No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載02

本格的EV時代が目前、EVをもっと楽しくする技術

Series Report

第2回
EVの省エネ化と性能向上の鍵は電気回路にあり

2018.09.28

文/伊藤元昭

EVの省エネ化と性能向上の鍵は電気回路にあり

電気自動車(EV)を動かす機構は、大きく3つの主要部品で出来上がっている。1つはタイヤを回す駆動力を生み出すモーター、2つめは電力を蓄積するバッテリーである。一見、これだけでEVは走るように感じる。しかし、EVを省エネルギー性能と機動性に優れたクルマにできるか否かは、残りのもう1つ部品、インバーターの出来次第で決まる。インバーターとは、バッテリー出力である直流電力を、モーターを駆動する交流電力に変換する部品のこと。ただ単に変換するだけではなく、交流の周波数や電圧などを細かく制御し、モーターの回転数やトルクを調整する。これは、エンジン車のスロットルのような役割だ。EVを魅力的なものにする技術を紹介する本連載の第2回は、インバーターを中心とした電気回路の進化について解説する。

交流を直流に変える電気回路のことを、コンバーターと呼んでいる。パソコンの電源ケーブルについているACコンバーターはその代表例だ。逆に、直流を交流に変える回路は、インバーターと呼ばれている。

コンバーターの逆だからインバーター。この安直に名付けられた電気回路部品の進化こそが、世界中で進められているエンジン車からEVへの移行の成否を決めると言っても過言ではない(図1)。バッテリーに蓄積した電力を有効活用して長い距離を走るため、アクセルを踏んだ時にグイグイと心地よく加速するため、またクルマの軽量化や車内空間を広げるためにも、優れたインバーターが必要になる。

[図1] インバーターは電気自動車の性能を決める要となる部品
日産自動車の電気自動車「リーフ」に搭載されているインバーター(上)、
電気自動車中でのインバーターの役割(下)
出典:日産自動車のニュースリリース
電気自動車「リーフ」に搭載されているインバーター
電気自動車中でのインバーターの役割

そもそもインバーターって何?

インバーターの用途はEVだけではなく、家庭のエアコンや工場の工作機器、ソーラー発電システムなど、様々な機器や電気システムの省電力化に欠かせない。インバーターという名前を聞いたことがある人は多いと思うが、それがどのような回路なのか、またなぜ省電力化に欠かせないのかといったことまで知る人は少ないはずだ。そこでまず、インバーターの動作原理やその役割などについて解説したい。これは、EVの内部動作を理解するために必要な知識であるため、少し丁寧に解説しておこう。

その上でインバーター向けの新素材を用いた半導体を紹介したいと思う。

電力は、発電や送電、蓄電など、それぞれのシーンに合ったかたちに変えて扱う必要がある。これはクルマの内部に限らず、あらゆる電気・電子機器でも同様だ。電力のかたちと言っても、何のことだか分からない人も多いだろう。例えば、同じ100Wの電力を使う機器でも、パソコンのように直流電圧20V、5A で使う機器もあれば、電球のように交流電圧*1100V、1A で使う機器もある。さらに、交流ならば、極性が入れ替わる周期(周波数)や入れ替わりのタイミング(位相)など、多様なパラメーターを変えることができる。こうした違いを、ここでは電力のかたちと呼ぶことにする。

電力のかたちは、機器の性能や消費電力、信頼性*2、さらには電力損失の度合い*3に大きく影響する。このため、発電所から消費する機器へと電力を送る間には、通過する機器の種類や利用シーンに合わせて、何度もかたちを変えている。こうした処理のことを電力変換と呼ぶ。EV中の電力システムでも同様であり、バッテリーからモーターや様々な車載機器へ送られる間に、何度も電力変換が行われている。

直流電力は、かたちを決めるパラメーターが電圧値と電流値だけなので、電力変換の自由度が低い。これに対し、交流は、変動させるパラメーターが多様であり、目的に応じた電力のかたちを作りやすい。このため、電力変換によって、電力の性質を変える際には、インバーターを利用して交流にすることが多い。

[ 脚注 ]

*1
交流電圧: 交流での電圧は実効電圧、電流は実効電流で表される。交流では、電圧や電流が時間とともに周期的に変動している。このため、1サイクル分の平均電力を実効電圧や実効電流として使っている。
*2
パソコンなど電子機器の内部で様々な信号処理や制御を行う半導体チップを動かす電力は、1V〜5Vと低電圧の直流電圧でなければならない。これは、半導体チップ上のトランジスタをオン・オフするためには直流が必要であり、微細なトランジスタを壊さない低電圧で扱う必要があるからだ。クルマの中での制御や、これから登場する自動運転車で走行環境を判断するためのAIも、低電圧の直流電力で駆動する。
*3
例えば、火力発電所で作られる電力は通常数千V〜2万Vの交流であり、それを変電所に送る時には、27万5000V〜50万Vとさらに高圧の交流にしている。送電時の電圧を高くし、その分電流を小さくした方が、熱に変わって失われる電力を少なくできるからだ。そして、街中で見られる電線を流れているのは6600Vの交流で、電柱の上に置かれる変圧器によって工場で使われる200Vや家庭で使う100Vの交流に変えている。
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