LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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では、なぜ直流が改めて注目されるようになったのか。実は、高電圧で長距離送電を行う場合、直流の方が送電ロスが少なくなる。30年ほど前から電力を扱うためのパワー半導体技術が進歩してきたことで、直流送電が実用的に使われるようになってきた。日本の交流送電網における送電ロスは6%程度だが、高圧直流送電なら1000kmで3%程度のロスに抑えられる。また、直流送電は自然再生可能エネルギーと相性がいい。太陽光発電で生じる電気は直流であり、風力発電も大型に関しては直流である。
ちなみに、私たちが日常的に使っている電気製品のほとんども直流で動くようになっている。工場で使われるモーターにしても回転数を調整するために、インバーターを使って交流から直流への変換を行っているのだ。送電網全体を直流にすることで、送電ロスを大きく減らせる可能性がある。

海外、特に米国やヨーロッパ、中国などでは直流送電への投資が急速に進んでいる。例えば、ドイツの送電会社テネットは北海の洋上風力発電所と陸地を結ぶために直流送電網を建設中で、2013年までには8GW分の電力を送電する予定だ。また、同じくテネットは、風力発電による余剰電力をスイスまでロスの少ない直流送電で送り、揚水発電所*1に備える計画を持っている。さらに、北海では2013年末を目指して8GWの揚水発電所を建設中で、高圧直流送電の設備はすでに稼動している。日本において揚水発電所は原子力発電所の余剰電力を調整するために使われるが、ヨーロッパなどでは自然再生可能エネルギーのバックアップとなっているのである。
さらに、サハラ砂漠に太陽光/太陽熱発電所を建設し、その電力をヨーロッパに直流送電で送るデザーテック計画も進行中だ。これは100兆円規模のプロジェクトになる予定で、2020年には一部送電が開始されるともいわれている。
なお、日本でも一部では直流送電が実際に行われている。北海道と本州を結ぶ北本連系や、徳島県と和歌山県を結ぶ紀伊水道直流連系がそれに当たる。50kmを越えて海を渡る場合、絶縁や鉄塔建設などの理由から交流の架空線で送電するのは困難だからだ。

サハラ砂漠の太陽光発電の電力をヨーロッパに直流送電で送るデザ―テック計画
[図表1] サハラ砂漠の太陽光発電の電力をヨーロッパに直流送電で送るデザーテック計画
(DESERTEC Foundation, www.desertec.org

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