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日本の半導体産業は1980年代後半に世界シェア50%を超えていた。しかし、今や10%以下という有様になってしまっている状態だ。学生たちやその親たちは、マスコミが伝える「半導体は斜陽産業」という言葉をまともに信じ、「本当は世界的に成長産業であるのに日本だけが成長していない」という事実を長い間、受け入れてこなかった。20年以上経って半導体がブームを迎え、日本だけが成長していないという事実に、ようやく最近気がついたようである。「もはや手遅れ」、というあきらめムードが漂う中、東京大学大学院工学研究科の黒田忠広教授は、半導体は成長産業であることを皆に認識させるために孤軍奮闘してきた。半導体で再び日本が勝つために必要なテクノロジーを明確に定め、実行中だ。学生・院生たちにも半導体の魅力を、情熱を持って語る。黒田教授の試みを紹介する。
(インタビュー・文/津田 建二 撮影/大久保 歩〈アマナ〉)
小菅 ── 私は2011年から黒田先生の研究室に入りました。当時は慶應義塾大学の4年で、それから修士課程を経て博士課程を修了するまで在籍しましたので合計6年間過ごしました。2010年頃からスマートフォンが世の中を変え始めたときでしたので、スマホがありとあらゆる情報に瞬時にアクセスできることを実感しました。その頃に黒田先生の授業を受けて、スマホを動かしているのが半導体であり、タッチ操作できる静電容量型のセンサであることを知りました。カメラで写真を撮れることも日常的になりました。半導体が全てを変えつつあることを実感しました。
実は3年生の時に黒田先生のLSI回路設計の授業で、デザインコンテストがありました。上期にはデジタル回路、下期にはアナログのオペアンプをテーマとして、学生同士が競い合う訳です。このコンテストで、回路定数を変えるとスループットや消費電力などの特性が数ケタも大きく変わることを実感しました。いわば学問を実装して社会を変えられるという面白さを知ることができました。そして世の中を変えてやろうと思い、黒田研究室に入りました。
柴 ── 私は今、博士課程1年です。小菅さんがかなりのことを話されて、私も同感なのですが、やはり慶應義塾大学の学部3年生の時に黒田先生の授業でCADやレイアウトの話しを聞いて、強い影響を受けたことが研究室に入った動機です。小菅さんが言われたように特にデザインコンテストで、回路の性能を良くするためにトランジスタや回路のパラメータ、あるいは配置・配線を変えてみると、性能が大きく変わることが見えるのです。これが面白くて黒田研究室を選びました。
小菅 ── 私は、黒田先生の博士課程を修了した後、企業に入り、デジタルトランスフォーメーション(DX)とAIを組み合わせたロボットを作る研究をしていました。その中で、今のロボットはまだ処理能力が足りないことに気がつきました。その性能のカギを握るのは半導体なので、まだ半導体がAIに追いついていません。このため、もう一度原点に立ち返って半導体の性能を上げる研究をしようと思い、再び黒田先生の門をたたきました。
現在はAIアクセラレータの回路技術やセンシング技術の研究を行っています。半導体回路技術だけでなく、広い視点をもって半導体が拓く次世代情報処理システムを研究しています。
柴 ── 現在はd.labに所属しており、ICチップを積層して、ワイヤレスでつなぐという研究をしています。具体的にはチップ上に形成したコイルに高周波電流を流し磁界を発生させ、上部に接するチップのコイルにエネルギーを伝送することで上のチップをつなぎます。この技術をSRAMチップ同士の無線通信に応用しようと研究をしています。
小菅 ── もう一度、黒田先生の研究室に戻ってきて、改めて黒田先生の視野の広さに驚きました。半導体はこう進化してきた。だからこれからの半導体はこうあるべきで、私たちはこうすべき、というしっかりした哲学を持ち、常に社会に発信しています。企業に4年間いましたが、ここまで視野の広い人を見たことがありません。
また先生は、研究室に入る以前の学生時代から講師となった現在に至るまで、変わらず親切で、フランクに教えを請えばきちんと教えてくれました。特にISSCC*1で米国サンフランシスコに出張した時にはクルマでシリコンバレーに連れて行っていただき、いろいろな方々と人脈を作ることができました。
柴 ── ここに来てよかったことは、自分の視野が広がったことです。学部4年生の時は無線回路を中心に研究しましたが、修士課程に進むとメモリシステムについて考え、メモリアーキテクチャを知ることができました。自分の研究だけに閉じこもるだけだと、視野は広がっていきませんが、ここにきていろいろな分野を見ることができました。
小菅 ── 企業に入って4年間を過ごし、社会が大変革を起こしていることを実感しました。企業でAIをどのようにして実装するかという組み込み技術をやっていましたが、やはり半導体こそがキーファクタであり、AIチップのように盛り上がっていますが、この半導体研究をもっと進めたいと思います。
かつての海外の仲間たち(KKTワークショップやブロードコムの仲間)が、半導体研究を続けているのを見て、自分も半導体研究を盛り返すことを決意しました。若い人たちと一緒に盛り上げていきます。
柴 ── 今、検証用のテストチップをd.labでプロフェッショナルのエンジニアと一緒に開発しています。と同時に彼らから学んでいます。この3次元チップを完成させ、低消費電力の3次元SRAMを頑張って開発したいと思います。