No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

Expert Interviewエキスパートインタビュー

ユーザーの事情に合わせた細やかな対応

ユーザーの事情に合わせた細やかな対応

── デジタルを利用した送金サービスは他にもありますし、また従来の銀行がここに参入してくることも予想されます。その中でワールドレミットの強みは何ですか。

一つには10 年という先行した歴史があります。これは送金サービスにとっては古く、ユーザーがどこに送金したいのかに応えたコア・ビジネスを非常にうまく育ててきた証です。

また、その間、各国の事情に合わせながら、世界の隅々にまで届く送金ネットワークを構築することができました。さらに、種々のモバイル・マネーやデジタル・ウォレットとの提携は、世界でも最強のものの一つです。

現在その提携は35件以上に上り、これがユーザーにとって大きな便宜を図っているのはいうまでもありません。オーストラリアの送金者が、ケニアのMペサ(M-PESA)や中国のアリペイのアカウントに直接入金でき、受領者はすぐにその経済圏でお金を使える。

── そのスピーディーさは、今まで想像ができなかったことですね。

便利であると同時に、ここには重要なポイントがあります。銀行口座を持たない多くの人々にとって、モバイル・マネーやデジタル・ウォレットは最初にアクセスできるようになった金融サービスです。従来のキャッシュによる送金よりも手数料が断然安いこともあり、コスト効率やアクセスの点で経済的なインクルージョンを促すものにもなっているのです。

── そういう意味では、ワールドレミット自体は営利ビジネスですが、提供されるサービスは結果的に社会意識のあるものになっています。人々を助けるために、営利ビジネスではやらないようなことを実践しているという例はありますか。

それは答えるのが難しい質問ですね。ただ、そもそもワールドレミットは、母国に送金するより良い方法を生み出し、これまで目が向けられなかった人々にサービスを提供するために創設されました。我々のようなサービスによって、世界中での送金手数料が下がっており、それによって送金先のさらに多くの人々がお金を手にできるようになっています。

世界銀行の調べによると、リア(Ria)、マネーグラム(MoneyGram)、ウェスタン・ユニオン(Western Union)などの従来の国際送金と比べて、ワールドレミットの手数料は20%以上、ほとんどの銀行より45%以上安い。出稼ぎ労働者のお金を、手数料よりも送金そのものに向けることができるのです。

国際送金サービスの社会的ミッション

国際送金サービスの社会的ミッション

── 国際送金では、教育のために送ったお金が、遊んだり飲み食いしたりするのに使われてしまった、というケースがよくあると聞きます。送金されたお金の使途を特定する方法はありますか。

この辺りは個人の自律性に関することになりますが、問題はもっと現実的でしょう。料金支払いのサービスを利用するユーザーからのフィードバックによると、まさにちゃんと料金が支払われるために、このサービスを使っていると言います。

例えばオーストラリアからインドの電気代を送金する手続きをとれば、2つのことがはっきりします。一つは、お金が特定の目的のために使われること、もう一つは受領側の家族にそれをわからせることです。家族に送金して、家族が出かけて行って料金を支払うのではなく、このすべてがワンステップで済ませられるわけです。

── 今後数年、そしてさらに長期にわたってどんなロードマップを描いていますか。

国際送金業界は刻々と変化しており、5〜10年先を予想しようとするのは簡単ではありません。確実なのは今後もサービスを拡張して、新たな国々を追加していくことです。また、送金先の国でのデジタル化も進め、デジタルマネーによる受領を広げていきます。そして、料金支払いも拡大させる。ユーザーや各国のニーズに合わせたサービスを、ますます向上させていきたいと思っています。

── あなた自身は、2020年1月にワールドレミットに移籍しましたが、前職は従来型の有名銀行です。なぜ移ったのですか。そして、同じ金融業界であっても、会社の雰囲気にどんな違いがありますか。

リテール・バンキングでは、明らかにデジタルへのシフトが見られます。そのため、地元銀行の支店を訪れていた人々が、どんどんオンラインのアプリに移っている。それなのに、国際送金はまだまだ現金に頼っていることに驚いたのです。そして、いずれここもデジタル化されるのならば、私自身の経験がこの分野で役立つはずだと考えました。

なぜワールドレミットに加わったかについては、やはり創設された際の社会的ミッションや人々の経済的安心を掲げていることに惹かれるものがありました。そして、ここで働くスタッフについても、各国のマネージャーから本社のエグゼクティブに至るまで、組織内のすべてのレベルで優れた人々がいると感じました。オーストラリアで最長の歴史を持つ銀行と10年前に創設された会社とでは、その違いは歴然としています。ワールドレミットは、まさに「ディスラプター*1」という雰囲気です。

WorldRemit(ワールドレミット)

[ 脚注 ]

*1
ディスラプター:デジタル・テクノロジーを利用するなどして、既存業界の効率化を計ったり間隙を突いたりして、新しいビジネスを打ち立てる破壊創造的なスタートアップ企業のこと

イラッド・ドイチ氏

Profile

スコット・エディントン(Scott Eddington)

WorldRemit(ワールドレミット)アジア・太平洋地域マネージング・ディレクター

シドニーを拠点とするワールドレミット(WorldRemit)の、オーストラリア、ニュージーランド、日本、香港、シンガポールなどの地域を担当する。前職では、オーストラリアのコモンウェルス銀行でデジタル戦略を率いた。それ以前は、マッキンゼーなどで国際的な経験を積み、ロンドン、日本、シンガポールでの在職歴を持つ。

Writer

瀧口 範子(たきぐち のりこ)

フリーランスの編集者・ジャーナリスト。

上智大学外国学部ドイツ語学科卒業。雑誌社で編集者を務めたあと、フリーランスに。1996-98年にフルブライト奨学生として(ジャーナリスト・プログラム)、スタンフォード大学工学部コンピューター・サイエンス学科にて客員研究員。現在はシリコンバレーに在住し、テクノロジー、ビジネス、文化一般に関する記事を新聞や雑誌に幅広く寄稿する。著書に『行動主義:レム・コールハース ドキュメント』(TOTO出版)『にほんの建築家:伊東豊雄観察記』(TOTO出版)、訳書に 『ソフトウェアの達人たち(Bringing Design to Software)』(アジソンウェスレイ・ジャパン刊)、『エンジニアの心象風景:ピーター・ライス自伝』(鹿島出版会 共訳)、『人工知能は敵か味方か』(日経BP社)などがある。

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