かうのでしょうか。

伊藤 ── 現在はボールの性能を上げることを追求していますが、新しいボールが出てくるので、さらに新しい知見が出てきています。スポーツ以外の研究テーマとして、ドローンの羽をどうすればもっとよく飛ぶようになりますか、という問い合わせもいただきます。

TM ── 最後に、学生に対するメッセージをいただけますか。

伊藤 ── 自分で考えて実行しなさいと言っています。今の学生は7割くらいわかると、それで満足してしまいます。7割で満足する人と10割までわからないと満足しない人とは将来大きく差がつきます。ですから7割で満足するなと言っています。ここは厳しく指導しています。

また、学生に対してはロングスパンの夢を持ちなさい、と常に言っています。ショートスパンだとすぐに実現できて夢を失ってしまうからです。自分が40歳、50歳になった時に、どういう生き方をしているのか、ロングスパンの夢を持っていれば、自分を見失うことなくさらに磨くことができます。

工学院大学 工学部機械工学科 スポーツ流体研究室

工学院大学 工学部機械工学科 スポーツ流体研究室

伊藤 慎一郎教授

Profile

伊藤 慎一郎(いとう しんいちろう)

工学院大学教授

1979年東京大学工学部機械工学科卒業,1981年東京大学大学院工学系研究科機械工学専門修士課程修了,1年間の日産自動車勤務を経て1986年東京大学大学院工学系研究科舶用機械工学専門修士課程修了博士課程修了,工学博士,同年より防衛大学校機械工学教室助手,講師を経て2009年より工学院大学工学部機械工学科教授,2016~18年,同大学大学院機械工学専攻・専攻長,2011~13年エアロ・アクアバイオメカニズム学会会長,2014年パラリンピック・マルチサポート委員長,2014~15年日本機械学会スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス部門部門長,2020年可視化情報学会会長.生物の泳ぎと飛び,スポーツの流体力学(水泳,バレーボール,サッカーボール等),流れの可視化に関する研究に従事。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2025」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

Cross Talk

心のスポーツ、ゴルフはAIでどう進化するのか

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前編 後編

Visiting Laboratories

工学院大学 工学部機械工学科 スポーツ流体研究室

生物をまねて高速泳法を創出、バレーボールの最適なボールも実現 ~ 流体力学をスポーツに応用

第1部 第2部

Series Report

連載01

ダウンサイジングが進む社会システムの新潮流

「発電所のダウンサイジング」で、エネルギーの効率的利用を可能に

第1回 第2回 第3回

連載02

アスリートを守り、より公平な判定を下すスポーツテクノロジー

「働くクルマのダウンサイジング」で農業と建設、物流に革新を

第1回 第2回 第3回

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