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CO₂を出さないクルマは、やはり電気自動車(EV)が基本になりそうだ。欧州連合(EU)や日本でも2035年までに新しく販売される車は全てEVになるという脱炭素宣言を打ち出した。EVの基本構造は、バッテリーを床一面に敷き詰める方式になることがほぼ決まった。燃料電池車にもEVシステムは使われるようになる。EVの高級車メーカーを目指すベンチャーもシリコンバレーに現れ、新時代の自動車産業はデトロイトからシリコンバレーに移っている。ここではEVの産業動向、基本技術、必要な半導体、自動運転との連動、5Gやセキュリティを含めた新時代のクルマなどを紹介する。
単3乾電池よりも少し長いタイプのリチウムイオン電池セルを数百本直列・並列に接続して電気自動車(EV)のバッテリーシステムを作ったTesla(アメリカ)は、シリコンバレーの一角のフリーモントに本社と工場がある。アメリカ国内だけではなく、ヨーロッパ、中国にも工場を持つ。
これまでアメリカの自動車産業は、デトロイトにGMやフォードなどの代表的な工場があったが、安い人件費を求めてメキシコに工場を作り、労働集約的産業となっていた。Teslaの共同創設者・Elon Musk氏はEVにさまざまなハイテク機能を導入することを試み、シリコンバレーに本社を持ってきた。シリコンバレーには自動運転やAIなどのハイテク技術が溢れており、EVにハイテク技術を採り入れるのにもってこいの場所だからである。
ハイテク技術こそ、EVの真骨頂である。クルマ同士や交通信号器などと通信接続するコネクテッドカーであり、AI(機械学習やディープラーニング)を利用し、5Gと連携する自動運転ともなじみ深い。EVがハイテクの塊になることは目に見えている。当然、Teslaも自動運転を目指している。
EVと内燃エンジン車は動作が全く違う。内燃エンジン車がガソリンを燃焼させる時の爆発力でシリンダーを押し下げるという上下運動を回転運動に置き換えることで車輪を回すのに対して、EVは、バッテリーに電気(正確には電荷)を貯めておき、その電荷を外部へ電流として取り出すことでモーターを回し動力とする。内燃エンジンには、機械的な運動だけで動力とするため、極めて精密な設計ノウハウが織り込まれているのに対して、電気モーターはすでに安定した動力として工業用途で長い実績を持っている。
電気モーターのエネルギー伝達効率は90%に達し、内燃エンジンの最大効率の35%よりはるかに高い(図1)。内燃エンジンは通常運転では10〜15%程度の効率しかないと言われている。もっと多くの要素を取り入れた計算では(参考資料1)、動力源から車輪までのEVの総合効率は86~90%、これに対して内燃エンジン車の総合効率は16〜25%となっている。しかも内燃エンジン車は回転させるためには無駄となる最低の回転数(アイドリング)が必要で、効率が低いことはやむを得ないのだ。
日産自動車がe-Powerと呼ぶ技術に力を入れているが、その技術にこだわるのには訳がある。EVがバッテリーのエネルギーでモーターを回すのに対して、e-Powerは内燃エンジンで発電機を回し、バッテリーにその電力を貯め、バッテリーからの電力でモーターを回す(図2)、という一見、効率の悪そうな無駄を採り入れているように見える。しかし、日産自動車は、これでも内燃エンジンだけで車輪を回すよりも効率が良いというのだ。
なぜなら、最も効率の良いエンジンの回転数で発電するように調整するため、モーターの回転数を上げても下げてもモーターのエネルギー効率がほとんど変わらないためだ。内燃エンジンのエネルギー効率は回転数によって大きく落ちる。つまりe-Powerは内燃エンジンの効率を落とさないための技術だとも言える。
では水素を利用した燃料電池車(FCV)はどうだろうか。実は燃料電池という言葉については、電気を貯める訳ではないから正確には電池という言葉は適切ではない。酸素と水素を反応させて発電するため燃料発電機という言葉の方が適している。ただ、そのことにこだわるつもりはない。ここでは燃料電池車(FCV)で進めていく。
かつてFCVに乗車させていただいたことがあるが、ここでも効率を上げるため、ブレーキ時に発電させてバッテリーに充電する回生ブレーキの仕組みを取り入れている。充電したバッテリーからの電力はクルマの始動時に加速エネルギーを追加するためにも使う。FCVからだけのエネルギーでは加速が足りないからだという。トヨタ自動車のMIRAIにもこの回生ブレーキの仕組みを採り入れている。
このことからわかるのはFCVといえどもEVと同じ仕組みの発電機(モーターの逆の動作)のシステムが必要なのだということ。つまりバッテリーとモーターの仕組みはEV以外にも使われるのである。だからトヨタ自動車はFCVを開発しつつ、バッテリーの開発に力を注ぐのだ。
水素エンジン車についても触れておく。水素エンジンはガソリンの内燃エンジンと同様の構造で、水素をガソリンに代わる燃料として用いる内燃機関である。酸素と水素だけしか使わずCO₂は出さないから、この技術も有望だとかつては思われていた。しかしヨーロッパで繰り返し実験した結果、CO₂を出さない代わりに有害なNOx(窒素酸化物)を排出することがわかった。水素と酸素を燃焼させるといっても水素と空気を反応させるため、空気中の酸素だけでなく窒素(N₂)とも反応してしまうのである。もちろん、混合比を最適にすればNOxの発生は抑えられるが、エネルギー効率とNOx排出量との最適値について自動車メーカーは明確にしていない。またエネルギー効率がモーター駆動よりも悪い点は水素でも同じである。このためヨーロッパでは水素エンジン車に期待をしつつも、EVシステムとバッテリーに関する開発に力を入れている。
では、EVは全くCO₂を排出しないのかと言えばそうではない。実はEVでさえCO₂を出すとみなされている。これはソーラーエネルギーの生産と同じ議論である。つまり、EVを生産する時に工場内で火力発電所からの電気エネルギーを使う限りCO₂を排出すると計算するのだ。走行中はもちろんCO₂を一切出さない。しかし、充電する時も充電スタンドや家庭の交流電力から充電する限り、火力発電所の割合も加えなければならない。走行中はゼロエミッションであるが、EVやFCVだからゼロエミッションだとは言い切れないことは覚えておこう。因みに、トヨタの試算によれば、ハイブリッド車1台から排出されるCO₂の量はEV3台分とほぼ同じ程度だという。
EVに搭載されている回路技術は、モーターを回すためのインバータ回路だけではない。インバータも含め大まかに4つある(図3)。他の3つは、オンボードチャージャー(充電回路)、直流電圧を高電圧から低電圧に変換するDC-DCコンバータ、さらにはバッテリー管理システムである。これらを簡単に紹介する。
まず最も重要なインバータ回路である。この回路には、モーターのコイルに電流を供給してモーターを回転させるという役割がある。数十kWものモーターを回転させるわけだから大電流を流す必要がある。このためにパワートランジスタを使う。現在主流となっているのはIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)と呼ばれるトランジスタ。MOSトランジスタのドレインN層にP層を加えることで電子と正孔という二つのキャリアを使い電流を増やしている。
インバータ回路は、テレスコープマガジン「EVの省エネ化と性能向上の鍵は電気回路にあり」で伊藤元昭氏が解説しているように(参考資料2)、バッテリーという直流電源から交流を創り出す回路である。パワートランジスタはスイッチの役割を果たし、モーターのコイルに流す電流をパルス*1として供給し、電流パルスの幅によって電流の大小を表す。パルスの幅を連続的に徐々に広げれば電流値は徐々に大きくなり、その幅を徐々に狭めていけば電流値は小さくなる。このようにしてパルス幅を変えて正弦波(サイン曲線)*2を創り出す技術をPWM(パルス幅変調)と呼ぶ。トランジスタはパルスの幅を変える役割を果たす。そして2個のパワートランジスタで正弦波のプラス側とマイナス側をそれぞれ担当し交流の正弦波を創り出す。また、モーターの回転をスムーズにするため1組(2個)のトランジスタを3組使う3相モーター方式で安定した回転を創り出す。それぞれ1組ずつ0~120度の角度、別の1組が120~240度を担当し、3番目の1組が240~360度を担当することで安定した回転をモーターに与えることができる。このようにして、インバータ回路にはパワートランジスタを6個使うため、それらをモジュールとして提供することが多い。
このパワートランジスタとしてIGBTが使われているのだが、今後はシリコンカーバイド(SiC)のMOSFET*3も有望である。ただしコストがまだ高い。ウェーハコストがシリコンの10倍もする。このコスト差が大きすぎるためにインバータ用途で試すことをためらう自動車メーカーが多い。ただし先駆者としてTeslaのモデル3には搭載されており、「EVのベンツ」を目指すLucid Motors(アメリカ)のLucid AirもSiCを使っている。
実はインバータは、パワートランジスタだけでは動作しない。パワートランジスタの入力ゲートに電圧を供給するためのゲートドライバが必要であり、さらにゲートドライバに指令を出すMCU(マイコン)も必要となる。また、マイコンは例えばブレーキを踏んだことをセンサーから検知すると、パワートランジスタを止めるためにゲートドライバをオフにしなければならない。さらにはこれらの回路を構成するICやトランジスタに電源を供給するPMIC(パワーマネジメントIC)も必要になる。つまりこれだけの機能が最低限インバータ回路に使われる。さらに回路を雷などにより過電圧や過電流から保護するための保護回路なども必要となる。EVに使用される半導体チップは多いのだ。
さらにオンボードチャージャー回路も欠かせない。ブレーキをかけても車輪は回っておりすぐには止まらない。そこで回転しているうちにモーターを逆の発電機として利用し発電した電流(電荷)をバッテリーに貯めるのである。つまり充電する。ここでもモーターからの交流電流を直流に替えるためのパワートランジスタが必要であり、それを駆動するためのドライバIC、さらに制御用のマイコンも必要となる。オンボードチャージャーと以下に述べるDC-DCコンバータにSiCが使われ始めており、SiCの最初の用途として実績を積む舞台となる。
3つ目はDC-DCコンバータと呼ばれる電源ICである。EVではセルと呼ばれる単三乾電池よりも少し長い電池を数百個直列と並列に接続して300〜400Vの高電圧を生み出し、モーターを駆動させるための電源としているのだが、これまでに紹介したマイコンやゲートドライバなどのICや制御回路を駆動するために、それとは別に3.3〜5Vの電源電圧を創り出さなければならない。トランスフォーマー(通称トランス)はとても重いためICを使って5〜12Vの直流電源を創り出す。この電源回路がDC-DCコンバータである。
そして、4つ目のバッテリー管理システム(BMS)は、数百個直並列に接続したセルの状態を1個ずつ管理して過充電にならないように守るための仕組みである。バッテリーは、通常、バッテリーパックと呼ばれ、EVの床一面に配置される(図4)。バッテリーパックは10〜12個のバッテリーモジュールで構成されており、1個のバッテリーモジュールには数十個のセルが直並列に接続されて1つのモジュールを構成する。
このバッテリーモジュール内のセル1個1個にはどうしてもバラつきが発生する。1つのセルが80%まで充電したのに、別のセルがまだ70%しか充電されていなければ、先行するセルの充電を止め、遅いセルが80%充電されるまで待たなければならない。これを1つひとつモニターし、制御するICが必要となる。これがバッテリー管理IC(BMIC)である。ICの集積度によるが、このBMIC1個で12〜14セル分を受け持つことが多い。リチウムイオン電池は過充電となるとガスが発生して体積が膨張し発火したり爆発したりする危険があるためだ。これを防ぐためにBMICは欠かせない。もちろん、ここでもマイコンは全体を制御する上で必要となる。
シリコンのIGBTからSiC MOSFETへの移行は、コストの問題以外に、使いにくさの面も実はまだある。高速動作が可能な反面、急速のオンオフ動作によりオーバーシュート*4やアンダーシュート*5が起きるため、それらを防ぐ回路が必要になる。ただし、これについてはこれまでの高速・大電流の回路技術を応用することで解決できる道はすでについている。
最後まで付きまとう問題はやはりコストである。ウェーハコストだけでもSiCはシリコンの10倍もする。また高温動作ができる反面、高い温度での熱処理が必要で特殊な装置、炉心管*6も必要となることから、プロセスでもコスト高は避けられそうにない。そこで各社はSiC結晶作成からデバイス製作(前工程)やパッケージ(後工程)まで自社で扱うことでコストを下げようという戦略を立てている。SiCの安定供給がコストダウンにもつながるため、一日も早い量産ラインの構築が求められそうだ。
EVの動力となる電気を使ったエレクトロニクス機能はますます増えていく。走行中のクルマの前後左右の他のクルマや自転車、歩行者を見つけ、それを避ける行動に移すという自動運転は言うまでもなく、クルマ同士、クルマと交通信号機や道路サーバーとの間の通信機能もエレクトロニクス・半導体技術で実現する。要は新しい未来の機能は全て半導体で実現すると言っても言い過ぎではない。半導体以外にそれらを実現する手段がないからだ。
EVは、そもそも自動運転や通信などの機能を実現するのに向いている。内燃エンジン車は発電機を回して電気に変換する必要があるが、EVは最初から電気主体の乗り物であるため、将来に向けた様々な機能を実現することになじみが良い、という訳だ。次からいくつか未来の機能を簡単に紹介しよう。
自動運転の基本は、クルマの周囲に何があるか(対象物)を検出するセンサー、それを受けてその対象物は何かを見極める認識機能(ここにAI=機械学習が使われる)、さらに対象物がわかったらクルマの速度を緩めるのか、右へハンドルを切るのか、あるいは止まるのか、などクルマが行うべき動作を判断する。ブレーキを踏むのであれば、ブレーキパッドを動作するように、そのECU(電子制御ユニット:マイコンで構成される制御装置)へ指令を出す。するとブレーキパッドのECUはアクチュエータ(モーター)を動作させ車輪を抑える、という判断を行う。
その後は、周囲に何もなくなれば再びモーターの回転を速めるように指示を出す。ざっとこのようにして人間が操作しなくてもクルマは安全に動いてくれるわけだが、必ずしもこのようなストーリー通りには動かない。突然の子供の飛び出しには反応できなかったり、道路標識の余計な標語(例えば、「飲んだら乗るな」)を読むのに時間がかかりクルマの動作が遅れてしまったり、などの対応しにくい問題は山積している。このため、自動運転のレベルを5段階(あるいは6段階)に定め、一歩ずつクリアしてきている。現状では、人間が手を放して運転してもよいというレベル3まで来たが、自動車メーカーは時速30km以内での走行中に限る、という条件を付けている。
クルマ同士の通信接続(V2V:Vehicle to Vehicle)やクルマと交通信号器などとの通信接続(V2X: Vehicle to Everything)を意味するコネクテッドカーの試みも始まっている。クルマと外部の通信接続があれば便利な機能は増えてくる。例えば、クルマ内のECUのコンピュータ機能のセキュリティを強化するためのソフトウエアの自動更新は無線で可能になり、ディーラーにクルマを持っていく必要はなくなる。このOTA(Over The Air)機能はカーナビゲーションの地図を更新したり、内部のコンピュータのアプリケーションソフトを更新したりするのにも使う。これもTeslaのモデル3に搭載されている機能だ。
コネクテッドカーは、救急車両の駆け付けサービスから始まった。このサービスはヨーロッパで2018年4月以降、販売される新車に搭載することを義務付けるというもの。事故を起こしたクルマの運転手が意識をなくしても自動的に救急車が駆けつける技術で、車載センサーが自動的に事故を検知してセルラー通信を通してEU共通の緊急通報番号112に連絡するという仕組みになっている。クルマが取得した情報を元にGPSやGNSSなどの測位衛星が示す位置に救急車がいち早く駆け付けるため、命を救うことができる。たとえ事故が起きても命を救うというミッションに基づいている。
V2VやV2Xの目的も事故を防ぐことである。例えば、見通しが悪く信号機のない交差点でクルマ同士の衝突を防ぐために、横道に別のクルマがいること知らせてくれる(図5)。また、前方のクルマが道路上の障害物を見つけ、即座に車線変更すると後続車が障害物にぶつかってしまうという恐れもある。これも前方車が車線変更するという通知を後続車に知らせるような仕組みがあれば後続車は準備でき、事故を防ぐことができる。
この規格は、携帯電話の規格を決める団体3GPP(Third Generation Partnership Project)の5G通信規格の1つ、シリーズ16で定義されており、今後シリーズ16規格に準じた製品が出てくることになる。5G通信規格はシリーズ15から始まり、昨年シリーズ16が出たばかりである。
シリーズ16では、クルマが持つ時計機能もピタリと正確でなければならない。1台のクルマが12時ちょうど指していても別のクルマが12時1秒であれば衝突してしまう可能性があるからだ。世界標準時計があると言っても合わせられる時刻が決まっており、ずれている時間帯もある。そこで絶えず時刻を合わせることのできるGNSS衛星を使ってクルマ同士の時刻を合わせておけば、何時何分何秒にクルマ同士が出会うかを知ることができる。
クルマが事故を起こさないこと。それが自動車メーカーの最大のミッションである。このために機能ごとのカーコンピュータであるECUを多数搭載してきた。パワーウィンドウやワイパー、パワーステアリング、ウィンカーなどありとあらゆるところにECUを利用している。自動運転やコネクテッドカーとなれば、さらに多くのECUが使われるため、ECUとそれらをつなぐ配線でクルマは重くなってしまう。
そこで登場している概念がドメインアーキテクチャである(図6)。ドメインアーキテクチャは、いくつかのECUをまとめ1つのドメインと考え、1つのドメインコントローラで複数のECUを制御する。例えば図6のように、EVのドライブドメインでは、インバータやDC-DCコンバータ、BMS、パワーステアリング、ブレーキなどを1つのドメインと考えて、コントローラを1〜2チップにまとめている。また、安全性のドメインではエアバッグや照明(ヘッドライトやテールランプなど)をまとめている。
ドメインアーキテクチャの中核も、やはり半導体プロセッサになる。ECUの中核はマイコンだったがドメインの中核の制御はSoC*7主体となる。例えば、複数のカメラ映像やレーダー情報、Lidar(光による距離を測定するセンシング)など、複数のセンサー入力を受け付けるフュージョンドメイン*8では、さまざまなイメージングのデータが入ってくる。カメラ映像で十分な判断ができればよいが、濃霧や吹雪などの悪天候ではカメラ映像はあてにならない。そこでレーダー情報を使うことになる。それを制御するのがドメインコントローラである。
ドメインアーキテクチャは、いくつかのECUをまとめるという点で、仮想化技術と共通点がある。コンピュータの仮想化とは、1台のコンピュータで、まるでコンピュータが数台あるかのように見せかける技術である。1台のドメインコントローラでも数台のECUがあるかのように見せかければ仮想化技術そのものになる。ハイパーバイザーというソフトウエアで各ECUに相当する機能を切り替えていくのである。こうなるとクルマはますますデータセンターと同じように仮想化システムで動くマシンに近づいていく。この場合重要なのはやはりセキュリティをしっかり保つことである。
今後、クルマのシステムがデータセンターのコンセプトに近づくことは、EVのクルマ作りがシリコンバレーで始まったことと無関係ではないだろう。半導体技術を活用する新しいクルマ作りの動向はシリコンバレーがリードしていくことになるのであろう。
津田 建二(つだ けんじ)
国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト。
現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。
半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2025」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。