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Science Report
サイエンス リポート

半導体産業復活の機運、
日本国内の半導体工場の最新情報

文/津田 建二
2023.11.02
半導体産業復活の機運、日本国内の半導体工場の最新情報

日本に新たな半導体工場を作る動きが活発になっている(図1)。TSMC(台湾)の熊本工場をはじめ、ラピダスやJSファウンドリなどのファウンドリ(製造請負サービスに特化した半導体メーカー)が生まれ、さらに台湾のPowerchipも日本にファウンドリを設立するための準備会社をSBIホールディングスと共同で設立する。急に日本の半導体工場が注目されるようになったが、これは、半導体産業がITサービスをテクノロジーで支えていることが、日本だけではなく世界中で認識されるようになったこととも強く関係する。つまり、AIやDX(デジタルトランスフォーメーション)、5Gなどの先端技術は半導体が提供しているのである。今回は日本の新たな半導体工場の現状を紹介し、次回は世界の新半導体工場について展望する。

世界の半導体工場の動向はこちら

日本国内の主な半導体工場一覧

日本の主な半導体工場
[図1] 日本の主な半導体工場
新設と記載されている工場は、2024年以降に建設が予定されている。

世界の主な新半導体工場はこちら

日本国内の半導体企業の世界シェア

かつては世界シェア50%以上もあった時代があった。日本がバブル経済だった時期と半導体がピークだった時期は、ぴったり重なる。その時代から日本の半導体シェアは坂道を転がるかのように落ちて2021年には10%まで低下した。22年には円安の影響によって、さらに9%に落ちた(図2)。

日本の半導体企業の世界シェアは9%に低下 日本の半導体企業の世界シェアは9%に低下
[図2] 日本の半導体企業の世界シェアは9%に低下
出典:SIA Factbook 2023

日本国内の半導体生産能力は他国に劣らない

ところが、日本の半導体工場における生産能力は、台湾と比べて、それほど劣っているわけではない。市場調査会社Knometa Research(アメリカ)によれば、2021年末時点での最新の数字は15%程度である(図3)。つまり、日本を本社とする半導体企業の半導体製品出荷額は9%のシェアしかないのにもかかわらず、日本国内の工場の生産能力は台湾の21%シェアに対して15%といい勝負をしていることを表している。これは国内にMicron TechnologyやTexas Instruments, UMC, Onsemiなど外資系企業の工場も生産しているからだ。ほぼ日本と並んでいる中国は国家号令で半導体製造能力を上げてきたが、日本も法案が整備され、これからは世界のコンペティタと一緒に、さらに生産能力を上げていくことになる。

2021年末における世界の半導体の生産能力
[図3] 2021年末における世界の半導体の生産能力
出典:SKnometa Research

それだけではない。日本の半導体生産能力は2017年時点でさえ世界で18%のシェアを持っていたのである(図4)。この図はIC Insights(アメリカ)(現TechInsights(カナダ))のデータを基に市場調査会社Statista(イギリス)がまとめたもの。

世界の半導体ファブ生産能力の推移
[図4] 世界の半導体ファブ生産能力の推移
出典:IC Insights、Statista

日本国内の半導体生産をリードしている主な工場

日本での半導体工場といえば、三重県の四日市と北上に巨大な工場を持つキオクシア、iPhoneのカメラ用イメージセンサを生産しているソニーセミコンダクタソリューションズ、ルネサスエレクトロニクスの那珂工場、ロームの京都本社工場や滋賀工場など多くの地方工場などが話題になるが、アメリカのMicron Technology、Texas Instruments、onsemi 、台湾のUMCなど、外資系半導体企業も日本に工場を持っている。特にonsemiは1~2年前まで日本の工場を主力工場としていた。

日本の大手半導体企業としては、キオクシアとWestern Digital(アメリカ)が、共同で運営する四日市工場第7製造棟の竣工式を2022年10月に行い、今後の量産に備えている。ただし、今年になってメモリ不況が本格化し、ユーザー、流通業界と共に在庫調整の完了を待っている調整段階に来ている。

ルネサスエレクトロニクスはマイコンに強く、アナログ半導体やパワー半導体も製造していた甲府工場を300mmのパワー半導体(IGBTなど)の工場に再生すると22年5月に発表した。25年に生産を開始する。ルネサスはパワー半導体分野において、300mmウェーハ化でコスト競争力をつけ、今後の成長につなげる。

Micron TechnologyはDRAM開発拠点である東広島工場にEUV装置を導入し、1γ nmの最先端DRAMを製造する、と23年5月に発表したが、今後数年で、この技術に最大5000億円を投資する。生成AIの演算にはDRAMが欠かせないため、高速・高集積DRAMの開発、製造を強化する。

日本国内には、昔から工場を運営しているTexas Instrumentsの美浦工場やonsemiの会津工場、UMCの日本法人であるUSJC(United Semiconductor Japan Co., Ltd.)三重工場などの外資系に加え、旧ミツミ電機とエイブリック(旧セイコーインスツル)を吸収したミネベアミツミ、旧新日本無線とリコー電子デバイスを吸収した日清紡マイクロエレクトロニクス、トレックス・セミコンダクター(製造部門がフェニテックセミコンダクター)など中小法人もあり半導体製造工場は決して少なくない。

相次ぐ新しい半導体工場の設立

外国企業の日本への誘致により、台湾の半導体ファウンドリのトップメーカーであるTSMCは、21年10月、熊本県に進出することを決めた。しかもTSMCの単独出資ではなく、ソニーの半導体部門であるソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)と、自動車の部品サプライヤー大手のデンソーも出資して、JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)と名乗り、熊本県菊陽町に工場を設置することになった。

この発表時点では、TSMCを誘致したからといって、日本の半導体産業が活気づくかどうか疑問視する声はあった。しかし、22年11月には日本企業による最先端の2nmプロセスの半導体製品を製造することを目標に掲げるラピダスが本格的な活動を開始、23年2月には北海道千歳市に工場を建設することを決めた。

M&Aアドバイザの産業創生アドバイザリや、国内ファンドのマーキュリアインベストメント、地銀系金融機関などが出資したJSファウンドリは、onsemiの新潟工場を買い取り、パワー半導体やアナログ半導体のファウンドリを開始する、と22年12月にラピダスに続いて発表した。

さらに23年7月には、SBIホールディングスが台湾のPSMC(Powerchip Semiconductor Manufacturing Corp.)と共に、日本に半導体工場を設立するための準備会社を設立することで合意に達した。2023年内には新半導体ファウンドリ工場の立地を決めるという。

23年6月には、NTTも子会社だったNTTエレクトロニクスを吸収合併し、新たに半導体メーカーとしてNTTイノベーティブデバイスを設立した。NTTは単なる通信業者からの脱皮を図り、コンピュータ分野へ進出を図るIOWN構想を推進しているが、昨年暮れに島田明社長が「半導体企業の協力なしにIOWN構想は実現できない」と述べていた。NTTイノベーティブの設立は、自らも半導体企業を持とうという意思の表れである。光半導体やフォトニクスを前工程からパッケージングまで製造する。

こういった動きが始まった背景には、半導体産業の経済的・社会的な価値を電子産業よりも製造業全体が認識するようになったことが大きい。その結果、政府の認識も高まり、経済産業省は、2021年6月「半導体・デジタル産業戦略」を発表し、その後、法案として修正、議会を通過させた。この結果、一企業のためであっても補助金を出せることになった。

JASMとラピダス 日本工場の現状

それでは、いくつかの日本の工場の現状を見ていこう。TSMCの日本子会社であるJASMは、2024年末に量産を開始する予定を目指し、熊本県菊陽町で工場建設を進めている。JASMの堀田祐一社長は、23年9月に熊本大学で開催された応用物理学会学術講演会で講演し、「工場建設の進捗率は95%を超えている」と述べた。また、TSMCからの出向社員と、その家族750名が熊本に移り住むことが明らかになり、その内の3割が工場のある菊陽町に住む予定だとしている。

JASMの概要は以下の通り。

  • 工場設置場所:熊本県菊陽町

  • 株主構成:TSMC(過半数)、ソニーセミコンダクタソリューションズ(20%未満)、デンソー(10%超)

  • 生産能力:5.5万枚/月(300mmウェーハ換算)

  • プロセス技術:22/28nmおよび12/16nm FinFET

  • 総従業員数:1700名

  • 稼働計画:2024年末生産開始

TSMCは日本に2番目の量産工場を建設する場合、2番目の工場も熊本を優先すると6月に述べているが、まだ決定はしていない。

ラピダスは23年2月に北海道千歳市に工場建設を表明した後、7月に工事計画説明会(1400名参加)を開催し、9月1日に建設工事の起工式を行った。工場は千歳空港のそばに設置し、建設主体は鹿島建設が担当する。24年の6月にクリーンルームの内装工事を行い、9月にファシリティ搬入を開始、12月に製造設備装置の搬入を開始するという計画を発表している。25年3月~4月にはパイロットラインの稼働を始め、量産開始は2027年になる予定だとしている。

工場ライン稼働から量産開始までは、初めての2nmプロセス工場としては性急な計画かもしれない。というのも2nmプロセスのトランジスタ技術をIBM研究所から導入しただけで、IBMは量産技術を捨てた経緯があり、しかも、量産前提の2nmプロセス開発はライバルのTSMCしか経験していないからだ。ラインの完成から、量産開始まではもっと時間がかかる可能性がある。

ラピダスの概要は、以下の通り。

  • 本社所在地:東京都千代田区

  • 資本金:73億4600万円(2022年11月時点)

  • 経営陣:取締役会長 東哲郎、代表取締役社長 小池淳義

JSファウンドリが運営するonsemiの新潟工場は、もともと三洋電機半導体が所有していた建屋。onsemiはパワー半導体の需要が高まり300mmウェーハの搬入を検討していたが、GlobalFoundries(アメリカ)から300mmウェーハ工場を買い取ったことで新潟工場を手放した。

日本の半導体工場は、ようやく自ら製造に力を入れるようになった。これまで、キオクシアだけは20nm以下の微細なシリコンプロセスを開発してきたが、ルネサスやソニー、ロームなどの半導体企業は、40nm以下のプロセス開発に積極的ではなかった。その結果、日本の半導体企業は、その後、主流となった28nmプロセス開発の世界的な動きから取り残されてしまったのである。ここにきてようやく半導体産業を復活させる機運が高まり、これから世界と渡り合えるようになる可能性が出てきたといえそうだ。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト。

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。

30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2025」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

URL: http://newsandchips.com/

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