No.004 宇宙へ飛び立つ民間先端技術 ”民営化する宇宙開発”
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目指すのは「シンプルで爆発しないエンジン」

LE-7Aは今までの打ち上げで一度も失敗したことがなく、非常に信頼性が高いエンジンであるが、2段燃焼サイクルは配管内に高温・高圧の燃焼ガスが通っているため、非常にデリケートな制御が求められる。副燃焼室へ供給する推進剤の混合比を間違えると材料の融点を簡単に超えてしまうため、爆発する危険性を常に内包しているのだ。

ところがエキスパンダーブリードは、燃焼室を冷却して暖められた燃料でタービンを回すため、そうした高温・高圧部がない。不具合が起きたときにも爆発に至りにくい、本質的に安全なエンジンであると言える。また4つのサイクルの中で最もシンプルであるため、コストダウンも容易。LE-7Aは10億円近くだが、LE-Xのコストはその半分を目指すという。

ただし副燃焼室を持たないエンジンは、本来、大推力化が難しい。そのため、これまで第1段の大型エンジンで採用された例はなかったが、LE-Xは燃焼室における吸熱効率を高め、少量の排気ガスでタービンを回せるようにしたことで、大推力エンジンへの道を開いた。これは、大きな燃焼室の内壁に微細な溝を作る、最新の製造技術によって可能になったという。

LE-Xは2013年度までのプロジェクトで、今年の秋に、実機サイズの燃焼室とターボポンプを使った試験が実施される予定。燃焼室とターボポンプはそれぞれ単独で試験され、組み合わせてエンジンとして完成した形となる計画はないが、技術実証として、これで目的は果たせるとのことだ。

安全性が高いエンジンは、衛星ロケットにはもちろん、有人ロケットにも適している。日本には今のところ、有人ロケットを開発する計画はないものの、将来のオプションの1つとして、準備しておくことは重要だ。もちろん、有人ロケットを開発するには他にも必要となる技術はあるが、LE-Xは大きな1ステップとなり得る。

種子島から日本人宇宙飛行士が飛び立つ——そんな日も、遠い未来ではないかもしれない。

[ 注釈 ]

*1
ISASとNASDAはその後、2003年に統合されてJAXAとなるが、それまで、ISASは科学衛星、NASDAは実用衛星と、分業体制で宇宙開発を進めることになる。
*2
衛星の開発が決まった順番でロケットの号機も決まるため、実際の打ち上げの順番は入れ替わることがある。H-IIでは、5号機の前に6号機が打ち上げられていた。
*3
次世代の基幹ロケットは、開発計画が決まれば「H-III」などの名称になるだろうが、本記事では仮称としての「H-X」という表記を用いる。

Writer

大塚 実

PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は『人工衛星の"なぜ"を科学する』(アーク出版)、『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』(講談社ブルーバックス)、『宇宙を開く 産業を拓く 日本の宇宙産業Vol.1』『宇宙をつかう くらしが変わる 日本の宇宙産業Vol.2』『技術を育む 人を育てる 日本の宇宙産業Vol.3』(日経BPコンサルティング)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min

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