LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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送電ロスが限りなくゼロの送電網で、世界はどう変わるのか?

超伝導直流送電はまだ開発途上の技術だが、実用化されるとどのような影響を社会に与えることになるのだろうか。
まず、系統電力に導入されることで、送電ロスを減らすことができるようになる。従来の架空線まで含めてすべてを超伝導ケーブルに置き換えるのは現実的ではないだろうが、地中線を新たに敷設するケースでは投資を抑えつつ送電効率を上げられる。特に、太陽光発電や風力発電は直流であるため、分散型の自然再生可能エネルギーを大規模に系統電力へ取り込む上では欠かせない技術になってくるはずだ。
ロスを抑えて長距離送電ができるようになれば、人口密集地に全国各地から送電することも可能になる。大災害の際にも遠く離れた地域から被災地に送電できるため、迅速に電源を復旧できる。
そして、効率化された系統電力網の先に、山口教授らが目指すのは地球規模の電力網である。
例えば、サハリンの原油を日本に運ぶことを考えた場合、パイプラインで輸送するのに比べ、超伝導直流送電であればエネルギーの輸送損失は1/20で済むという。パイプラインは30インチの太さになるが、超伝導直流送電のケーブルは7インチ程度。人が歩ける幅があれば敷設できるため、自然破壊も極力抑えることができる。
ヨーロッパと日本のように、大きな時差がある地域を送電網で結ぶことができれば、大規模なエネルギー融通が可能になる。夜間の余剰電力を揚水発電などに蓄えることなく、昼間の地域へ送電。12時間後には、逆方向に送電するわけだ。時差を利用して電力を売買することで、送電会社は利益を上げられるので、これを送電網の建設費に当たることができるかもしれない。

時差のある国を超伝導直流送電網で結ぶことにより、電力の融通が可能になる。
[図表2] 時差のある国を超伝導直流送電網で結ぶことにより、電力の融通が可能になる。

そして世界規模の送電網は、安全保障のあり方を変える。安全保障というと、自国のエネルギー自給率を高めようという議論が必ず起こるものだ。だが、エネルギーが自給できれば国家間の争いが少なくなるという保証はない。ロシアはウクライナに対して、パイプラインで天然ガスを供給しているが、この供給や価格設定を巡って、両国間は何度も緊張状態になっている。だが、複数国間にまたがって、双方向に機能する送電網を止めることはできない。
冷戦時代、大陸間核弾頭ミサイルにはピースキーパー(平和維持者)という皮肉な名前が付けられた。グローバルな超伝導直流送電網は、真の意味でピースキーパーになる可能性を秘めている。

[ 脚注 ]

*1
揚水発電所:高低差のある二つの貯水池を利用して水力発電を行う発電所。余剰夜間電力を利用して汲み上げた水を電力消費量の多い昼間に放水して発電する。
*2
交流送電にはケーブルが三本必要:交流発電機はコイルを120度ずつずらして三つ配置し、三系統の電力を取り出すようになっているため、送電には三本のケーブルが必要になる。これを三相交流という。
*3
データセンター:各種のコンピュータ(メインフレーム、ミニコンピュータ、サーバ等)やデータ通信などの装置を設置・運用することに特化した施設の総称。

Writer

山路達也

ライター/エディター。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『日本発!世界を変えるエコ技術』、『マグネシウム文明論』(共著)、『弾言』(共著)などがある。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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